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「おはようございます、ルウェさま」

「うん…。おはよ…」

「今日は早起きなんですね」

「うん…」

「まだ眠たそうですね」

「うん…」

「もう一眠りしますか?」

「うん…」

「さっきから頷いてばかりですね」

「うん…」

「ふふふ。では、お休みなさい」

「お休み…」


深い霧が、あたりを覆っていた。

クノお兄ちゃんに頭を撫でられて、ゆっくりと意識が遠のいて…。



目を開けると、あたりはまだ霧で真っ白だった。

さっきから、まだちょっとしか寝てないのかな…。

でも、毛布の中でしばらくモゾモゾとしていると、何かおかしいことに気が付いた。


望…?


望もお兄ちゃんも明日香も。

悠奈も七宝もカイトもリュウも大和もクノお兄ちゃんも…いない。


望…お兄ちゃん…。


名前を呼んでも誰も答えてくれない。

毛布から出て周りを見回してみても、誰もいない。

何もない。

木も草も、空も地面もなかった。

自分一人が、白い世界の真ん中に浮いていた。


……?


いつの間にか、毛布も消えていた。

これでついに、自分一人だけの世界になってしまった。


望…望…。


今どこを見ているのか、どっちを向いているのか。

真っ白な世界では何も分からなかった。


望…。


と、そのとき。

真っ白の世界の中にひとつ、黒い炎が燃えているのが見えた。

手を伸ばせば届く距離にあるようにも見えるし、遥か遠くにあるようにも思える。


明日香…。


なぜだか、そんな気がした。

明日香がこっちに尻尾を振って合図しているような、そんな気がした。

知らない間に、黒い炎を追いかけていた。

前に進んでいるのか、後ろに退がっているのか。

それは分からないけど、とにかく黒い炎の方へ走った。

黒い炎はどんどん大きくなっていく。

近付いている証拠なのか、本当に黒い炎が大きくなっているのかは分からない。

この真っ白な世界は分からないことばっかり。

でも、答えてくれる人がいないってことだけは分かる。


………。


目の前に黒い炎があった。

今度こそ、手を伸ばせば届くところに。


………。


怖くはなかった。

ゆっくりと、その炎の中へと入っていく。


黒…。


炎の中は真っ黒な世界だった。

でも、真っ黒じゃなくて、たくさんの色が見えた。

黒は全部の色を混ぜた色。

葛葉が教えてくれた。


「赤…黄色…白…銀色…蒼…」


あれは何色かな。

何色でもない色。

…みんな、ここにいた。

帰ってきたんだ。

ただいま…。



何か生ぬるいものに頬っぺたを撫でられて目が覚めた。

眩しいのを我慢して目を開けると、赤色のものが目の横を通っていった。


「わっ、明日香!」

「ワゥ」

「えへへ。くすぐったいんだぞ」

「あ、ルウェ。起きた?朝ごはん、出来てるよ」

「望…」

「ん?どうしたの?」

「ううん。なんでもないんだぞ」

「そう?」

「えへへ」

「ふふ、どうしたのよ。笑って。変なルウェ」

「うん!」


望だ。

望。

毛布から抜け出して、望に抱きついてみる。


「今日は甘えん坊だね。ホントにどうしたの?」

「ん~」


おでこを望のお腹に擦り付ける。

望はクスクス笑いながら、そっと頭を撫でてくれた。


「朝から仲良しですね」

「クノお兄ちゃん!」

「はい。どうしました?」

「んー、なんでもないよ」

「ふふふ。そうですか。それよりルウェさま、龍紋が出ていますよ」

「えへへ。綺麗?」

「はい、とっても」


クノお兄ちゃんは、龍紋に沿って顔をなぞってくれた。

くすぐったくて嬉しくて。

指の先をちょっと噛むと、クノお兄ちゃんはニッコリ笑ってくれる。


「ふぁ…。お前ら、朝から元気やのぅ…」

「おはよ、お兄ちゃん!」

「ほいほい、おはよ。いつになく元気やな」

「うん!」

「それより、望。朝ごはん頼むわ」

「もう…。ちょっとはルウェの相手もしてあげたら?」

「ん?んー…ほれ」

「あたっ」


お兄ちゃんにおでこを弾かれた。

おでこをさすっていると


「もう!なんでそうなのよ!」

「ええやないか、別に」

「朝ごはん抜きにするからね!」

「ほなら、自分で作るからええわ」

「お鍋も食器も、全部こっちで使ってるからね」

「煮たり焼いたりするだけが料理やないんや」

「みんなで一緒のものを食べましょう。その方が精神的にも良いです」

「ん?クノ?なんでこんなところにおるん?」

「え?覚えてないの?」

「はぁ?」

「大丈夫ですよ。前後の記憶は飛ぶものなんです」

「へぇ~。そうなんですか」

「何を二人で納得しとるんや」

「なんでもないよ」

「……?」


お兄ちゃん、昨日の夜のことは覚えてないみたい。

じゃあ、大和も覚えてないのかな。


「それより、ほら。ルウェに朝の挨拶」

「さっきしたがな…」

「デコピンが挨拶だなんて認めないからね」

「お前が認めんでも、ルウェが認めたらええねん。な、ルウェ」

「んー」

「な、ルウェ」

「諦めが悪いよ」

「ふふふ」

「おい、クノ。何がおもろいねん」

「いえ。いつもこうなんですか?」

「さあな。知りたいんやったら、一緒に旅したらええ」

「ふむ。それも良いかもしれませんね」

「そうですね。お兄ちゃんと大和の喧嘩もすぐに止めてもらえるし」

「どういうことや」

「さあね~」


望はクノお兄ちゃんと目を合わせると、ニヤリと笑った。

…それにしても、あの世界は何だったのかな。

何もない、真っ白な世界。

リュウは明日香に顔を舐められて、モニュモニュと寝言を言っていた。

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