表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/537

21

「よし。全員、怪我はないな」

「ないよ」「うん」「ルウェは危なかったけどね」

「どういうこと?」

「ツルゴケで滑って落ちたんだよ」

「えぇっ!?」

「でも、祐輔が助けてくれたの。こう…パッパッやあとう!って」

「へぇ~。説明はよく分かんないけど」

「静粛に、静粛に」

「………」

「とにかく、みんな無事で良かった。初心者がこういう事故に遭うのはそうなんだけど、慣れてきて油断してるときが一番危ない。これからも枝跳びはやるだろうけど、細心の注意を払ってくれ。みんなが哀しい思いをしないように」

「「「はぁい」」」

「よし。じゃあ…」

「今日は楽しかったかーっ?」

「「「おぉーっ!」」」

「へへっ。明日も楽しく遊ぼうぜ!お疲れさま!またな!」

「またね~」「また明日」「じゃあね」


そして、みんな、帰っていく。

いろんなことを思いながら。

でも、誰もが笑顔で。


「夏月はどうだった?」

「いっかいも、つかまらなかったよ~」

「へへっ、やったな!」

「うん!」


夏月の頭を撫でる祐輔。

すると、夏月は嬉しそうに飛び付いて。


「よし。じゃあ、帰ろうか」

「「うん!」」


自分たちも、やっぱり笑顔だった。

…怖かったときもあったけど、でも、それ以上に楽しかったから。

だから、本当に、心の底からの、笑顔だった。



街のあちこちから良い匂いがしていた。

それが、お腹に響いて。


「へへっ。腹、減ったな」

「夏月ね、きょうなら、ごはん、さんばいたべられそうだよ」

「いつもは何杯なの?」

「ゆうはんは、いっぱいだよ。あさとひるで、あわせていっぱい」

「夏月、あんまり食べないんだよ。俺は食べ過ぎだって、陽平に怒られるんだけどな」

「へぇ~」


そういえば、お昼ごはんのとき、夏月だけ小さなお椀だったっけ。

葛葉のは、お椀というか、ほとんどドンブリだったけど。

それで十杯くらい食べてたもんなぁ。

一食で。


「ん?」

「どうしたの?」

「いや、うん」

「……?」


何なんだろ。

祐輔も何か分からないといったように首を傾げて、また歩き出す。


「へへっ。家まで競争しようぜ。じゃあ、よーいドン!」

「あ、ずるい!」「まって~」


いきなり競争って!

しかも、号令も突然だし!

…でも、祐輔は何かから逃げようとしているようにも見えた。

本当に、どうしたんだろ…?



夏月はきっちり三杯のご飯を食べて、おかずもたくさん食べていた。


「よく食べるねぇ、今日の夏月は」

「うん!」

「ごちそうさま…」

「逆に祐輔が食べてない」

「うん…」

「調子悪いんか?」

「そんなことないよ…」


そう言って、部屋から出ていく。

競争のときから、やっぱりおかしかった。

家に着いてからは、さらに疲れたようなかんじで。


「祐輔、どうしたの?昼はすごく元気だったよね。外で何かあったの?」

「ううん。でも、帰る途中から変だったかな…」

「ふぅん」

「ごっそさん。ちょっと祐輔見てくるわ」

「おぅ。よろしくな」


そして、お兄ちゃんも部屋を出ていった。


「ふぅ…。祐輔が暗いと、みんな暗くなってしまいますね…」

「夏月は~?」

「はは、夏月はいつでも明るいな」

「うん!」

「夏月も暗くなったら、この家自体が潰れてしまうわな」

「ん~」


おじさんは、夏月の頭をガシガシと撫でて。

夏月は気持ち良さそうに目を細める。


「ごちそうさま、なんだぞ」

「あぁ、もう良いのかい?」

「うん!美味しかった!」

「そりゃ、作った甲斐があったってものだ」


おばさんはニッコリと笑って。


「自分も、祐輔の様子、見に行って良い?」

「よろしく頼むよ。祐輔の部屋は、部屋を出て右へ行って、突き当たりの部屋だ」

「うん、分かった」

「ルウェと望の部屋は、祐輔の部屋の右だよ」

「うん」


みんなに軽く手を振って部屋を出る。

えっと、右、だったよね。

右を向いて歩き始める。

真っ直ぐと伸びた廊下は、どこまでも続くように見えた。

…進むにつれて、どんどん暗くなってるような気がして。

何か怖くなったので、少し小走りで向かう。


(怖い?)

