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「右だ」
「分かっとる」
「何が?」
「ルウェ、リュウ。そこから動かないでね」
「うん…」「……?」
また誰かいるの…?
怖いのはイヤなんだぞ…。
「大丈夫だよ、ルウェ。わたしが守ってあげるからね」
「リュウ…」
「旅団天照の護衛付きか。ほなら、安心出来るな」
「…お兄ちゃん」
「ああ。大和」
「分かってる」
お兄ちゃんが手で合図をすると、大和が左側の草むらに入る。
明日香は、ピッタリと自分とリュウの横について。
「何が目的か知らんけどな、あんまり付け回すようやったら、こっちにも考えがあるぞ!」
そして、お兄ちゃんは立ち止まるように指示してくる。
風が、森の道を吹き抜けていくのが分かった。
「狼が一匹…」
「はぁ?」
「ここにいるのだが…お前たちの狼か…?」
「誰やねん。まず姿を見せんかい!」
「いや…それはまだ出来ない…」
「……?」
「いずれまた会おう…」
「待てや!誰やねん、お前は!」
「もういねぇよ」
「はぁ?今さっきまで声しとったやん」
ガサガサと草むらから大和が出てくる。
…左の草むらに入ったはずなのに、右から出てきた。
なんで…?
「匂いは追えないぞ。ホントに、霧みたいなやつだな…」
「ちっ…。誰やねん…」
「まあいいじゃない。盗賊とかじゃなかったんだから」
「ん?お前、なんや嬉しそうやな」
「えっ、そ、そんなことないよ!」
「ふぅん…?」
「は、早く行こうよ。ベラニクに着くのが遅くなるよ」
「…まあ、せやな」
「おい、納得するのかよ」
「ええんちゃう?今んとこ不利益は被ってへんし」
「そう言ってしまえばそうだがなぁ…」
「まあまあ」
「むぅ…」
「ねぇ、望がもうずっと先に行っちゃったんだぞ」
「ワゥ」
「え?」
「おい、望!戻ってこい!」
大和が呼びかけても、望は戻ってこない。
そのまま、木の向こう側に行って見えなくなった。
「あぁもう!あのアホは何しとるんや!」
「先に行って止めてくる」
「ワゥ」
「ああ。頼むわ」
大和と明日香は走り出して。
あっと言う間に見えなくなった。
「…オレらも行こか」
「うん」
「望お姉ちゃん、何があんなに嬉しかったのかな?」
「さあな。さっきの声と関係あるんやろうけど…」
「知り合いなのかな」
「さあ。オレにはさっぱり分からん」
「でも、あの声ってどこから聞こえてたの?いろんな方向から聞こえたんだぞ…」
「あぁ、あれは簡単な仕掛けや。今探しても、もうないやろうけど」
「どんな仕掛けなの?」
「薄い紙かなんかを両側にピンと張った筒みたいなんを用意して、一方に糸を取り付ける。ほんで、その糸の端をまた別の筒に付ける。ふたつ目の筒は紙を一方だけに張っといて、開けといた方から喋るんや。ほしたら、声が糸を伝ってひとつ目の筒に行く。それが糸を付けんかった方の紙を震わせて、そこからも声が出てるように聞こえるって寸法や。まあ、この方法では声が籠って、なかなか上手くいかんねんけど…。分かるか?」
「全然分かんないんだぞ」
「うん。分かんない」
「せやな…。ほんなら…」
お兄ちゃんは、その辺にあった棒切れで地面に絵を描き始めた。
「これがひとつ目の筒。両側に薄い紙や。ほんで、こっから糸を伸ばして二個目の筒。これは一方が開いてる。こっから喋るんやな。ほんで、それが糸を伝わって紙を震わせる。ほしたら、その震動が筒の中を通って向かい側の紙を震わせる。ほんだら、これが声になって聞こえる」
「へぇ~」
「分かったか?」
「うん。だいたい」
「だいたいか…」
「音って震動なの?」
「せやな。空気が震えるのが音…」
「きゃあ!」
「望!?おい、ルウェ、リュウ!急ぐぞ!」
「うん…!」「分かった!」
お兄ちゃんは棒切れを捨てると、すぐに走り始めた。
自分も…
「ルウェ、行くよ!」
「え、え?」
リュウに胸のあたりをガッチリ掴まれて。
そして、空中に浮いたのが分かった。
「わわっ!?」
「あまり動かないで。まだ上手く風を操れないから…」
「風?」
「うん」
そういえば、疾風の術式がどうとかって言ってた気がする…。
じゃあ、こうすれば…
「うわぁ!な、何!?」
「風、なんだぞ」
「えっ、これ、ルウェが…?」
「うん」
「速い、速いよ!こんな速いの、初めてなの!」
「リュウ!あ、危ないから真っ直ぐ飛んで!」
「あはは、ごめん」
「ふぅ…」
姉さまと葛葉の力。
上手く使えて良かったんだぞ。
「お兄ちゃん、お先に~」
「ん?おぉ、速いな」
「じゃあね~」
お兄ちゃんも追い越して。
…それにしても、望たちはどこまで行ったのかな。
まだ見えない…。
「あっ、いた!」
「どこ?」
「そこ!」
リュウは翼を広げて急停止する。
その流れで、そっと地面に下ろしてくれて。
ちょっと躓いたけど、ちゃんと着地出来た。
「望!」
「あ、ルウェが一番だね」
「……?」
「うわっとと」
「リュウが二番だね」
「うべっ…」
「だ、大丈夫?」
「うぅ…」
リュウは着地に失敗して転んでいた。
服の前は土だらけになって。
「怪我はしてないね。良かった」
「ねぇ、望。どうしたの?」
「まったく…。下らねぇことを考えるもんだ…」
「……?」
「それにしても、お兄ちゃん、遅いね」
「だから言っただろ。飛ぶ方が速いんだよ」
「あ、見えた」
「ねぇ、望。大丈夫なの?」
「え?あ、うん。大丈夫だよ」
「でも、さっき…」
「あぁ、あれはね…」
「いや待て。あいつが来てからの方が手間も省けるだろ」
「そうだね」
「……?」
なんだか変なんだぞ。
望、どうしたのかな…。
…しばらく待っていると、お兄ちゃんが走って来て。
「おい、望。さっきのはなんやねん」
「えっとね、実は…私が悲鳴を上げたら誰が一番先に来るかって賭けをしてたんだ」
「………」
「あたっ!な、何するのよ…」
「お前アホか!果てしなくアホやろ!どんだけ心配した思とんねん!前のこともあるし…。何を浮かれてるんか知らんけどな、やってええことと悪いことがあるぞ!」
「………。ごめんなさい…」
「…はぁ」
お兄ちゃんはため息をつくと、もう一回、望の頭を殴る。
「いたた…」
「…これでええわ。な、ルウェ、リュウ」
「うん」「何もなかったなら良かったの」
「ワゥ」
「そうだな。こうなることは簡単に予想出来た」
「予想しといて止めんかったんか?」
「いや。止めたけど、俺らには望の口を塞ぐことは出来ねぇしな」
「はぁ…」
お兄ちゃんは、またため息をついて。
…何もなかったんなら良かったんだぞ。
怖い目に遭うのはイヤだし、みんなにも怖い目に遭ってほしくない。
でも、望がどう予想したのかは、ちょっとだけ気になるかな。




