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森はいつの間にか登り坂になっていて。
山に入ったみたい。
「ふぅ…。やっぱりきついなぁ…」
「もうそろそろ鉱山ですからね」
「いや、鉱山の全部が全部きついわけやないやろ」
「細かいことに突っ込まないでください…」
「明日香、大丈夫?」
「ワゥ」
結局タルニアを喚べなくて、ルウェは怒って消えてしまった。
森が火事にならなくて良かったような、タルニアが見られなくて残念なような。
「入鉱料、持ってるか?」
「えっ、採掘場に入るんですか?」
「当たり前やろ。お前、ヤマトに何しに来てん」
「いや、普通に旅の一通過点として…」
「はぁ…。採掘場に入らんとか、人生の九割九分九厘損してるで」
「えぇ…。わざわざ高い入鉱料を払うこともないじゃないですか…」
「あぁ…。やっぱり安く入れる方法、知らんのか…」
「え?」
お兄ちゃんは、懐から何かの金属で出来た板に鎖を通したものを出した。
「これはなんでしょう」
「採掘員さんが付けてる採掘証明の札ですか?」
「ああ。まあ、訂正加えるとしたら、これは非雇用者採掘証明やな」
「サイクツショウメイって?」
「この人は採掘員ですよって知らせる名札みたいなものだよ」
「名札なのか?」
「ちょっとちゃうけどな。ほれ、見てみ」
お兄ちゃんに渡してもらった板には、細かい模様が彫ってあって。
ヤゥトとかヤクゥルの紋章に似てる気がする…。
「ヤマトの紋章や。それがあれば、ほとんどタダで入れる」
「ふぅん」
「でも、なんでこんなの持ってるんですか?」
「申請すれば誰でも貰える。ただし、採った鉱石の半分を渡さなあかん。非雇用者ゆうても、いちおう採掘員やからな」
「へぇ~。全然知りませんでした」
「採掘員の知り合いから聞いてきた情報やからな。あんまり知られてへんのかもしれん」
「…そんなに石が好きなんですか?」
「石の魅力が分からんとか、人生の十割十分十厘損してるわ」
「限界突破してますけど」
「そんだけ損しとるっちゅーこっちゃ」
石…石の魅力かぁ…。
自分には分かんないんだぞ…。
「精錬されたやつもええけど、原石にも原石の魅力があんねんなぁ」
「へぇ~」
「セイレン?ゲンセキ?」
「原石は石の元になる石。精錬は、原石を磨いたりして綺麗にすることだよ」
「あの石も、セイレンしたら綺麗になるのか?」
「あれは…無理じゃないかな…」
「なんで?」
「あれは普通の石であって、原石じゃないから」
「……?」
「宝石て知らんか?」
「ホウセキ?」
「ヤゥトもユールオも、鉱山がないですからね。宝石も高いから、宝石商がいても鉱山街でないと滅多に手に出来るものでもないし。それに、なくても生活出来ますから」
「まあ、せやろけど…。勿体無いなぁ…」
「今、持ってないんですか?」
「え?」
「今、石は一個も持ってないんですか?」
「あ、あぁ~、そういや持ってたわ」
「はぁ…」
笑いながら、お兄ちゃんは背負っていた袋を下ろして中を漁り始めた。
そして、すぐに大きな袋を取り出して。
「ほれ。この中、見てみ。重いから気ぃ付けろよ」
「うん」
明日香から降りて、ずっしりと重い袋を受け取り、地面に置いて中を見てみる。
中には小さな袋がいっぱい入ってて、その中にまた何かが入ってるみたい。
「わぁ、綺麗な袋ですね」
「袋かい!袋は見分けやすくしてるだけや」
「石が入ってるの?」
「ああ。ほれ、はよ見てみぃな」
「うん」
一番上にあった茶色い袋を取り出して開いてみる。
中には、茶色い石が入っていた。
「出して見てみぃな」
「うん」
取り出して見てみると…
「わぁ~」
「でや。綺麗やろ」
「うん!」
光の具合で、縦に金色に輝く石。
すごく綺麗…。
「それは猫目石。金運向上に効果があるんや」
「………」
「なんや、ジッと見て。オレに惚れたか?」
「ち、違います!」
「…別に、ホンマに金運を上げたくて持ってるわけやない。趣味で集めてるんやから。それに、金儲けがあかんのとちゃうやろ?金を持ってることに頼んで驕るんがあかんねやろ?」
「そうですけど…」
「こっちのは?」
「開けてみたらええやん」
開けて出してみると、今度は袋と同じ蒼い石だった。
「それは瑠璃。幸運も呼び込むし、魔除けでもある。強大な力を持つ石のひとつやな」
「へぇ~」
蒼…。
なんだか、引き込まれるような蒼。
ところどころキラキラ輝いて…ルィムナの夜空みたいだった。
「興味、持ってくれたか?」
「うん、綺麗」
「さっきも喋ってたけど、採掘場では原石が採れるし、ヤマトではこれみたいな精錬済の石が売ってるから。はよ行って、自分のええやつ見つけよ」
「うん!」
石。
石がこんな綺麗なものだって、全然知らなかった。
なんだかワクワクしてきたんだぞ!
「ところで、いくらで入れるのか知りませんけど、入鉱料に使えるような余分なお金なんて持ってないですよ」
「ん?あー、そんなんええわ。オレが奢ったる」
「猫目石の力ですか?」
「日々の積み重ねや」
「ふぅん…」
「それに、可愛い妹のためやん。いくら出しても惜しないわ」
「………」
笑いながら、少し乱暴に望の頭を撫でるお兄ちゃん。
望は何も言わずに俯くだけだったけど、尻尾はパタパタと揺れていた。