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「ベラニクって、まだ遠いのか?」

「せやな…。あの山越えて、もうちょい行ったところやな」

「俺なら半刻もあれば着くけどな」

「誰もお前の話などしていないだろう」

「せや。どうせみんなで行くんやしな」

「分かってるよ…」


大和はそっぽを向いて、不機嫌そうに尻尾を振った。

でも、半刻で行けるなんて、どんな速さなんだろ。

気になるんだぞ。


「お腹空いたの」

「なんや、唐突に。しかも、昼にはまだ早いぞ」

「むぅ…」

「干し肉ならあるよ。食べる?」

「うん」

「俺にも」

「大和の分はないよ」

「なんだよ、ケチだな」

「干し肉というのは非常食の役割が強い。ついでに自分も、というようなおやつ感覚の者には渡せないのだろう」

「そうだね」

「なんだよ…。もういい。気が削げた」

「それより、はい。あんまり食べ過ぎないでよ。お昼もすぐなんだから」

「うん」


リュウは干し肉を受け取ると、すぐに食べ始めた。

それを見てると、それに気付いたリュウがニッコリと笑って、半分千切って渡してくれた。


「はい。ルウェにもあげる」

「ありがと」

「優しいお姉ちゃんだね」

「えへへ」

「…望は優しくねぇけどな」

「何か言った?」

「いや。気のせいじゃねぇのか?」

「しかし、望は相手を指定しなかったにも関わらずお前が即答するということは、少なからずお前には思い当たる節があるのだな」

「ねぇよ!」

「ふむ。そうか」


カイトはわざとらしく首を傾げる。

あんなこと言ってたけど、絶対に大和が望の悪口を言ったこと、知ってるんだぞ。


「そういや、昨日の声は誰やってん」

「え?」

「昨日の声や」

「あ、あぁ、あれ。な、なんでもないよ」

「どんだけ動揺してんねん」

「知り合いなのだろう」

「違うよ!師匠だよ!」

「ほぅ。師匠なのか」

「え?」

「今、自分でゆうたぞ」

「えっ、嘘」

「嘘ゆうてどないすんねん…」

「望の師匠というのは、美希という者か」

「知ってるの?」

「いや、前に話してたし…」

「あれ?そうだっけ?」

「紅葉が美希と組んで旅してたってこと聞いて、そんときに喋ってたぞ」

「あぁ…喋った気もする…。でも、そのときカイトっていなかったよね」

「契約者の五感と私たち聖獣の五感は、任意に共有することが出来る」

「紅葉と別れるときにも説明しなかったか?」

「あー、したかも」

「お前なぁ…。物忘れも大概にしとけよ…」

「何よ、ちょっと忘れてただけじゃない」

「ホンマかなぁ…」

「もう…」

「ま、ええか。そんなこと」

「そうだよ。変なところで細かいんだから」


そして、望はため息をつく。

でも、なんだか安心したようなため息だった。

何に安心したのかな。


「そうだ、大和。紅葉さんからは連絡ないの?」

「ん?んー、あるみたいだ」

「えぇっ!?」

「はは、忘れてた」

「お前はいつもそうだな。肝心なところが抜けている」

「い、いいじゃねぇか。気付いたんだし」

「今回はな」

「今回はってことは、気付かなかったこともあるの?」

「大和は、すっぽかしの達人だからな」

「な、なんだそれは!」

「そのままの意味だが」

「ふぅん…」

「ち、違うからな!俺は、約束を守る狼だ!」

「ほぅ。約束の時間、家で寝ていた回数を言ってやろうか」

「ちょっ!待てって!」

「何回なの?」

「百や二百では足りない数字だ」

「えぇ~」

「おい!」

「なるほどなぁ。こりゃ、女との約束を忘れてフラれたことあるタチやな」

「いや、それはない。別れる以前の問題で、今まで片想いしか経験していないからな」

「おまっ!余計なことばっかり言うんじゃねぇよ!」

「しかし、相思相愛となったのは明日香とだけではないのか?」

「そうだけどさ…って、そういう問題じゃねぇんだよ!」

「ふむ?」

「まあまあ。ええやないか。そんな話のひとつやふたつ、誰でも持ってるもんやって」

「ひとつやふたつで済めば良いんだがな」

「もう余計なことは言うなよ!」

「ふむ。それは残念だ」

「余計なことって自覚あるんかい…」


大和は、明日香まで誰とも付き合ったことがないの?

自分は…祐輔。

祐輔、他の子のことが好きになったりしてないかな…。

なんだか、ちょっと心配なんだぞ…。


「それで、何の話だったっけ?」

「ふむ?」

「俺の話じゃないからな!」

「いや…お前の話やし…。紅葉からの報告はどうなっとんねん」

「あ、そうだよ。紅葉さんの報告!」

「待てって。すぐには出てこない」

「ヤーリェは大丈夫なのか?」

「いろはお姉ちゃんも、干し肉が好きなの?」

「いや、それは分からんやろ…」

「よし。どうやら、ユンディナ旅団の分隊に会えたらしい。そこでヤーリェを診てもらうと、同じような症状を何回か見たことがある、というようなことを言ってたらしい。でも、今は有効な治療法はないらしい」

「えっ、じゃあ、ヤーリェは…」

「いや、放っておいても三日から一週間ほどで治るらしい。それで、その言葉通り、今はヤーリェもだいぶ良くなったみたいだな」

「でも、結局、何の病気かは分からなかったね」

「それは、ユンディナ旅団があらゆる地域に調査員を派遣して調べている最中だそうだ。最近、急激に増えた病気みたいだから、もしかしたら何かの伝染病の可能性もあるとのことだ」

「えっ、伝染病…?」

「まだ仮説の段階で、同じ場所で多くの人に症状が出たというような報告はないから、ひとまずは安心してもいいらしい」

「そう…。でも、すごく詳しいね」

「紅葉だからな」

「どういう意味?」

「あいつは、大雑把なくせに細かいんだ」

「……?」

「力抜くところでは力抜いて、きっちりするところではきっちりするってことやろ」

「あぁ、なるほど。なんか、そんなかんじもするよね」


狼の姉さまは、とても優しい。

たぶん、オオザッパとか細かいとかとは違うと思うんだぞ。

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