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「叶わぬ願いはそのまま花のように散り、風に乗って遠くへ飛んでいった。野を越え、山を越え。海でさえ越えたかもしれない。いつか叶うその日まで。願いはいつまでも旅を続けた。…おしまい」


一度、カイトは目を瞑ると、またゆっくりと開ける。

そして大きく深呼吸をして、歩き始めた。


「しっかし、なんや後味悪い話やな」

「む?そうか?私はそうは思わないが」

「でも、女の子の願いは結局叶わなかったんでしょ…?」

「さあな。私はここまでしか知らないから、どうなったのかは分からない」

「終わり方からして叶わんかったかんじやけどな。まあ、結末を敢えて言わんことで、想像力を養わせようとすんのは昔話の常套手段や」

「きっと女の子は人間になれたんだぞ。自分は、そう思うな」

「わたしも、そう思うの。人間ガンジーサイトウが馬なの」

「ガンジーサイトウ…?」


なんか強そうな名前なんだぞ…。

でも、馬って言ってたから…。


「人間万事塞翁が馬、だろ。しかも、今は意味も合ってないと思うぞ」

「そうなの?」

「人間万事塞翁が馬ってのは、何が禍となったり福となったりするか分からないという意味だったはずだ。この場合はなんて言うんだろうな…」

「ふむ。石の上にも三年…でもないしな」

「栄枯盛衰…」

「それはちゃうやろ」

「赤い月」

「え?」

「赤い月、なんだぞ」

「赤い月といえば、転生や浄化の象徴だな。赤い月が昇るときは月光病も発症しないとも聞いたことがあるな」

「へぇ~」

「ん?空気中の塵に光が反射して赤く見える…とかとちゃうん?」

「それは一般論だ。赤い月は、限られた者しか見えないとも聞く。隣同士で座っていた者の一方は普通の月を、もう一方は赤い月を見たという噂もあるくらいだからな」

「ふぅん…」


赤い月。

姉さまと葛葉が教えてくれた。

赤い月は、身体から心まで全部を綺麗にしてくれるって。


「きっと赤い月なら、女の子を人間にしてあげられるんだぞ」

「そうかもね。それにしても、赤い月かぁ。最近はあんまり見なくなったなぁ」

「はぁ?お前、見たことあるんか?」

「うん。私は"見える人"みたいだね」

「ほぅ…」

「一番最近に見たのはルウェと会ったときかな。あのときはすごく綺麗な赤色をしてた」

「えっ、そうなの?」

「ふむ…。記憶を見る限り、確かなようだ」

「ちょっと、カイト!勝手に見ないでよ!」

「見たのは赤い月の部分だけだ。望の不利益になるような記憶は見ていないし、見ていたとしても口外することはない」

「それでもダメ!」

「ふむ。では、以後気を付けるとしようか」

「もう…」

「へへ、オレは契約してへんからな。赤っ恥の記憶は封印しとけるで。羨ましいか?」

「ふん。お前自身の記憶は封印出来るだろうが、俺の記憶は封印出来ねぇぞ。お前が寝小便太郎だったときの話を言いふらしてやろうか」

「はっ。やれるもんならやってみろよ。オレかて、お前の"武勇伝"を振り撒く準備は出来てるで。来るんやったら、はよ来んかい」


はぁ…。

また始まったんだぞ…。

と、カイトが二人の横に立って睨みつける。


「お前たち、五月蝿いぞ。喧嘩をするなら特別な場所を用意してやる。雲の上か海の底か。どっちがいいか選べ」

「ふん。不死鳥のジジィが、どうやって海の底に行くんだよ」

「私が行く必要はない。海にも私の友人はいるし、わざわざ頼まなくても、重りを付けて放り込めばいい話だ。海の底は静かだぞ。行ってみるか」

「…ちっ」

「だいたいなんだ。お前たちは身体だけ大きくなって、中身は成長していないのか。特にお前だ」

「はぁ?オレかよ」

「望が好きなのは分かるがな、ちょっかいを出しすぎると嫌われるぞ」

「は、はぁ!?なんでオレが!」

「なんだ。望のことが嫌いなのか」

「え…いや、そりゃ…」


お兄ちゃんは望をチラリと一瞬だけ見て、すぐに目を逸らした。

リュウは、なんだか興味津々ってかんじで。


「そりゃ、好きやけど…。妹としてな」

「なぁんだ」

「…リュウ?」

「あ、あはは。なんでもないの!」

「……?」

「リュウ。こいつに色恋沙汰を求めても無駄だぞ。浮いた話なんてひとつもねぇからな」

「それは、お前が知らんだけや」

「あぁ、そういや、女だと思って告白したやつが男だったってことはあったな」

「ふん。お前かて、告白して振り向いたら、目当ての女の子の代わりにルィムナがいたってことあったやろ」

「どこでそんな情報を仕入れてくるんだ」

「さあなぁ」

「またか、お前たちは。全く学習も成長もしないんだな」

「…ふふふ。告白したら男の子だって。聞いた?」

「ワゥ」

「そうだね。大和のも可笑しいよね~」

「うん。面白いんだぞ」

「ねぇ、もっとないの?」

「あるぞ。たくさん」

「おい、カイト」

「話したら、お前から海に沈むことになるぞ」

「おぉ、怖いことだ。しかし、お互いの赤っ恥を晒し合うのがいかに滑稽でバカげたことか、これで分かっただろう」

「あはは、告白したのが神様だったって…!」

「望。笑いすぎだ」

「でも…!あはは、お兄ちゃんのも面白いし…!ねぇ、もっと聞かせてよ…!」

「ああ。また今度な」

「「カイト!」」


お兄ちゃんと大和の声がピッタリ重なった。

望もリュウも、お腹を抱えて笑って。


「くっ…ふふふ」

「ルウェ!耐えてたんやったら最後まで耐えろよ!」

「あはは、無理なんだぞ…!」


こんなに可笑しいのに笑わないなんて無理…!

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