「うん…」

(ボクがいるから大丈夫だよ)

「うん…」


ルウェが出てきて、周りを照らしてくれた。

長いように思った廊下も、実際はほんの少しの距離で。

すぐ前に祐輔の部屋が見えた。


(あっ…)

「……?」

(気を付けて)

「何に?」

(闇…!)


次の瞬間、後ろに強く引かれる。

そして、目の前を黒い何かが通り過ぎていった。


「えっ…?」

「ウゥ…」

「明日香?」


腰紐を引いたのは明日香。

黒い何かの直撃から助けてくれたみたい。


(ウゥ…)

「わっ!?」


ルウェが強い光を放つ。

すると、突き当たりで両手に分かれた廊下の先にいた"影"は、跡形もなく消えた。


(部屋の中!)

「う、うん…」

「ウゥ…」


戸に手を掛け、勢いよく開けた。

そして、部屋の中にいたのは…


「お兄ちゃん!」

「はぁ…はぁ…。情けないわぁ…」

「え?」

(ルウェ!)


お兄ちゃんの形が崩れて、代わりに黒い何か…闇が溢れてきて。

考える間もなく、呑み込まれてしまった。



真っ暗闇。

何も見えない。

目を開けているのか開けていないのかも分からない。

「ルウェ…」

「………」


そして、聞こえたのは祐輔の声。

手を伸ばせば届く場所にいるけど、どこにいるか分からない。


「ごめんな…」

「ううん」

「俺、ダメだったよ…。闇に負けた…」

「負けた?」

「光を消し去れ…闇の世界を創造しろ…」

「………」


光と闇は相容れないもの。

ヤーリェもルウェもルィムナも言っていた。


「俺は今…ルウェを苦しめている…」

「全然苦しくないんだぞ」

「でも…」


苦しくない。

だって…


「光があるから闇がある。闇がなければ光はない。ふたつは相反するものではない。ふたつでひとつ。表と裏の関係」

「………」

「だから、苦しくない。祐輔も、苦しまないで」


闇が割れて、目の前が明るくなった。

そして、そこには祐輔がいて。


「ルウェ…」

「祐輔の闇。自分の光。ふたりで半分こしたら、ちょうど良い」

「うん…」

「白と黒を混ぜたら何色?」

「灰色…?」

「ううん。玉虫色だよ。どんな色にだってなれる」

「………」

「だから、笑って?みんな、哀しんでるから」

「へへっ、分かってるって!」

「うん」

「…ありがとうな、ルウェ」

「うん。…祐輔、大好きだよ」

「へへ、俺も」


強く抱き締める。

強く、強く。



目が覚めると、もうそこは闇の中ではなかった。


(ルウェ!良かった…良かった…!)

「痛いよ、ルウェ」

(あ…ごめん…)

「お兄ちゃんと祐輔は?」

「オレはここにおる。祐輔はぐっすり眠っとるわ」

「そう…」

(でも、なんで兄ちゃんがやられてたのさ)

「いや~、はは。情けないことに、召致のときの文句が思い浮かばんかってん。ありゃあ…歳かなぁ…なんて考えてるうちに、やられてしもて…」

(はぁっ!?なんで素直に召致をしないのさ!)

「あー、なんてゆうの?習慣?意地?」

(そんなもの、ボクがボロボロに噛み砕いてあげるよ!)

「おまっ!痛い、痛いて!本気で噛んどるやろ、それ!」

(ウゥ…)

「くっ…ふふふ」

「笑ってやんと助けろーっ!」


でも、ホントに面白いんだもん。

もうしばらく、見てようかな。



布団に入って、明日香の頬を伸ばしたりして遊んでいると


「ふぁ…あふぅ…。あ、まだ起きてたんだぁ…」

「うん。でも、今寝ようかと思ってたところ」

「そう…。私も寝るね…」

「うん。おやすみなさい」

「お休みぃ…」


布団に入ると、望はすぐに眠ってしまった。

それを見ていると、自分も眠たくなってきて。

…目を瞑ると、また闇が広がる。

でも、この闇は祐輔の闇。

だから、温かかった。


「んぅ…」


ふふ、望も温かいんだぞ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