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この世界でただ1人の人間の戦い  作者: 冒険好きな靴
第3章 地獄篇 ラース領ラース街
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39話 隠された通路

 〜ルフェシヲラ視点〜


 魔王様は、特別な力をお持ちだ。

 他の悪魔には無い能力を使用出来る、特別な存在。

 だが、そんな魔王様にも欠点はある。


 悪魔の能力の中で最も基本的な能力。

 そして、最も重要な能力。

 テレパシーと、心を読む能力が全く使えないのだ。


 普通悪魔というのは、生誕したその瞬間から心を読む能力が身に付いている。

 だが、代々このラースを統治する当主の一族はその能力を持っていない状態で産まれてくる。

 一族の継承する、特別な能力のせいだ。


 世界を渡る者。

 闇の意思の秘密を知る者。


 特別な能力が所以で、魔王様はこう呼ばれる。

 この呼び名は、魔王様自身の功績を称えられて呼ばれている訳ではなく、特別な能力を持って生まれた一族の当主が、代々通り名として呼ばれるものだ。

 それ程までに、魔王様の持つ能力は異質だ。

 ・・・心を読む能力を扱えなくなるぐらいに。


 強力なチャントを付加出来る悪魔は、得手不得手が必ずハッキリしている特徴がある。

 例えば、風の能力を最大の力まで発揮出来る悪魔は、その分だけ他の能力を覚える才能というのを打ち消している。

 極めれば極める程、全く使えなくなるのだ。


 魔王様の例で言うと、特別な能力を持って産まれた代償に、通常の悪魔が持って産まれるはずの、心を読む力を持っていなかったことになる。

 普通はそんなことは無い。

 心を読む力は、習得するしない以前の問題で、悪魔が無条件で元々持つ唯一の能力だ。

 この力を持って産まれなかった悪魔はいない。

 だが、運命干渉系能力を持つ者は、その心を読む力を失って生まれてくる。


 その理由は、運命干渉系の能力者の数が少なすぎる為によく分かっていない。

 一説には、運命干渉系能力は他の後天的に習得する能力と違い、先天的に持って生まれることしか得ることの出来ない能力だからだと言われている。

 運命干渉系の能力以外には、他の悪魔全てが持っている心を読む能力しか、先天的に発現する能力は無いから、その関係で心を読む力を失って産まれてくるのだと。


 なんにせよ、結果的に特別な能力を持って誕生した特別な者が、心を読む力を失って産まれてくることは確かだ。

 そして、心を読むことを前提に習得する能力がテレパシーだ。

 魔王様は、テレパシー自体は受信出来るものの、送信は出来ない。

 これが元々危うかった魔王一族の立場をさらに危ういものにしている。

 その危うい立場に今もなお、威厳を持って君臨されているのが、魔王サタン様なのだ。


 心が読め無いと言うことは、この悪魔の社会において共存や協調が非常に危ういことを意味している。

 目が見えなかったり、歩けないなどの障害を持っていることよりもハンディキャップを抱えていると言えるのだ。

 単なる身体的障害ならば、高名な治療能力者によって治療は出来るが、これが能力のこととなるとどうしようもない。

 

