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「ほれ、そこ見てみ」

「あ、石英ですね」

「セキエイ…」

「そこにも」

「紫水晶かな」

「なんで、こんなにいっぱいあるんだ?」


おじいちゃんに貸してもらった袋は、もうすでにふたついっぱいになっていて。

それに、拾っても拾ってもなくならない。


「ここには強い脈があるからな。脈から漏れた力が結晶化しとんねん」

「……?」

「脈ゆうんは自然の力が流れる道筋や。その力が漏れ出てきよる場所がある。それが鉱山やったり火山やったりするねん」

「カザン?」

「火を噴く山だよ。危ないから、普段は近付かないんだけど」

「火山の近くには温泉が多いからな。危険を冒してでも入りに行きよるやつもおる」

「あなたもでしょ?」

「よくご存知で」

「温泉…。この前のは…」

「あの辺には火山はないから、あそこから直接脈の力が溢れとるんやろな」

「へぇ~」


この石も、あの温泉も、自然の力で出来たものなんだ。

不思議。

全然違うものなのに。

元々は同じもの。


「特に脈の力が濃縮された石とか金属が、万石や万金って呼ばれるんやな」

「ふぅん」


あ、綺麗な金属だ。

これも入れておこう。


「ところで、あともうちょいで出るけど、しっかり拾えたか?」

「えっ、もう終わりなの?」

「残念やけどな」

「むぅ…」

「…また来ようよ。そのときに、またいっぱい拾えば良いじゃない」

「うん…」

「な、あんまり気ぃ落とすなよ」

「うん。分かった」

「良い子だね、ルウェは」

「えへへ」


望が頭を撫でてくれた。

…そうだよね。

また来ればいいんだもんね。

だから、今は我慢する。


「さあ、出口や」

「眩しい…」

「はは、じき慣れるて」

「よぅ。どんくらい採ってきた」


光に目を細めていると、向こうから今まで聞いた中でも一番太い声が。

大きな影が出口のところに立っていて、手を振っていた。


「おっさん、いきなりそれはないやろ」

「良いじゃねえか。で、どんくらい採ったんだ」

「はい、おじさん」

「おっ。ちっこい坊主と…えらく可愛い娘さんだな。どこで引っ掛けた」

「か、可愛い…」

「ユールオからヤクゥルの間でな。引っ掛けたんやのうて、護衛や」

「護衛?狼を連れてるのにか」

「ええやん。細かいことは」

「ところで、坊主と娘さんはなんて名前だ?」

「ルウェなんだぞ」「望です」

「ほぅ。うちにも、望ちゃんくらいの娘がいてなぁ。ヤマトに着いたらよろしく頼むよ。あいつ、友達が少なくて」

「昔から病気がちやったからな…。ええ子やのに…。まだ元気になっとらんのか?」

「ああ…」

「名前、なんていうんですか?」

「柚香だよ。冬至の日に生まれたんでな」

「いつでも思うけど、安直な名前の付け方やなぁ」

「良いじゃねぇか。柚香も気に入ってくれてるんだし。はぁ…。ごめんな、傍にいてやることも出来んで…」

「………」


柚香…。

おじさんは、すごく哀しそうな顔をしていて。


「あのっ。私…旅の身だけど、絶対に柚香ちゃんと仲良くなりますから!」

「あぁ、ありがとう。柚香も喜ぶだろう」

「ほんでや、おっさん。回収と買取、頼むわ」

「おぅ、そうだな。ルウェ、もう一回、採った袋を見せてくれ」

「うん」


袋を三つ、おじさんの横の台に乗せる。

おじさんは、ひとつ目から順に重さを量っていき、何かを紙に書いていた。


「ん?三つ目が異様に重いな」

「金属が多いんとちゃうか?」

「いや、それでも重すぎる。坊主、中身を見ても良いか?」

「うん」

「ありがとう」


そして、おじさんは袋の口を開けて、そのまま固まってしまった。


「ん?なんや、どないしたん?」

「あ…いや…。これは…」

「んー?」


お兄ちゃんも覗き込んで、また固まった。


「はぁっ!?なんで!?」

「いや、知らないから」

「なんでこんな…えぇ!?」

「どうしたんですか?」

「ルウェ、この金属…重っ!いつ拾った?」


お兄ちゃんが見せてくれたのは、最後に拾った綺麗な金属だった。


「さっき」

「さっき?」

「出口の話のちょっと前なんだぞ」

「ほぅ…」

「何なんですか?二人して。その金属がどうかしたんですか?」

「…これが万金や。滅多に見つからん…特に、ここみたいな並以下の鉱山では絶対に見つかるようなもんやない」

「え?」

「おっさん…」

「ジジさまに相談してくるよ。とりあえず、いる石だけ選んでおいてくれ」

「分かった」


おじさんは、綺麗な金属を慎重に持って、穴の中へと走っていった。

…あれって、何かすごいものだったのかな。


「とりあえず、選ぶだけ選ぼ」

「うん」

「万金は、こんな鉱山では見つからない…。でも、ルウェが見つけて…。あれ?」

「望。考えるんはあとや。とにかく、気持ちを落ち着けんと…」


そういうお兄ちゃんの手が一番震えていて。

…あ、この石が綺麗。

これにしようかな。



おじさんはおじいちゃんと一緒に戻ってきて、ヨロズカネと丸めた紙を持っていた。


「これは確かに万金じゃった。ほで、一通り見たが、万金は他にはなかった。つまり、これが最初で最後ってわけじゃ。そこで、提案なんじゃけ、ヤマト…いや、世界一の鍛治屋を紹介するでな、ルウェ、お前さんが自然と身に付けられるような装飾具を作ってもらうってのはどうじゃ」

「その方が、誰か他のやつらの手に渡るよりかは良いと、俺たちは考えたんだが」

「……?」

「まあとにかく、これが紹介状だ。鍛治屋は、お前が知ってるな?」

「お、おぅ…任せとき…」

「お前が緊張しててどうするんじゃい」

「ま、幻の万金が目の前にある思たら…」

「はぁ…」

「ルウェ。これ、なくすんじゃないぞ」

「うん」


おじさんからヨロズカネと紙を受け取って。

大切なものだから、すぐに背負い袋に入れて…


「…重くないのか?」

「……?全然」

「ほぅ。興味深いの…」

「何かあるんですか?」

「万金は所有者を選ぶということじゃな」

「え?金属なのに?」

「あくまでも噂、伝説に過ぎんがの…」


…なんだかよく分からないけど、全然重くないんだぞ。

でも、ホントに綺麗…。

葛葉に見せてあげないとな!

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