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人はそれ、死にぞこないという。

「んで、結局どうすんだ、これから」


考えあぐねる。

勇者討伐をするにしても、リーズをうまく

使いこなさねばならない。そこは魔族、やっぱり

己の力の無さをよくよく知っている。

だいぶ冷めた湯呑を手に、のんびりと座っている二人。

……結局、お茶を飲めだの飲むだのと不毛な争いを

し終えたあたりなので、若干、場の空気が緩やかである。


「そうだな……、リーズは魔界を知りたいから、

 こっちに来たんだよな」

「ん、でも、あの警戒態勢じゃ、堂々と侵入は無理か」

「……お前、堂々と入る気でいたのか」


さすが人間。

場の空気を読め、と思ったが、少しは読んだから、

私の後ろをついてきたものらしい。


「や、だって、ひとりにしたら、またキルベアに襲われるかもしれない」

「死んだりしたら、寝覚め悪いよな」

「ああ」


そこで力強く否定しないのが、リーズの人間らしいところだ。

ちょっとだけ、がっくりときた魔族。

……いや、なんでがっかりしなきゃならないんだ、と、

主人公、魔族らしくない気持ちに戸惑い、

その気味の悪さに、ため息をつく。


「はぁ、なんでこんなことになったんだかな……」


ついてるんだか、ついてないんだか。

変な人間と知り合って命拾いしたのが、

ある意味、運の尽きなのかも……、

魔界の首都では慎ましく生活していた魔族、

昨日今日と、破天荒な日々を送る羽目になったことに、

急に疲労感を覚えた。

リーズは、お茶を飲み干したので、暇そうに、空を仰いでいる。

薄紫の、天空。

つられて見やれば、いつもの空模様が広がっていた。


「魔界って、いつもこの天気なのか」

「そうだ。

 魔族は、太陽の光を嫌うからな、基本的に」

「溶けるのか?」

「ドロドロに溶解はしない、てか、液体にはならんがな……、

 まあ、好みではない。基本的に。

 要は、気分だ」

「気分?」

「魔族は気ままだ。束縛を嫌う。

 だから、太陽に従うのを拒絶する。

 もちろん、神にだって」

「……なるほどな」


頷くリーズをしり目に、私は、これから先のことを幻視する。

正直、このままの状態でいられるわけがない、その未来を見据えた。


「なぁ、リーズは、どうすんだ?」

「俺か」

「ああ」


訊ねる。

すると彼は、その青き双眼を、魔族に向けて笑う。


「……何がおかしい」

「いや、もう、とる術は、ひとつしかない、と思ってね」

「ひとつ?」


頷くリーズ。

その上下する黒髪、艶やかさがまったくもって、失われていない。

少なくとも、2、3日は風呂入っていないはずなのに、魔族との

髪質の違いに、なんとも愕然とする思いだ。


「人間界へ戻る、という選択肢さ」

「は?」


戦慄した。

そうして、マジマジと見返す。

リーズは、口角を上げて、してやった、みたいな笑顔でいるが、


「おい、そんなドッキリ、私はいらんぞ」

「けどさ、このままじゃ、入れない。

 あんなに警備ばっちりじゃ、いくら勇者でも、侵入するにしても、

 時間がかかる。ある程度の策がないと、入り込めやしない」

「む……」

「それに、人間って速攻でバレるんだろ、魔族に」

「むむ、よく覚えてるな、人間のくせに」


勇者、そうだ。

私は、その勇者にほんのちょっと、傷でも与えてやれば、

勝てるのだ。人生という名の勝利者になれる。

人間界で用意周到に準備をすれば、少しは箸にかかるかもしれない。

私の眼の色が変わった、と見るや、リーズ。


「ってことでさ、カイン、人間界に行こうよ。

 魔族だけどさ」


爽やかに、破顔する。

どちらかというと男顔の良い顔立ちをしたリーズに、

ここまでされて、喜ばぬ人間はいないだろう。

が、私は魔族である。


「つか、さりげなく名前呼びするな、あと、

 私を本気で殺す気か」

「え、殺す気ならいつでもヤレるけど」

「やめろ、死にたくない」

「なら、いいだろ別に。

 俺の住む国だ、別に悪いことなんてしないよ、

 俺がいれば大丈夫、問題ない」

「大問題だろ……」


どう考えても、魔族が人間界に受け入れられる雰囲気を

イメージできない。魔界のように、ゴミ屑みたいな目で

衆目に晒されるのがオチだ。あるいは、人間だから、

魔族には考え及びもつかない地獄の技術で、生きながらに

串刺しされるかもしれない。怖い。一言でいえば、恐怖。


「リーズ、お前な……、

 前にも言っただろ、人間と魔族の敵対関係について」

「ああ、覚えてるよ」

「なら、私が人間界に行ったところで……!」

「じゃあさ、いつまでも冥土の森に閉じこもってるの?」


リーズの、その水面みたいな眼差しを向けられ、

うっ、と。言葉が詰まる。


「いつまでも食糧があるわけじゃないよ、カイン」

「だから、その名前で……!」

「なら、戻るしかない。

 君は、故郷に戻れない。

 なら、俺の国、人間界へ、進むしかないじゃないか」


そうして、目元を緩めるリーズ。

微笑み、といえるだろう。野郎に微笑まれてばかりいる、というのは、

なんとも、怖気が走る気が……、というか、これは、

コケにされてるのでは、と。

内心、むくむくと反抗心が盛り上がってくる魔族。

面を伏せ、必死に、己の内心と戦っている。


「……いい」

「よし、じゃあ、」

「もう、いい、って言ったんだ」


生き残りたいのなら、人間の言う通りにしたほうが、

寿命は延びる可能性があった。しかし。

リーズは、やっぱり人間であり、魔族は魔族。

カインと呼ばれること、久しからずな魔族は、

禍々しいものを見るがごとく、リーズを一瞥し、

すっくと立ち上がる。人間見下ろす歪む口元を、露わにした。


「私は私の道を逝く」


たとえ、自由を得て死ぬとしても。

それは本望だと。

私の本能が叫んでいるのだ。

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