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「依頼所と食堂が一緒になってるなんて、便利ですね」
「情報収集といえば酒場、と相場が決まってますからね」
「あ、聞いたことあります。酒場は行ったことないですけど…」
「ふふふ。望さまが行ったことあるなら、そっちの方がびっくりです」
「なんで?」
「お酒は成人してからですよ」
「セイジン?」
「大人になるってことかな」
「望は大人じゃないの?」
「私なんてまだまだだよ。大人って言ったら、クノさんとかタルニアさんみたいな人かな」
「ふぅん。大人になったら結婚出来る?」
「出来るよ~。ルウェは誰か結婚したい人、いるの?」
「うん!祐輔!」
「あぁ、あの子。ふふ、良いんじゃない?」
「あっ、望、本気にしてないんだぞ!」
「え、えぇ?そんなことないよ~…」
「結婚するなら、契りの証人が必要ですね」
「あ!それ、持ってる!」
「え?」
背負い袋を開けて、ルウェに貰ったチギリノショウニンを取り出す。
それをクノお兄ちゃんに渡して。
「チギリノショウニン!」
「あぁ…聖獣との契りの証人ですか…。びっくりしてしまいました…」
「なんで?」
「いえ…。でも、ひとつだけなのですか?」
「うん」
「…ルウェかクーア、どちらかに貰ってないということはないですか?」
「あ、そういえば、クーアには貰ってない」
「やはり…。あとでちゃんと受け取ってくださいね」
「うん」
「あっ、そういえば、私もカイトから貰ってない」
「…物忘れが流行ってるんでしょうか」
「でも、それにしても、クノさん、詳しいですね」
「タルニアさまが契約する際、私もきっちり話を聞かされましたから」
「へぇ~。タルニアさんは、いつ契約したんですか?」
「ずっと昔ですよ。斡旋者のおじいさんに、偶然出会いまして。そのとき、カイトと如月とも出会ったんです」
「お待たせしました。鮭おにぎりです。あと、これが依頼書です」
「あ。ありがとうございます」
「美味しそうなんだぞ!」
「では、いただきましょうか」
「いただきます!」
「いただきま~す」「いただきます」
鮭おにぎりは両手で持たないといけないくらい大きくて。
でも、とっても美味しそうで。
「ルウェ、お箸もあるんだよ」
「うん」
「ワゥ」
「明日香のも頼んであるから、もうちょっと待って」
「………」
「どんな依頼が来てますか?」
「護衛希望とか納品希望とかが多いですね」
「お待たせしました。鶏の笹身です。ご注文は以上で揃いましたでしょうか?」
「はい」
「では、ごゆるりと」
「明日香のごはんなんだぞ」
「ワゥ」
「はい、どうぞ」
早速、ササミにがっつく明日香。
もっと味わって食べればいいのに…。
「この依頼は…」
「どうしました?」
「遙さん、こんな依頼出してる…」
「もしかして、旅団天照の遙ですか?」
「あ、やっぱり知ってたんですね」
「ええ」
「どんなの?」
「美味しい料理の作り方を教えてください、だって」
「美味しい料理?」
「日持ちして、携行に便利で、すぐに食べられる美味しい料理だって」
「はぁ…。またそんな依頼をしてるんですか…」
「旅人料理とかならいけそうですけどね」
「あの子、だいたい知ってますからね…。タチの悪いことに」
「へぇ~」
「遙お姉ちゃん、お料理上手なの?」
「そうですね…。十人並みといったところでしょうか」
「ジュウニンナミ?」
「普通ってことだね。上手でも下手でもない」
「ふぅん。じゃあ、上手な人はなんて言うの?」
「えっ。えーっと…ク、クノさぁん…」
「上手なら、遠回しな言い方なんかしないで、素直に上手いと言ってあげた方がいいと思いますよ。その方が嬉しいでしょう?」
「うん!」
「はぁ~、やっぱり大人ですね~」
「そ、それは関係ないかと思いますが…」
「ワゥ」
「え?あ、うん」
「どうしました?」
「明日香が先に帰るって言って」
「送りましょうか?」
「いいですよ。匂いを追って帰られますから」
「そうですか…。では、お気を付けて」
「………」
クノお兄ちゃんをジッと見つめると、明日香は開いていた窓から跳んで出ていった。
…外から悲鳴が聞こえた気がするけど、たぶん気のせいなんだぞ。
「うーん…」
「何をお探しなんですか?」
「えっとですね…」
「クノさま。クーア旅団のクノさまはいらっしゃいますでしょうか」
「え?はい、私です」
「依頼書が届いております」
「あ。どうも、ありがとうございます」
「すごいじゃないですか!指名依頼なんて!」
「そうですか?でも、おかしいですね…。旅団、または、旅団員宛の依頼は、全て旅団に届けられます。ここなら、あの宿屋ですね」
「そうなんですか?」
「はい。その方が効率が良いですし」
「へぇ~。まあ、とにかく見てみましょうよ」
「そうですね」
クノお兄ちゃんは、イライショを開いて中を見る。
望も横から覗いて。
「ねぇ、なんて書いてあるの?」
「護衛が必要そうな人物を斡旋してください」
「護衛?」
「なお、昼を過ぎたあたりに、改めてクーア旅団の宿屋へ伺います…」
「………」
「ねぇ、どういうことなの?」
「はは…。行き違いになったみたいですね…」
「帰りましょう!」
「そうですね」
「え?え?なんで?」
なんだかよく分からないうちに引っ張られてイライショの外へ。
すぐに馬車に乗って、来た道を引き返していった。