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「ふぁ…あふぅ…」
「どうしたの?」
「うん…。ちょっと眠い…」
「……?」
「お前は闇が強いな」
「うん」
「契約はしてないのか」
「契約?」
「ヤーリェは、狼さん?」
「うん」
「尻尾がフワフワだね」
「えへへ、ありがと」
柚香はヤーリェをあちこち触って確認をしている。
その横で、望は明日香を枕にしてもう眠っていて。
「柚香は、目が見えないの?」
「うん。………」
「……?」
「月が昇ってきたようですね」
「月が何か関係あるの?」
「月光病だね」
(月光病…)
「月の使徒さんには辛い名前かもしれないね~」
(ルィムナさまは関係ない…。関係ないのに…)
「そうだね。でも、月の光が私たちを照らす間、患者に症状が出るのも事実」
(うぅ…)
「柚香ちゃんは、元々は声が出なかったんだよね」
柚香はコクリと頷く。
いつの間にか、柚香の目の色は昼に見た赤色から透き通った黒色になっていて。
目が合うと、ニッコリ笑ってくれた。
「柚香、目が見えるの?」
「昼の症状は昼だけみたいだね~」
「みなさま、夕飯が出来ましたよ」
「ほれ、どけどけ。邪魔や」
「夕飯!」
「では、私は退散するとしようか」
「あらぁ?久しぶりねぇ」
「む?…あぁ、いつぞやの泣き虫令嬢か」
「泣き虫?」
「ふふふ。名残は尽きないけど、帰るなら仕方ないわねぇ。また会える日を楽しみにしてるわぁ。そのときにまたゆっくり話をしましょう」
「え?タルニアさん?」
「はは、あのお姫さまがずいぶんと偉くなったみたいだな。部下の前で昔の話をされるのは恥ずかしいかな?」
「クノ、水の準備を」
「は、はぁ…」
「おっと、怖い怖い。早々に去るとしよう」
また空気が一瞬熱くなって、そのままカイトは消えてしまった。
…お姉ちゃんはニコニコしてたけど、何か別のものも見えた気がした。
「さあ、夕飯にしましょうか」
「望お姉ちゃん、起きて。夕飯だよ」
「うーん…明日食べる…」
「アホか。起きろ」
「望は契約で疲れているのだ。もう少し労ってやれないのか」
「お前もいきなり出てくんな。熱いし。火事になる」
「私は火の使徒。ルウェのように、光だけ発せよというのは無理な相談だ。それに、私もさすがになんでも焼き払うというようなことはもうない」
「帰るんやったら、きっちり帰れってゆうてんねん」
「主に無理をしてほしくないと願うのは当然のことではないだろうか」
「あーもう!ルウェとちごて、お前はややこしいな!」
「私は思っていることを言っているだけだ」
「それがややこしいねん!」
「ふむ」
さっぱり分からないという風に首を傾げる。
そして、望を見ると少し目を瞑った。
「んぅ…。ん?あれ?」
「あ、起きた」
「どうしたの?夕飯?」
「せや」
「じゃあ、早く食べましょうよ。お腹が空いてたまらないんです」
「………」
「どうしたんですか?」
「ふふ、早く食べましょうか」
「ええ。冷めては勿体無いですし」
「オイラもお腹ペコペコ~」
「…もうええわ。どうにでもなれ」
カイト、何したのかな。
望はすっかり元気になっていて。
…お兄ちゃんはなぜか怒ってるみたいだったけど、柚香はそれを見て笑っていた。
お兄ちゃんの作ったお料理も、クノお兄ちゃんの作ったお料理も、すごく美味しかった。
望なんて、十五杯もご飯をお代わりして。
(望、すごかったね~)
(クーも見たかった!)
「クーアは、さっきまで寝てたじゃない」
(むぅ…)
「望さま、大丈夫だったのでしょうか…。夕飯が終わった途端、糸が切れたように眠ってしまわれて…」
「あぁ、あんなん心配いらん。カイトが夕飯の間だけ無理矢理に覚醒させてただけやから」
「そんなこと、出来るの?」
(ボクは出来ないけどね。カイトくらいの聖獣になってくると、自分の力を契約者に分け与えることが出来るんだって。大和が言ってた)
「へぇ~。ヤマトって誰?」
(大好きなお兄ちゃん!)
「こいつの先輩になるんかな。世話好きの物好きや。クーアでゆうたら如月やな」
「へぇ~」
「あなたは大和という聖獣を知っているのですか?」
「まあな。昔はオレも世話になった」
「ほぅ」
「良き友であった。昔も今も」
「いきなり出てくんな」
「懐かしい名が聞こえたのでな」
(カイト、大和と友達だったの?)
「ああ。今でもときどき顔を合わせる」
(へぇ~)
「それより、望はええんかい」
「我が主はよく眠っている。お姫さまは、今は私と話したくないと言っているしな」
「なんでお姉ちゃんがお姫さまなの?」
「うむ。まあ、複雑な事情があるのだよ」
「ふぅん」
「む?そこにいるのはクーアか?」
(あぅ…)
「私が火だからといって、恐れることはない」
(で、でも…)
「どういうこと?」
「その話は長くなる。また今度話したるわ」
「むぅ…」
「さて、クーアの娘にも嫌われてしまったようだし、私はこれで去るとしよう」
「結局、何しに来たんや…」
「ふふ、まあよいではないか」
「お休みなさいませ、カイトさま」
「お休み」(お休み~)
「ああ、お休み」
「もう来んなよ」
「善処しよう」
そう言って、熱気と一緒にカイトは消えた。
「では、私たちも寝ましょうか」
「うん」
「ふぁ…。ほなら、お休み…」
「お休み~」
ルウェとクーアはお兄ちゃんの布団に乗り、自分はまたクノお兄ちゃんの布団に潜り込む。
「お休み、ルウェ」
「お休み…クノお兄ちゃん…」
優しく頭を撫でてくれた。
とても気持ち良くて…。




