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森の切れ目から一瞬だけ下に見えた街は、考えられないくらい大きくて。
「あれ、全部街なのか!?」
「そうよぉ」
「あそこも?」
「あそこは職人通りねぇ」
「あっちも?」
「あっちは住宅地ねぇ」
「すごいんだぞ!」
「すごいわねぇ」
「ルクレィで一番大きな街だからね。ユールオの五倍はあるって言われてるよ」
「五倍…」
ヤゥトは何個入るのかな…。
ユールオもすごく大きかったけど、ヤマトはもっと大きいんだな。
そして、世界はもっともっと大きい…。
「タルニアさま…」
「はぁい。分かったわぁ」
「どうしたんですか?」
「望ちゃん、ルウェちゃん。いちおう、これ、付けてもらえるかしらぁ?」
「……?」
渡されたのは、お姉ちゃんと同じ紋章が付いてる腕輪。
言われた通り、それを腕に付けて。
「何かあるんですか?」
「検問が敷かれてるみたいです。ヤマトで何かあったんでしょうか」
「さあねぇ」
「そこの旅団!止まれ、止まれ!」
外から怒鳴り声が聞こえたかと思うと、馬車はゆっくり止まった。
望はソワソワしてるけど、お姉ちゃんはそんな望のことを見て楽しそうにしている。
「旅団名は」
「クーア旅団です。これが証明書。人員、積み荷の検査もしますか?」
「えっ、あっ、ク、クーア旅団さまでしたか!し、失礼しました!」
「何かあったんですか?」
「はっ。実を言いますと、街の宝石商たちがラズイン旅団を名乗る者に立て続けに強盗、盗難に遭いまして…」
「ほぅ…。それで、街から出ていく者を監視していると」
「はっ!」
「入る者も監視してるのは?」
「共犯があとから来るとも限りませんから、ヤマトにいる間は追跡調査をさせてもらっているのです」
「なるほど。だから、この術式なんですか」
気になって窓から覗くと、地面に不思議な模様が浮かんでいて。
でも、堅苦しいお兄ちゃんが窓を塞ぐように手を出したから、仕方なく座席に戻った。
「あっ!すみません!すぐに解除します!」
「いや、いいです。私たちが共犯じゃないと決まったわけではないですから」
「は、はぁ…。そうですか…」
「じゃあ、行っても良いですか?」
「はっ!非常時とはいえ、無礼を働いたこと、ご容赦願います!」
「はい。犯人が捕まることを祈っています。私たちもなるべく協力しますので」
「はっ!ありがとうございます!」
そして、馬車はまた動き始めた。
しばらくすると、お姉ちゃんは真剣な顔をして前の窓を開けた。
「二人ほど、調査に回して」
「手配済みです」
「ふふ、さすがね。…それにしても、ラズイン旅団を名乗るとは良い度胸ねぇ」
「はい…」
「追放された人とかじゃないんですか…?」
「それはないわぁ。…今でも、私はみんなを信頼してるから」
「…すみません」
「ふふふ。謝ることはないわ。普通なら、当然そう考えるからねぇ」
「じゃあ、偽物なのか?」
「ええ。そうね」
偽物…。
なんでそんなことするのかな…。
嘘をついて、悪いことをする…。
なんで…?
車輪の音がだんだんゆっくりになって、そして止まった。
前の窓が開いて、堅苦しいお兄ちゃんが顔を覗かせる。
「着きましたよ」
「はぁい。ご苦労さま」
「いえ。では、私は調査結果を待つことといたします」
「よろしくねぇ」
お姉ちゃんがニコリと笑うと、堅苦しいお兄ちゃんは少し赤くなって目を逸らした。
…どうしたのかな。
「さぁて、あなたたちはどこかに行く予定はあるのかしらぁ?」
「えっと…採掘場のおじさんの家と鍛冶屋に」
「鍛冶屋?刀でも作ってもらうのかしらぁ?」
「ううん。これをセイレンしてもらうんだぞ!」
「ル、ルウェ!」
背負い袋の中から昨日のヨロズカネを取り出して、お姉ちゃんに見せる。
望はなぜか慌てた様子で。
「んー、万金かしら?良いものを持ってるのねぇ」
「うん!」
「でもねぇ、これはあんまり見せびらかしちゃダメよぉ。鍛冶屋に行くまで、誰にも見られないように大切にしまっておきなさい」
「うん、分かった」
「ふふ、良い子ね」
お姉ちゃんが言ったように、大切にしまっておく。
でも、なんで誰にも見せちゃいけないのかな?
「望、ルウェ。行くで」「ワゥ」
「あ、はい」「うん」
出入口の布が開かれ、お兄ちゃんと明日香が声を掛ける。
明日香は元気いっぱいだけど、お兄ちゃんはちょっと疲れてるみたい。
「はぁ…。しかし、御者って案外疲れるなぁ」
「そうなのかしらぁ?」
「ちゃんとした椅子なだけマシなんやろうけどな…。まあ、ターニャもやってみたらええやん。しんどさが分かるわ」
「ふふ、また今度ねぇ」
そう言いながら、お姉ちゃんは楽しそうに扇子をパタパタさせて。
後ろで堅苦しいお兄ちゃんが怖い顔してるけど…。
「そうそう、望ちゃん。ヤマトはいつ発つのかしらぁ?」
「えっと…。ルウェのが出来次第…でしょうか」
「そう。宿は決まってるのかしら?」
「組合の宿にしようかと思ってます」
「じゃあ、私たちのところに来なさい。面倒を見てあげるわぁ」
「えっ、でも…」
「ええやん。他人の厚意は素直に受け取っとくもんや」
「そうよぉ。あと、お昼ごはんはこれで食べると良いわ。それじゃあ、待ってるわねぇ」
「えっ、あっ、タルニアさん!?」
お姉ちゃんに何かを渡されて、望と一緒にすぐに馬車を追い出されてしまった。
…渡されたのは小さな袋。
振ったりすると、チャリチャリと音がして。
「あっ!これ、やっぱりお金!ちょっと、タルニアさん!」
「それはボウヤの御者代理賃よぉ。それと、買い物をするときはその腕輪を見せて、クーア旅団のツケにしなさい」
「えぇっ!?腕輪、返します!返しますって!」
「クーア旅団は一流品しか扱わない代わりに、返品はお断りしております。望さまも、どうかご了承願います」
「そういうこと。ふふ、じゃあ、ゆっくりしてきなさいな」
「うぅ…」
望はガックリとして、何か呻いていた。
葛葉が言ってた、クチガウマイってこのことなのかな。
自分も、お姉ちゃんみたいになりたいんだぞ。




