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(うぅ…)


次は右へ。


(あ、あれ…?)


また戻ってきて左へ。

そして、右から戻ってきた。


(三階は…)


階段を上がっていき、下から戻ってくる。

響は結局、さっき掛かったものとほとんど同じ術式を描いて仕掛けたって言ってた。

ちょっと違うのは、並大抵では破れないようにボウヘキを付けておいたってところみたいだけど、どう違うのかは自分には分からない。


(えっと、えっと…)


キョロキョロと見回して、術式のある場所を探してるみたい。


(うーん…。見えない…)


また下へ行って、上から帰ってくる。

右へ行って、左から帰ってくる。

その間に必死に探してたみたいだけど、見つからないまま。

そして、廊下の隅の方にへたりこんで。


(うぅ…。怖いよ…お腹空いたよ…)


泣き出したところで、光が合図を出す。

それを受けて、響が術式を破った。


「ね。自分がやったことが、どんなことか、これで、分かったでしょ?」

(え…?あ…)

「他人にやってる間は気付かなかったかもしれないけど、自分がやられてどうだった?イヤじゃなかった?」

(イヤ…)

「じゃあ、もうやらないって、約束してくれる?」

(うん…)

「よかった。じゃあ、この子に言うことがあるでしょ?」


響に押されて、黒い龍の前に立つ。

黒い龍は、おどおどした様子でこっちを見ていて。


「誰か、分かるよね?」

(さっき回廊に掛かった人…)

「そうだね。それで?」

(ごめんなさい…)

「だってさ、ルウェ。どうする?」

「もういいんだぞ。怒ってないよ」

(よかった…)

「よかった、じゃないでしょ。本当は、もっときつく、お仕置きしないと、いけないんだからね。今日は、特別」

(はぁい…)


光に叱られて、ガックリとうなだれる。

…そういえば、千早も黒い龍だった。

この子の名前はなんて言うんだろ…。


「さぁて、部屋に戻ろっか。まだ謝る相手もいるしね」

(えぇ…)

「文句、あるの?あなたが、蒔いた、種でしょ」

(うぅ…)

「リュウ、寂しがってないかな」

「大丈夫でしょ。絶対捕まえてくるって約束したし」

「それは、関係あるのかな…」

「たぶんね~」


一人で寂しがってなければいいけど…。

歩き出した光についていって、部屋に戻る。



誰かが宿に来たみたい。

下が少し賑やかになった。


「ありゃ。喧嘩してるみたいだね~」

「ホントだ」

「誰かな」

「分からないけど、たぶん知らない人だと思うの」

「そうだね」

(それより離して!)

「ダメだよ。今日一日、わたしのおもちゃになるって約束したじゃない」

(してない!)

「あ、聞こえなくなった」

「宿に入ったみたい」

「喧嘩したまま来るのかなぁ」

「さぁ。でも、一緒に、ごはんを食べる人が増えて、良かったじゃない」

「喧嘩してなければ歓迎するけどね~」

「大丈夫なの。たぶん」

(響のバカ!離して~!)

「はぁ…。誰なのかなぁ…」


喧嘩は良くないけど、ごはんをたくさんの人と食べられるのは嬉しいんだぞ。

望もお兄ちゃんも、どうなってるか分からないし…。

早く良くなってほしいんだぞ…。


「ところでさぁ、チビは契約はしてないんでしょ?」

(チビじゃないもん!)

「何言ってるのよ。クルクスはかなり大きくなるって聞いたことあるよ。それを考えれば、かなりチビだと思うよ」

(チビじゃ…ないもん…)

「それで?契約はまだなんでしょ?早く良い人を見つけなさいよね」

「響。その言い方は、少し、意味が違ってくると思うよ」

「そうかな」

「生涯の、伴侶を、求めるような、言い方じゃない」

「あぁ、そっちか」

「ショウガイノハンリョって何?」

「良い人だよ」

「響。それじゃあ、全く、意味が分からないよ」

「んー?」

「ルウェなら、大好きで大切な夫を見つけるってことなの」

「祐輔?」

「えっと…それが誰かは分からないけど、たぶんそうなの。ルウェがそう思うなら」

「ふぅん…」


ショウガイノハンリョ…。

大好きで、大切な夫…。

姉さまならセトなのかな。


「だから、そんなのを買う余裕なんてないって言ってるでしょ!」

「俺が稼いだ金なのに、毎月五百円しか小遣いがねぇってどういうことなんだよ!買いたいものも買えないから、買ってくれって頼んでるんじゃねぇか!」

「新しい背負い袋なんていらないじゃない!今ので充分でしょ!」

「今のでは小さいんだよ!このパンパン具合が見えねぇのか!さらに言うと、少なくとも半分はお前の荷物だ!」


そして、扉が勢いよく開いた。


「あ、あれ?」

「間違えたか…」

「す、すみませんでした!」


喧嘩をしていた二人は慌てて戸を閉めようとしたけど、響が素早く止める。

二人は一瞬キョトンとして。


「まあまあ。これも何かの縁。お二方も、ここで雑魚寝しようよ」

「え、あ、でも…」

「ほら、上がって上がって」

「え、えぇ…?」


響に無理矢理押し込められた二人は、もう何がなんだか分からないといった様子で。

光が出してきた座布団に、正座をしていた。


「あ、あの…」

「ちょっと待ってね。今、お茶を入れてるから」

「に、兄ちゃん…」

「………」


カチコチに固まった二人。

どうしたのかな。

響の歓迎が強引だったのがダメだったのかな。

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