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ノアの生贄  作者: 清田ココ


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1/9

プロローグ


ーーーこの時代はまだ神々が存在し、あらゆる種族が生を織りなし、

種族の違いから土地を囲った種族戦争の爪痕が濃く残る時代であるーーー



それから数年、山奥の辺境の村ではある騒ぎが発生していた。


「ノワール族の生き残りだ!早く殺せ!」

荒々しく声を張り上げ、村民の農夫が叫ぶ。


子供を抱えた村女ですら

「早く磔にするのよ!子供に近づけさせないで!

 子供は早く家へ!あぁ、恐ろしい恐ろしい…」

「どうしてこんな辺境の村に…」

村人の男や農夫達は槍や錆びた農具振り上げながら、

口々に罵詈雑言を発した。


ボロボロの黒いマントを頭までかぶり、

生気が感じられない「ある男」は村人達に羽交締めにされ、

村から離れたーー砂漠上の岩山が積み重なったはずれへ

半ば引きずりながら連れられて行く。


男はほとんど生気がなく、何も声を発せず抵抗もしないまま、

痩せ細った傷だらけの身体は簡単に村人に引きずられ、

引きずられた足元からは砂埃が舞った。


その岩山が重なった場所には十字の磔台が5本〜10本程度あり

(半分は朽ちて曲がっていてそのていをなしていないが)


「ある男」は十数人の村人により十字に磔された。

四肢はしっかりとロープに縛られ固定され、

生気のない身体はだらりと頭が前にもたれる形となった。


「悪く思うなよ… ノワール族は災いを呼ぶと聞いている」

「直接殺せばいいじゃないか」

「ダメだ!俺たちが手をくだせば悪魔が俺たちを襲ってくるっていうじゃねぇか」

「これしかないんだ、それに、こいつはもう3日ももたねぇだろう」

「ここいらは夜には狼だって出る、

 獣がこいつを喰ってくれれば災いは獣へ行く。

 御の字だ。こうするしかないんだ」


しっかりと結び目を確認した村人達は

ある男が抵抗しない姿と生気のないうつろな目を見て


「けっ…気味が悪い。その紅い目と真っ黒な髪…

 まるでもう悪魔そのものじゃねぇか」


磔にされた男の足元に唾を吐きかけ

「なんでこんな辺境の村なんかに・・・」

そうブツブツと言いながら村人達はゾロゾロと離れて行く。



男は意識がないわけではなかった。



(俺は…これで死ぬのか 死ねるのか・・・ーー)


ノワール族の特徴である黒い髪と赤い目の姿は

種族大戦と呼ばれる戦争の後から、

見つかる度に恐られるようになり、見つかれば離れ、

時に今回のように恐ろしさから攻撃をされ迫害を受けてきた。


(我らの地が焼かれ、逃げ出し、そうか。

15歳頃から・・もう5年程度かーー・・)


身体はもう動かないのに、脳内に走馬灯のように過去が巡る。


「ある男」は故郷がなくなり、身を潜め、見つからないよう陰で暮らし、

見つかれば迫害され全てを隠して生き続けていたことに疲れていた。


食料や金が底をつき、体力も薄れた時この「ある男」は

この村の家畜小屋に一時滞在したところを捉えられたのだった。


(ふふ・・・まるで悪魔か…… 本当なら早く…


悪魔でもなんでもいいからもう俺をラクにしてくれ……)


「ある男」はそこで気を失った。



*



何時間たっただろうか、あたりは真っ暗で

静寂な闇に包まれている。

食い込んだロープによって腕からは血が垂れているようだ。

少し動かすだけで激痛が走った。




すると、突然手になにかあたたかいものが触れた。



……?



縛られた足元の方からポワッと灯りが灯っている。



うなだれていた頭を少しだけ残った力と気力で持ち上げ、

長く荒れた黒髪の隙間から光の方を見ると

頭までスッポリ黒いフードを被り、ランタンを持った小さな生き物が

足元にいて何かをしている様に見えた。


ローブから小さな人の手が伸びているのが見える。

・・・子供か?5.6歳くらいだろうか。



「……… な…ん……だ」

乾き切った喉に声が掠れて、ちぎれそうだ。

ーー砂と鉄の味がする。



するとその小さなフード頭の子供らしきモノが

ランタンを足元に置き、

ポシェットからナイフを取り出し

磔にされた男の四肢のロープを切り出した。




「・・・・な・・・にを・・・し・・」




そこで小さな声がかすかに聞こえた。




「ーーーー生きて」




その幼い声と、掠れた目で見えたランタンの灯りから見えたフードの中の顔は

白銀の髪色をした、少女ということに気づいた。






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