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草むらを抜けて川原に出ると、望とお兄ちゃん、それと、誰か知らない人が二人いた。

一人は明日香に噛みつかれて、もう一人はお兄ちゃんが馬乗りになって殴っている。

…明日香、今までどこにいたのかな。


「生きて帰れる思うなよ、お前らぁ!」「グルル…」

「うぐっ…」「痛っ!痛ぇ!」

「………」

「望、大丈夫なのか?」

「うん…」


何があったのかな…。

望は少し震えてるようだった。


「ちっ。まだ殴り足らん」「ウゥ…」

「あ、あのっ…」

「はよ、上、着ぃな。さっさと離れるぞ」

「…うん」


震える手で上着を掴むけど、上手くいかない。

それを見て、お兄ちゃんは手伝ってあげて。

服を着ても、まだ望は震えている。


「こいつら、蹴り飛ばしてもええんやぞ」

「………」

「ほぅか」


そう言って、お兄ちゃんは二人を睨む。

明日香も、今にもまた飛び掛かりそうな雰囲気で。


「行くぞ」

「………」

「立てんか?」

「うん…」

「…よっと」


お兄ちゃんは望を抱え上げて。

そして、二人を放って足早にその場を立ち去る。


「…すまんな」

「………」

「護衛がこんなことでは…」

「お兄ちゃん…」

「怖い思いさせて…すまんかった…」

「ううん。すぐに来てくれて、私を守ってくれた…。たしかに怖かったけど…それでも嬉しかった。お兄ちゃんが、私を守ってくれたから…」

「………」


望の肩が震えていた。

でも、さっきのとは違うもののように見えた。

ううん、きっと違うものなんだ。



もう日は暮れていたけど、とにかく進んだ。

でも、登り坂がまた下り坂に変わる頃、目の前に誰かが現れた。


「はぁい、こんばんは~。こんな遅くに、どこに行くのかしらぁ?」

「お前らがおらんところや」

「初対面なのに酷いわぁ」


そんなことを言ってても、顔は笑っていて。

…なんだか、よく分からない人なんだぞ。


「お嬢さん、さっきはごめんねぇ。驚かせちゃって」

「驚かせちゃって…やあるか、アホ!望がどんだけ怖い目したか分かっとるんか!?」

「もう…あんまり怒鳴らないで」


お兄ちゃんをチラリと見ると、望にゆっくりと近付いていく。


「何する気や」

「ちょっとお話するだけよぉ?」

「そこで話せ。望に近付くな」

「いけずなのね」


そう言って、指をパチンと鳴らす。

お兄ちゃんと明日香は身構えたけど、暗がりから誰かが出てきただけで。

出てきたのはさっきの二人で、後ろ手に縛られていた。


「派手にやってくれたわねぇ。一瞬、誰だか分からなかったわよ」

「当然の報復やろ」

「そうねぇ。女の子を襲うなんて、最低ねぇ」

「………」「女将…」

「なんで、望ちゃんを襲ったのかしらぁ?」

「………」「………」

「黙ってちゃ分からないわよぉ?」


お姉ちゃんは顔で笑いながら、内では相当怒ってるみたいだった。

本当に怒ってるときの姉さまの目にそっくり…。


「うふふ。言えないのかしらぁ?」

「………」「………」

「そう。良いわぁ。山賊になりたかったのね。それならそうと、早く言えば良いのに」

「お、女将!」「違います!」

「じゃあ、なんだって言うんだい」


手に持っていた扇子をパチンと閉じると、ギロリと二人を睨み付ける。


「あぅ…」「………」

「あ、あの…」

「ん?どうしたの?」

「私…大丈夫でしたから…。その…」

「良いのよ、望ちゃん。掟を破ったこいつらに、同情の余地はないわぁ」

「でも…!」


言いかけた望の口に指を当てる。

突然のことで、お兄ちゃんも反応出来なかったみたい。

固まったまま呆然として、それを見てるだけだった。


「ありがとねぇ。でも、うちではそういう決まりなの。掟を破った者は、追放する。どうあっても曲げられない」

「………」

「ふふ、優しい子なのね」


望は、なぜだか少し赤くなってるみたい。

…なんでだろ。


「あらぁ、可愛い子がもう一人」

「あ…うぅ…」

「ふふ、怖がらなくて良いのよぉ」


そう言って、頬に触れてくる。

…お姉ちゃんの手はすごく柔らかくて、気持ち良かった。


「そうだ。二人分空いたことだし、今日はうちで泊まっていくといいわぁ」

「でも…」

「言ったでしょう?掟は絶対なの。それを守れない者は、うちにはいらない」

「………」「………」

「さあ、行きましょう。すぐ近くだから」

「はい…」


お姉ちゃんは、ずんずんと望と自分の背中を押していく。

お兄ちゃんと明日香も、それに付いていって。

一瞬、後ろを見ると、暗闇の中でさっきの二人とはまた別の誰かがいて、小さな刀と銅貨五枚を置いていた。

…誰?



ラズイン旅団。

お姉ちゃんの旅団。


「ごめんねぇ。狭い場所で」

「いえ…。ありがとうございます…」

「良いのよぉ、お礼なんて」

「では、タルニアさま。お休みなさいませ」

「はぁい。お休み~」

「望…ルウェ…お休み…」

「お休み」「おやすみ、お兄ちゃん」


そして、堅苦しい人とお兄ちゃんは帷から出ていった。

帷の中は狭かったけど、温かくて。


「あの…」

「なぁに?」

「ここはタルニアさん専用の帷なんじゃ…」

「タルニアで良いわよ。ターニャでも良いけど。それに、私と寝るのは嫌かしらぁ?」

「いえ…そういうわけじゃ…」

「じゃあ、良いじゃない。…今日はもう休みなさいな。私も眠たいし」

「はい…」

「ルウェちゃんも、お休みなさい」

「うん…おやすみ…」


お姉ちゃんがゆっくりと頭を撫でてくれた。

それがとても気持ち良くて、だんだん眠たく…。

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