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「んぅ…」


目が覚めた。

大きく伸びをして、身体を起こす。


「お。起きたか」

「おはよ…」

「おはようさん」

「お兄ちゃんは早起きなんだぞ…」

「まあな。ルウェはまだ寝ててええねんで」

「うん…。でも、起きる…」

「ほうか」


森にはまだ霧が掛かっていて、どこを見ても真っ白だった。


「うぅ…。寒い…」

「こっちに来て、火にあたれよ」

「うん…」


お兄ちゃんの焚く火は、ゆっくりと揺れていて。

ジッと見ていると、なぜかヤーリェのことが思い浮かんだ。


「ほら。ここに来いよ」


そう言って、お兄ちゃんは膝を叩く。

フラフラと吸い寄せられるように、その胡座の上に座って。


「あったかいか?」

「うん」

「ふふ、そりゃ良かった」


お兄ちゃんは後ろからそっと抱き締めてくれて。

柔らかい温かさに、また意識が遠のいていく…。



温かい…。

葛葉…。


「オレは葛葉ちゃうで」

「わわっ!?」

「朝ごはんやぞ」

「う、うん…」


びっくりした…。

寝言…言ってたのかな…。

身体を起こして、ぼんやりと器に盛られた朝ごはんを見る。


「ルウェ。ちゃんと食べないと、ヤクゥルまで行けないよ?」

「あ、うん」

「まあ、そんな急ぐこともないやろ」

「急ぎますよ。さっさとヤマトまで行って、あなたと別れたいですから」

「なんや、案外根に持つなぁ」

「当たり前でしょ」

「なぁ、そういうの、やめにせんか?」

「私だってやめたいですよ。でも、あなた自身が、そう出来ないようなことをしたんです」

「水に流してくれよ、な?オレらも酷い目にあったんやから」

「無理です」

「…ルウェ~」

「ルウェへ逃げないでください」

「はぁ…厳しいなぁ…」

「ふん」


自分には、二人の仲は良いように見えるんだけど、違うのかな。

よく分かんないんだぞ。


「ごちそうさま」

「美味かったか?」

「うん!」

「ほうか。良かった良かった」

「えへへ」

「………」


お兄ちゃんに頭を撫でてもらう。

それが、とても気持ち良くて。


「ルウェ!行くよ!」

「え、あ、うん」

「はぁ…。ホンマに…」


望、何を怒ってるのかな?

とにかく、荷物を持って慌てて望のあとを追った。



目の前に影が三つ。

ユラリと歪んだかと思うと…


「危ない!」


何かが飛んできた。

黒い…闇?


「ウゥ…」

「お前らは下がってろ!」

「う、うん…」

「光の聖獣よ。我との契約により、闇を討ち払え!」

「……!召致!?」


空気が一瞬揺れたかと思うと、いつの間にか、お兄ちゃんの前に明るい光が。


(ふぁ…あふぅ…。どうしたの?)

「見たら分かるやろ!」

(あぁ、あれ?)

「そうや!」

("影"ねぇ。元を倒した方が良いんじゃない?)

「なんでもええから、はよやってくれ!」

(もう…)


…大丈夫かな。

光の真ん中にいたのは、銀色の狼。

面倒くさそうに欠伸をして、影を睨む。

影は、狼の光にあてられて薄くなってるような気がした。


(近くに術者がいるね。半径四半里以内。向こうを倒してくる?)

「ダメ!」

(ん?)


自分でも、なんでこんなことを言うのか分からない。

けど…


「ダ、ダメ…なんだぞ…」

(…そう。まあ、向こうも弱っちいみたいだし)


そう言って立ち上がると、ゆっくりと影に近付く。

半分くらい行ったところで、影は完全に消えてしまった。


(ふぅ…。もっと手強いのが良かったなぁ)

「アホゆうなよ…」

「あのっ!」


間髪入れず、望が声を上げる。


「どうした。怪我でもしたんか?」

「あ、あなたは、召喚師なんですか?」

「まあな」

「ショウカンシってなんだ?」

「聖獣を呼び出せるやつのことやな」

「セイジュウ?」

(ボクみたいな、神様の遣いのこと。ボクは"月の神"ルィムナさまの遣い、ルウェだよ)

「せや、こいつもルウェって名前やねん」

「ルウェ…」

(ふふ、キミもルウェか。…ルウェ、ボクと契約してみる?)

「ケイヤク?」

「こらこら。勝手に引き込むな」

(良いじゃん。ボク、この子、気に入っちゃった)

「気に入っちゃったってなぁ…」

「わ、私は?」

(んー。キミは、火の属性が強いからね。今度、タルニアを紹介してあげる)

「やった!」

「別に喜ぶようなもんちゃうぞ…」


呆れ顔のお兄ちゃんと、にやけ顔の望。

…望、怖い。


(ねぇ~。ボクと契約しようよ~)

「遊びちゃうねんぞ。そんなこと許せるか」

(むぅ…。ケチ)

「ああ。ケチさでは古今無双やわいな」

(ふんだ。兄ちゃんなんて嫌い!)


…何なんだろ。

ホントの兄弟みたいな気がして。


(ね、ね。ルウェがうんって言ってくれれば、兄ちゃんなんて関係ないからさ)

「でも、ケイヤクってよく分かんない…」

(えっとねぇ…)

「ルウェ!」

(うっ…)

「契約者は聖獣に魂を。聖獣は契約者に永遠の守護を。つまり、聖獣に魂をあげる代わりに、ずっと傍にいてもらえるってこと」

「た、魂をあげる…?」

「はぁ…。望も余計なこと言うなや…」

「それくらい教えたって良いじゃないですか」

「ねぇ…魂をあげるって…?」

(比喩だよ。ホントは、聖獣の依り代となるものを用意してもらうんだ。ただし、本当に大切なものでないとダメ)

「本当に大切なもの…」


うん、あれなんだぞ。

袋の中を漁って、目的のものを探す。


「あった」

(ん?契約、してくれるの?)

「うん」

「ルウェ!?」

(ふふふ。ボクの勝ちぃ)

「いつ、またあの影に襲われるか分かりませんし、二人とも良いって言ってるし。何か、不満があるんですか?」

「ぐっ…」

「どうすれば良いの?」

(魂をしっかり握って、目を瞑って)

「うん…」


言われた通りに目を瞑る。

もちろん、真っ暗で。

でも、しばらくすると急にまぶたの裏が明るくなって。


(はい、目を開けて)

「うん…」


目を開けると、周りは綺麗な夜空だった。

…どこ?


「ルウェ」

「え?」

「こんばんは、ルウェ」

「だ、誰?」

「ボクはルィムナ。よろしくね」

「よ、よろしく…」


そこにいたのは、綺麗な女の人だった。

本当に、綺麗な…。


「ルウェは光の要素が強いのね。でも、他の要素がないわけではない」

「……?」

「これから大変だと思うけど、この子が守ってくれるから。いつでも呼び出してあげてね。この子、すごく寂しがり屋さんなの」

(ル、ルィムナさま…)

「ふふふ。…じゃあ、大切なもの、見せてくれる?」

「うん」


手を開いて、銀貨を見せる。

セトから貰った、大切なお金。


「ゆっくり、目を瞑って」

「うん」


また真っ暗な世界。

でも、さっきとは違って、何か温かかった。

これが、契約…なの…か…な…。

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