 だから、誰かが魔王様を守らなければならない。

 だから、私達が守るのだ。


 かけがえの無い私達の王を。


 人間の到来。

 地獄の異変。


 今、この世界は再び混沌へ飲まれようとしている。

 あの時のように。


 だから、より一層気を引き締めなければいけない。

 魔王様を守らなければいけない。

 そう思っていたのに・・・


 私は、テレパシーの使えない魔王様のお傍に付いていなければいけなかった。

 少なくとも、このラース街に人間がいる間は。


 そしてこの時間には、もうすでに人間の説得に魔王様が入っているはずだ。

 それは事前に分かっていた。


 なのに・・・なのに・・・

 私は違和感を微塵も感じることなく、魔王様から離れて業務を行っていたのだ。


 思考と行動が矛盾している。

 だが、まるで気付かなかった。

 ・・・気付けなかった。


 ガラスの割れるような音が響く共に、結界が破られるまで。


 そして、異常事態に対して気付けていないことに私が気付いた時、これはあの方の仕業だとすぐに分かった。

 違和感を感じさせずに、他の者を自然に誘導出来るという離れ業を持つ者を、私はあの方しか知らない。


 正直、してやられたと思った。

 あの方なら、周りにいる悪魔達も自然に違和感なく誘導出来るだろう。

 王立騎士団ですらも。


 そうして私が謁見の部屋に駆けつけた時には、魔王様の気配がドアの向こうから感じられなかった。

 恐る恐るドアをノックする。


 ・・・何の反応も無い。

 私は恐れてドアを開け放つ。

 何事も無かったことを信じて。


 だが・・・


 謁見の部屋はもぬけの殻だった。




 ---




 〜人間視点〜


 コン、コンッ・・・


 ノックの音が聞こえた途端、俺の心臓が高鳴る。

 まずい。

 魔王がいないこの状況を、他の悪魔に見られたらどう思われるか。

 当然、この状況を異常だと思うだろう。

 その時俺は、どうすればいい。


 俺は手に持った魔剣を見てみる。

 いざとなったらこれで応戦するしかないか・・・

 返り討ちにあうのがオチなことは分かってはいるが、これしかない。

 この部屋に逃げる場所なんてないのだから。


 「クソッ」


 ドアが開かれる。

 それに合わせて、俺も不器用ながら魔剣を構える。

 そうして出てきたのは・・・


 「・・・マリアさん?」


 そう。

 マリアさんだった。

 ただし、その体は半透明でうっすらと光り輝いている。

 まるで霊を見ているみたいだ。


 「マリアさん・・・ですか?」

 「・・・」


 マリアさんらしき姿をした半透明の存在は、俺を見つめたまま動かない。

 一体何をしたいのだろうか。

 と言うか、これは一体何なんだ?


 悪魔の能力だろうか?

 それとも地獄の自然現象?

 この室内で?

 ・・・室内の防犯装置的な何かとか。

 でも何故、マリアさんの姿をしているんだ?


 ・・・考え始めたらキリがないな。

 観察しながら考えていると、半透明の存在が突如動き出した。

 室内の奥、俺の方向へと。


 「・・・」


 俺は警戒する。

 とりあえず、横へそれて俺に向かってくるかどうかを確かめる。

 半透明の存在は、俺を無視してそのまま室内の奥へと移動し続けた。


 俺が目的ではない?

 どういうことだ?

