↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無能と罵られ追放された天才軍師、敵国で英雄になる ~追放した王国が、今さら停戦を求めて土下座してきても遅い~  作者: レモンティー


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
87/120

第八十七話 皇帝は俺の提案を受け入れ、王国の自治を認めた

勅書が読み上げられると、王国の使節は喜ぶより先に条文を確認した。

『自治を認める』という一行の下には、徴税、裁判、地方行政を王国側が担うことが明記されていた。

だが『帝国の安全を害する場合』という例外規定が広すぎる。

セリーナがそこを指さした。

「これでは、気に入らない政策を何でも危険だと言えてしまいます」

シリウスは帝国側の文官に訂正を求めた。

議論は半日続いた。

武装制限をどう数えるか、国境の砦を誰が管理するか、復興支援の穀物をどの村から配るか。

言葉一つの曖昧さが、数年後の戦争の口実になる。

ガイルは「剣を交えるより厄介だな」と呟いた。

シリウスは「剣なら相手が見えます。条文の穴は、何年も後に現れます」と答えた。

両国の強硬派は合意を弱腰と呼んだ。

その言葉が軍議の空気を変えた。

シリウスは勅書の文言を王国側の代表と一つずつ確認した。

ガイルは眉を上げた。

自治の宣言が王都へ届くと、広場には歓声と疑いの声が同時に上がった。

「名前だけの自治だろう」と叫ぶ商人に、セリーナは宣言文を見せた。

王国の税を決める議会の選出方法、帝国軍の駐留期限、違反を申し立てる窓口まで記されていた。

ただし条文を読めない人も多い。

そこでシリウスは要点を平易な言葉に直した掲示を作らせ、各村に読み上げ役を派遣した。

「信じろと命じても、人は信じません」と彼はエリシアに書き送った。

「約束を破ったときに誰が責任を取るのかまで示して、ようやく約束になります」

帝国の勅書には自治と武装制限、復興支援の条項が並んだ。

シリウスは兵の名を尋ね、礼を言った。

王国の代表の一人が「帝国の施しは受けない」と席を立ちかけた。

シリウスは引き止めなかった。

ただ、戦場で集めた被災地の名簿を机に置いた。

「援助を拒む権利はあります。けれど、受け取るかどうかは食料を必要としている村にも聞いてください」

代表は名簿をめくり、焼けた村の名で指を止めた。


しばらくして椅子に戻った。

夕方、修正された勅書が両国の言葉で読まれた。

セリーナは最後まで耳を傾け、シリウスに頷いた。

彼はその頷きを見て、ようやく肩の力を抜いた。

帝国が勝者として命じるだけでは、自治とは呼べない。

王国側が異議を唱え、その異議によって条文が変わったことに意味があった。

両国の強硬派は合意を弱腰と呼んだ。

彼は期限を区切り、確かめる役目を割り振った。

十年前なら同じ判断をしただろうか。

答えは分からない。

ただ、いま守るべき命は目の前にあった。

勅書の朗読後、王国側の使節は自治の条文を指した。

「徴税官を誰が任命するかが書かれていません」

帝国の官僚は、細部は後で決めればよいと答えた。

だがシリウスは異議を唱えた。

「細部のために人は争う。ここを曖昧にしたまま署名すれば、明日から二人の徴税官が同じ村へ来る」

王国の村長が立ち上がった。

「それなら、村の代表を選ぶ期間が要ります」

「選挙を待つ間、税はどうする」

議論は夜まで続いた。

結局、暫定の徴税停止期間と、各地の代表を選ぶ手続きが盛り込まれた。

自治条項の説明会で、地方から来た村長が質問した。

「税を決めるのは王国だとありますが、今年の徴発分は誰に返してもらえるのですか」

帝国の文官は条文を探し、答えに詰まった。

自治を認めることと、過去の被害を整理することは別だった。

シリウスは村ごとの被害台帳を作り、返還できる物資と補償審査が必要な物資を分けるよう提案した。

「すぐには返せないものもあります」と村長へ告げると、村長は頷いた。

「返せないなら、その理由を紙に書いてください。村へ戻って説明します」

その要求は、どんな華やかな条文より具体的だった。

帝国側には不満も残った。

シリウスは反対した官僚の意見を議事録から消さなかった。

後に制度がうまく動かなければ、どこで誰が危険を指摘したかを確かめられるようにするためだった。

勅書が読み上げられると、王国の使節は安堵した。

条文を村へ持ち帰る使節には、読み書きのできない者もいた。

セリーナは説明会で地図を広げ、徴税所、裁判所、苦情を申し立てる窓口を色の違う印で示した。

「文字が読めなくても、どこへ行けばよいか分かるようにしましょう」

使節の一人が尋ねた。

「その窓口が命令を無視したら」

シリウスは答えた。

「記録を残し、次の窓口へ持ち込めるようにする」

自治を認めるとは、権力を移すだけでなく、権力に異議を唱える道を作ることだった。

だがシリウスは、条文の余白に実施期限がないことを指摘した。

自治を認めるという言葉だけでは、明日から徴税する役人は変わらない。

両国の代表は再び席につき、誰がいつ何をするかを決め直した。

王国の使節は、自治を認める条文に喜んだ後、地方の村長がその文書を読めるのかと尋ねた。

セリーナは難解な法律用語を抜き出し、平易な説明書を別に作るよう提案した。

帝国側の書記は『説明書には法的効力がない』と言った。

『だからこそ、原文のどこに対応するかを記します』

条約は署名する者だけでなく、守る者にも届かなければならない。

最初の説明書は、王国の山村へ届けられた。

村長は「自治」という言葉を指でなぞり、徴税の欄で手を止めた。

「帝国の役人が帰ったあと、今度は王国の役人が勝手に税を増やしたら、誰に訴えればいい」

同行したセリーナは条文の番号を示した。

「村の代表が異議を申し立てられます。受け付けた日付も公開されます」

「受け付けなかったら?」

「そのときは、両国の共同監察所へ直接届けてください」

村長はしばらく黙ってから、村の掲示板に説明書を貼った。

王都で交わされた約束が、ようやく一つの村で確かめられる形になった。

最初の自治評議会では、村の代表と王都の官吏が徴税額をめぐって衝突した。

官吏は旧来の帳簿を示し、村長は洪水で失った畑の面積を示した。

セリーナはどちらかを黙らせず、現地調査の日付を決めさせた。

評議会の結論は保留になったが、村長は帰り際に言った。

「初めて、反対したまま帰れる」

その言葉を聞いたシリウスは、自治が始まるのは決議の瞬間ではなく、異論を残せるようになったときだと思った。

自治評議会の議事録は王国語と帝国語の二通を作り、双方が同じ内容を確認して署名した。

翻訳の違いを口実に命令を覆させないためだった。

最初の合意は小さくても、次に争ったとき立ち戻れる記録になった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。