表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
69/537

69

「右だ」

「分かっとる」

「何が?」

「ルウェ、リュウ。そこから動かないでね」

「うん…」「……?」


また誰かいるの…?

怖いのはイヤなんだぞ…。


「大丈夫だよ、ルウェ。わたしが守ってあげるからね」

「リュウ…」

「旅団天照の護衛付きか。ほなら、安心出来るな」

「…お兄ちゃん」

「ああ。大和」

「分かってる」


お兄ちゃんが手で合図をすると、大和が左側の草むらに入る。

明日香は、ピッタリと自分とリュウの横について。


「何が目的か知らんけどな、あんまり付け回すようやったら、こっちにも考えがあるぞ!」


そして、お兄ちゃんは立ち止まるように指示してくる。

風が、森の道を吹き抜けていくのが分かった。


「狼が一匹…」

「はぁ?」

「ここにいるのだが…お前たちの狼か…?」

「誰やねん。まず姿を見せんかい!」

「いや…それはまだ出来ない…」

「……?」

「いずれまた会おう…」

「待てや!誰やねん、お前は!」

「もういねぇよ」

「はぁ?今さっきまで声しとったやん」


ガサガサと草むらから大和が出てくる。

…左の草むらに入ったはずなのに、右から出てきた。

なんで…?


「匂いは追えないぞ。ホントに、霧みたいなやつだな…」

「ちっ…。誰やねん…」

「まあいいじゃない。盗賊とかじゃなかったんだから」

「ん?お前、なんや嬉しそうやな」

「えっ、そ、そんなことないよ!」

「ふぅん…?」

「は、早く行こうよ。ベラニクに着くのが遅くなるよ」

「…まあ、せやな」

「おい、納得するのかよ」

「ええんちゃう?今んとこ不利益は被ってへんし」

「そう言ってしまえばそうだがなぁ…」

「まあまあ」

「むぅ…」

「ねぇ、望がもうずっと先に行っちゃったんだぞ」

「ワゥ」

「え?」

「おい、望!戻ってこい!」


大和が呼びかけても、望は戻ってこない。

そのまま、木の向こう側に行って見えなくなった。


「あぁもう!あのアホは何しとるんや!」

「先に行って止めてくる」

「ワゥ」

「ああ。頼むわ」


大和と明日香は走り出して。

あっと言う間に見えなくなった。


「…オレらも行こか」

「うん」

「望お姉ちゃん、何があんなに嬉しかったのかな?」

「さあな。さっきの声と関係あるんやろうけど…」

「知り合いなのかな」

「さあ。オレにはさっぱり分からん」

「でも、あの声ってどこから聞こえてたの?いろんな方向から聞こえたんだぞ…」

「あぁ、あれは簡単な仕掛けや。今探しても、もうないやろうけど」

「どんな仕掛けなの?」

「薄い紙かなんかを両側にピンと張った筒みたいなんを用意して、一方に糸を取り付ける。ほんで、その糸の端をまた別の筒に付ける。ふたつ目の筒は紙を一方だけに張っといて、開けといた方から喋るんや。ほしたら、声が糸を伝ってひとつ目の筒に行く。それが糸を付けんかった方の紙を震わせて、そこからも声が出てるように聞こえるって寸法や。まあ、この方法では声が籠って、なかなか上手くいかんねんけど…。分かるか?」

「全然分かんないんだぞ」

「うん。分かんない」

「せやな…。ほんなら…」


お兄ちゃんは、その辺にあった棒切れで地面に絵を描き始めた。


「これがひとつ目の筒。両側に薄い紙や。ほんで、こっから糸を伸ばして二個目の筒。これは一方が開いてる。こっから喋るんやな。ほんで、それが糸を伝わって紙を震わせる。ほしたら、その震動が筒の中を通って向かい側の紙を震わせる。ほんだら、これが声になって聞こえる」

「へぇ~」

「分かったか?」

「うん。だいたい」

「だいたいか…」

「音って震動なの?」

「せやな。空気が震えるのが音…」

「きゃあ!」

「望!?おい、ルウェ、リュウ!急ぐぞ!」

「うん…!」「分かった!」


お兄ちゃんは棒切れを捨てると、すぐに走り始めた。

自分も…


「ルウェ、行くよ!」

「え、え?」


リュウに胸のあたりをガッチリ掴まれて。

そして、空中に浮いたのが分かった。


「わわっ!?」

「あまり動かないで。まだ上手く風を操れないから…」

「風?」

「うん」


そういえば、疾風の術式がどうとかって言ってた気がする…。

じゃあ、こうすれば…


「うわぁ!な、何!?」

「風、なんだぞ」

「えっ、これ、ルウェが…?」

「うん」

「速い、速いよ!こんな速いの、初めてなの!」

「リュウ!あ、危ないから真っ直ぐ飛んで!」

「あはは、ごめん」

「ふぅ…」


姉さまと葛葉の力。

上手く使えて良かったんだぞ。


「お兄ちゃん、お先に~」

「ん?おぉ、速いな」

「じゃあね~」


お兄ちゃんも追い越して。

…それにしても、望たちはどこまで行ったのかな。

まだ見えない…。


「あっ、いた!」

「どこ?」

「そこ!」


リュウは翼を広げて急停止する。

その流れで、そっと地面に下ろしてくれて。

ちょっと躓いたけど、ちゃんと着地出来た。


「望!」

「あ、ルウェが一番だね」

「……?」

「うわっとと」

「リュウが二番だね」

「うべっ…」

「だ、大丈夫?」

「うぅ…」


リュウは着地に失敗して転んでいた。

服の前は土だらけになって。


「怪我はしてないね。良かった」

「ねぇ、望。どうしたの?」

「まったく…。下らねぇことを考えるもんだ…」

「……?」

「それにしても、お兄ちゃん、遅いね」

「だから言っただろ。飛ぶ方が速いんだよ」

「あ、見えた」

「ねぇ、望。大丈夫なの?」

「え?あ、うん。大丈夫だよ」

「でも、さっき…」

「あぁ、あれはね…」

「いや待て。あいつが来てからの方が手間も省けるだろ」

「そうだね」

「……?」


なんだか変なんだぞ。

望、どうしたのかな…。

…しばらく待っていると、お兄ちゃんが走って来て。


「おい、望。さっきのはなんやねん」

「えっとね、実は…私が悲鳴を上げたら誰が一番先に来るかって賭けをしてたんだ」

「………」

「あたっ!な、何するのよ…」

「お前アホか!果てしなくアホやろ!どんだけ心配した思とんねん!前のこともあるし…。何を浮かれてるんか知らんけどな、やってええことと悪いことがあるぞ!」

「………。ごめんなさい…」

「…はぁ」


お兄ちゃんはため息をつくと、もう一回、望の頭を殴る。


「いたた…」

「…これでええわ。な、ルウェ、リュウ」

「うん」「何もなかったなら良かったの」

「ワゥ」

「そうだな。こうなることは簡単に予想出来た」

「予想しといて止めんかったんか?」

「いや。止めたけど、俺らには望の口を塞ぐことは出来ねぇしな」

「はぁ…」


お兄ちゃんは、またため息をついて。

…何もなかったんなら良かったんだぞ。

怖い目に遭うのはイヤだし、みんなにも怖い目に遭ってほしくない。

でも、望がどう予想したのかは、ちょっとだけ気になるかな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