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「さぁて。じゃあ、行きましょうか」
「はい」
「ほなな。またあとで」
「ええ」
「行ってきま~す」
「行ってきます」
明日香とクノお兄ちゃんと一緒に街へ出る。
通りは人でいっぱいで、いろんな声や音が聞こえた。
「いるのかな」
「いるでしょうね」
「大丈夫かな」
「大丈夫ですよ」
「あっ」
「どうしました?」
「美味しそうなお菓子…」
「ふふ、買ってあげましょうか?」
「いいの?」
「ええ」
クノお兄ちゃんは通りを横切って、お菓子屋さんに近付いていく。
明日香も一緒に付いていって。
「すみません。誰かいますか?」
「はぁい。いらっしゃ~い。ゆっくり見ていってください~」
「ルウェさま、どれがいいですか?」
「うーん…」
「あれぇ?クーア旅団の方ですかぁ?」
「はい」
「いつもお世話になってます~。クーア旅団で買わせてもらってるいろんなところのお菓子、とっても人気なんですよぉ」
「ご贔屓にしていただき、ありがとうございます」
「クノお兄ちゃん、これがいい」
「はい。では、これを貰えますか?」
「はいは~い。二百円になりま~す」
「二百円ですね」
お財布からお金を取り出すと、お菓子屋さんのお姉ちゃんに渡す。
「はぁい、確かに~。オマケ、入れておきますね~」
「えへへ。ありがと、なんだぞ」
飴を二個、オマケで貰っちゃった。
お菓子屋さんのお姉ちゃんは、ニッコリ笑うと頭を撫でてくれた。
「またね~」
「はぁい。またね~」
そして、お菓子屋さんを出る。
「ねぇ、食べて良い?」
「良いですよ。でも、お昼ごはんを食べられるように…これだけですね」
「えぇ~…」
「ふふ、美味しいごはんを食べに行きましょう。美味しいごはんを美味しく食べるために、今は我慢してください」
「…うん」
「ルウェさまは良い子ですね」
クノお兄ちゃんは頭をポンポンと叩いてくれて。
美味しいごはんのために、今は我慢するんだぞ…。
クノお兄ちゃんとの約束…。
「はい、どうぞ」
「うん」
渡されたヨウカンは、ホントに少しだけだったけど。
思い切って口の中に入れてみる。
「ん!」
「どうですか?」
「あんまり甘くないけど、美味しい!」
「ふふふ。良かったですね」
「うん!」
でも、なんだか残念だったから少し指を舐めて。
お昼ごはんのあとが楽しみなんだぞ!
「あの…ルウェさま」
「ん?」
「少し寄りたい場所があるのですが…」
「どこ?」
「はい。妹の家でして…」
「真お姉ちゃんの?」
「そう…ですね。真も住んでいます」
「自分は、別に良いんだぞ。明日香は?」
「ワゥ」
「良いって」
「ありがとうございます」
そう言って、クノお兄ちゃんは通りから細い道に入って、どんどん進んでいく。
細い道には誰もいなかったけど、少しでもはぐれたら二度と元に戻ってこれないような気がするくらい、あちこちに曲がっていて。
…もう何回曲がったかも分からないくらい曲がったとき、急に広い道に出た。
「着きましたよ」
「うん。柚香の家」
「柚香にも会っていたのですか」
「昨日、お兄ちゃんと一緒に来たんだ」
「へぇ~。あの人は意外と顔が広いんですね」
「うん」
クノお兄ちゃんは戸の前に立つと、二回叩いて。
「柚香、いるか?」
「お兄ちゃん?」
「ああ。入るよ」
「はいは~い、どうぞ!クノ、お帰り~!」
「おわっ!?」
戸が突然開いたかと思うと中から誰かが出てきて、あっという間にクノお兄ちゃんを押し込んでいってしまった。
…誰?
「ん?おぉっ!?キミがルウェちゃん!?噂以上に可愛いね!」
「え、えぇ?」
「さあさあ、上がりなよ!お腹空いてる?なんでも作ってあげるよ!」
「か、母さん…。ちょっとは落ち着きなよ…」
「落ち着いてるさぁ。で、クノは何食べる?いやぁ、それにしても久しぶりだねぇ!」
な、なんだかすごくすごいお母さんなんだぞ…。
よく分からないうちに、柚香の部屋まで来ていた。
「あ、久しぶりだね」
「そうそう、久しぶり久しぶり。全然帰ってこないもんね。あまり心配しなかったよ」
「ルウェと明日香も来てくれたんだ」
「うん」「ワゥ」
「それじゃあさ。お母さんは昼ごはん、作ってくるよ。ゆっくりしてな」
「えっ、いや、昼は外で食べようかと…」
「ダメダメ。お金掛かるでしょ」
お母さんはクノお兄ちゃんを無理矢理座らせると、部屋から出ていってしまった。
クノお兄ちゃんはため息をついて、柚香はクスクス笑っている。
「母さんが休みだとは思わなかった…」
「ふふふ。でも、お母さん、すごく嬉しそうだったじゃない」
「…そうだな。それより、柚香。長之助から聞いてたけど…」
「うん。目、見えなくなっちゃった」
「柚香…」
「えへへ。でも、昨日、ルウェにも話したんだけど、私、辛くないよ。みんなの光が見えるようになったんだ」
「…そっか」
クノお兄ちゃんは柚香をギュッと抱き締める。
柚香は、その赤い目をそっと閉じて。