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「ルウェさま、起きてください」

「んぅ…」

「気持ち良さそうに眠ってるのに、起こしたら可哀想でしょ?」

「はっ、いえ、しかし…」

「起きてるんだぞ…」

「あーあ。起こしちゃった。ホント、気遣いが出来ないのねぇ」

「タ、タルニアさま…」


大きな欠伸をして、伸びをする。

うん、目が覚めた。


「ルウェさま…。寝ていて良いのですよ…」

「ううん。ばっちりだから大丈夫なんだぞ」

「は、はぁ…」

「ターニャ。こっちの準備は出来たで」

「き、貴様!タルニアさまに対して、なんて言葉遣いだ!それに、タ、ターニャなどと!」

「ええやないか。どうせヤマトまでや。我慢せぇ」

「なっ!」

「はいはぁい。喧嘩しないの。置いていくわよぉ?」

「………」「喧嘩にもなっとらんわ」

「望ちゃんはぁ?」

「さあな。その辺で用でも足しとるんと…あがっ!?」


後ろからやってきた望に脇腹を殴られて、お兄ちゃんはその場でうずくまる。

…痛そうなんだぞ。


「最低です」

「そうねぇ。乙女は繊細なのよぉ」

「乙女ってガラかいな…あだっ!」

「ふん」


お兄ちゃんの足を踏みつける。

あーあ、大変なんだぞ。


「それに、荷物の整理をしてただけですから」

「じゃあ、もう発てるのかしら?」

「あ、はい。大丈夫です」

「自分は…」

「ルウェのも、ちゃんと整理しておいたから大丈夫だよ」

「優しいお姉ちゃんなのねぇ」

「うん!望は優しいんだぞ!」

「………」

「あらぁ?何か言いたいことがあるなら、言っても良いのよぉ?」

「遠慮しときます~」

「ふふ、残念ねぇ」


お兄ちゃんはヨロヨロと立ち上がる。

望はそれを見て、少し不機嫌そうに尻尾を振って。


「さあ、行きましょうか。みんなに伝えてきてくれる?」

「はっ!」


短い返事をして、堅苦しいお兄ちゃんは走っていく。

そして、まだ真っ暗な森の中、ヤマトに向けて出発した。



カタカタと車輪が回る音がする。


「あの二人もねぇ、望ちゃんに何かしようと思って襲ったわけじゃないと思うのよぉ」

「はい」

「あらぁ?分かってたの?」

「私じゃなくて、荷物を狙ってましたから。あのときは動揺してて分からなかったけど…。あとでよく考えたら、そうだったなって。それに、この紋章も見えましたし」


望は、お姉ちゃんの首輪に掛かっている紋章を指す。

なんだか鳥のような、でも、ヤクゥルのとは違う紋章。


「ラズイン旅団。"裏"専門の盗賊。頭領はもちろん、構成員の顔すら分かっていない。分かっているのは、ラズイン旅団という名前と不死鳥を象った紋章だけ」

「なぁんだ。知ってたの?」

「知ってますよ!いろんなところで噂を聞きますから!」

「有名なのね。嬉しいわぁ」

「嬉しいって…」


お姉ちゃんは、本当に嬉しそうにニコニコしている。

有名…有名なのかぁ。

と、前の小さな窓が開く。


「タルニアさま。もうすぐ夜が明けます」

「分かったわ」

「何かあるんですか?」

「何もないけどねぇ。ただ、ラズイン旅団は夜の顔なのよ」


そう言って、お姉ちゃんは首輪を外して別のものに付け替える。

それには、さっきのとは違う龍のような紋章が付いていた。


「あぁっ!」

「ようこそ、クーア旅団へ。歓迎するわぁ」

「ホ、ホントなんですか?」

「ふふ、嘘をついてどうするのよぉ」

「ラズイン旅団がクーア旅団だったなんて…」

「クーア旅団って何なんだ?」

「全ての国から"治安維持認定"を受けてる旅団のひとつだよ」

「……?」

「どの国にも信頼されているってこと。ものすごくすごいことなんだよ」

「そうなの?」

「普通は、それぞれの国が持ってる警察組織とか軍隊が治安維持をするんだけど、"治安維持認定"を受けた旅団は、この警察とか軍隊と同じ権限が認められているの。認定旅団は、クーア旅団とユンディナ旅団、あとは、旅団天照の三つだけ」

「ふぅん…?」

「ルウェちゃんには、まだちょっと早いお話かもねぇ」

「むぅ…」

「それに、認定を受けたからといって、何か良いことがあるわけじゃないのよねぇ」

「そうなんですか?」

「認定はあくまで認定だから、仕事が貰えるのはごくごく稀よぉ。ほとんどタダ働きだし。だから、行商をしたり、盗賊をしたり」

「タルニアさま」

「ふふ、ちょっと喋りすぎたかしらぁ?」


お姉ちゃんがヒラヒラと扇子を振ると、堅苦しいお兄ちゃんは窓を閉めた。

チアンイジニンテイ…。

そんなにすごいことなのかな。


「ところで、あのムカラゥ弁のボウヤ。護衛かしらぁ?」

「はい。ヤマトまでの契約で…」

「そう。じゃあ、悪いことしちゃったわねぇ」

「えっ?」

「本当の兄妹より仲が良いように見えたけど?」

「あ…」

「馬車じゃあ、昼までに着いちゃうわねぇ」

「…良いんです。どうせ、私も早く離れたかったし」

「望…」


そんなことを思ってないのは、自分にも分かった。

望は哀しそうな目をして、宙を見つめている。

お姉ちゃんは、そんな望の肩にそっと手を乗せて。


「一緒にいられるのは今しかないのよ。その幸せを自分から手放しちゃダメ。分かるわね?」

「はい…」

「だから、素直になって。自分に嘘をつかないで」

「はい…」


お姉ちゃんは望を抱き締め、優しく頭を撫でて。

そして、こっちを見て手招きをする。

お姉ちゃんの横に行くと、自分も抱き締めてくれた。

望の温かさとお姉ちゃんの温かさ。

あと、ここにはいないけど、お兄ちゃんの温かさも感じて。


同じときは二度と訪れない。

だから、出来るだけ後悔しないようにするんですね。

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