 室内にある何かが目的だろうか。

 そのまま、半透明の存在を観察する。


 そして、室内のある場所で止まった。

 室内奥にある、本棚が置いてある場所だ。

 そこで、半透明の存在は本棚を指差した。


 「・・・何が言いたいんだ」

 「・・・」


 俺の質問に対して返答はない。

 口がきけないのだろうか。

 俺が訝しげに見ていると、突如として半透明の存在はもう一度、強調するように本棚を指差した。


 「そこに何かがあるのか?」

 「・・・」


 相変わらず返答はない。

 本棚に何かがあるのを伝えたいのは分かったが・・・

 コイツのやりたいことがよく分からない。

 目的は何なのか。

 一体どういう存在なのか。


 考えていると、半透明の存在は霧のようにあっという間に消えてしまった。

 サラサラと。

 跡形もなく。


 「・・・何だってんだよ」


 本音だ。

 状況が一転二転してよく分からなくなっている。

 自分が逃げなきゃいけないことは分かるが、どいつが敵か、どいつが味方かの判別が出来ない。

 ・・・今のは味方だったのだろうか。

 一応本棚に接近して、調べてみる。


 大きな本棚だ。

 人間の大きさ以上に大きい本棚。

 色々な本が、その本棚に詰まっていた。


 背表紙には、色々なタイトルが書かれている。

 その文字は本来なら俺が読めない文字だった。

 ダゴラスさん一家の家で見た、認定書と同じ文字。

 ルーン文字だ。


 今の俺は、不思議とスラスラルーン文字を読めている。

 マリアさんの知識付与の影響だろう。

 認定書の誤字脱字作業を手伝わされた時のテレパシー。

 俺はルーン文字を読めなかったから、文字を読めるようにしてもらったのだっけ。


 家での出来事を思い出しながら、本を眺めていく。

 そうしたら、ある本が見つかった。

 ・・・・認定書だ。

 家で見た、認定書とそっくりそのまま同じの本が、本棚の中に置かれていた。


 「・・・」


 俺は何となく、その本が気になって本棚からその本を取ってみる。

 前に見た時と変わらず、薄くて軽い本だなと思った。

 すると・・・


 ズズズと、本棚が急に横へ動き出した。


 「うお・・・」


 驚いて少し後ろに下がる俺。

 まさかこんなギミックがあったとは・・・

 いや、でも王の住んでいる城に隠し通路があることなんて、別に珍しくないのかもしれない。

 むしろ、そんな仕掛けがない方が珍しいのか?


 ズンッと、本棚は横へ動くのを止めたようだった。

 丁度、人がギリギリ通過出来る大きさの入り口が現れた。

 隠し通路か・・・


 通路の中を恐る恐る覗いてみると、意外なことに明るかった。

 どうやら、転移回廊の時に見た光る石が天井に組み込まれているようだ。

 その光る石が照らす先。

 そこはどこまでも下に続く階段だった。


 この階段はどこに繋がっているのだろうか?

 この部屋自体は結構な高さに位置しているが、どこまで続くのか。

 そして、この先には何があるのか・・・


 「行ってみなければ分からないよな・・・」


 いつだって、そんな結論に落ち着いてしまうのがこの世の中だ。

 世の中って言っても、ここは地獄だが・・・


 さて、ここに隠し通路があるのを教えてくれた?のは、あの半透明の存在だ。

 姿はマリアさんそのものだったが・・・


 姿形がマリアさんにそっくりだったからって、マリアさんだという確証はどこにもない。

 当然信用も出来ない。


 だが、このままドアのある出口に向かって行くのも、あまりよろしくない。

 この城を警備している悪魔が、うようよいるだろうし。


 そして、警備している悪魔に接触するリスクを犯してまで、さっきまで俺がドアのある出口から突っ切ろうと思っていたのは、そこしか出口がないだろうと俺が思っていたからだ。

 しかし、こうして他の出口が示された。


 ・・・俺を捕まえることを望んでいる奴らなら、ただ俺を悪魔のいるドアの先に行かせればいい。

 俺があっけなく捕まるか、殺される可能性の方がでかいのだから。

 が、半透明の存在は別の道を示した。

 もしかして、声なき声が言っていた俺をサポートしてくれる奴なのだろうか。


 ここで悩んでいる間にも、時間は刻一刻と進んでいる。

 タイムリミットは1時間だろ。

 さっさと行動しなければ、それこそ手遅れになる。


 この出口がどういった意図で示されて、どこに繋がるのかは分からない。

 分からないが、行くしかない。

 リスクの道と、未知数の道があるなら、俺は未知数の道を選ぼう。

 ギャンブルってやつをしてみようじゃないか。


 もちろんギャンブル染みているからって、やけっぱちになっている訳ではない。

 絶対にこの街から脱出してやるのだ。

 ここに閉じ込められるのも、ここで殺されるのも俺はゴメンだ。


 俺は握っている魔剣を強く持ち直す。

 もしかしたら魔物も出てくるかもしれない。

 いざとなったら戦闘も覚悟しよう。


 そう結論を出して、俺は明るい階段を下へと進んで行くのだった。


 

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