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無能と罵られ追放された天才軍師、敵国で英雄になる ~追放した王国が、今さら停戦を求めて土下座してきても遅い~  作者: レモンティー


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第百十八話 俺の名を冠した軍学校を、閉鎖することにした

閉鎖を告げられた教官たちは、校門の名板を外すことに反対した。

「ここで学んだ者は皆、あなたを尊敬しています」

シリウスは首を振った。

「私を尊敬するための学校なら、間違った命令を止められない」

代わりに、卒業生と村人が共同で運営する公開講座を提案した。

最初の授業では、教官の命令を生徒が批判する。

校門から名が消えても、問いを立てる場所は残った。

軍学校の門には、シリウスの名が大きく刻まれていた。

かつて追放された軍師の名を掲げることは、帝国の誇りとされていた。

だがその朝、シリウスは校長に言った。

「この学校を、今の形のまま続けるわけにはいかない。改編のため、一時休校にしたい」

校長は椅子から立ち上がった。

学校を閉じると聞いた遺族は、名前を外すだけで責任を終わらせるのかと問い詰めた。

シリウスは校舎を壊さず、軍学校の記録を市民にも読めるようにする案を示した。

「何か不祥事がありましたか」

「ある。優秀な生徒が、私の答えを覚えることだけに優秀になっている」

発端は模擬作戦だった。

敵を包囲する課題で、首席の生徒は見事な配置を示した。

採点表では満点だった。

しかし地図には、包囲線の内側に二つの村があった。

住民の避難路は計画されていなかった。

「敵を逃がせば負けます」

生徒は胸を張った。

シリウスは尋ねた。

「では村人はどこへ逃げる」

「後方部隊が対応します」

「その後方部隊は、誰が指揮する」

生徒は答えられなかった。

教科書には書かれていなかったからだ。

シリウスは翌日、校長と教官の了承を得て、同じ課題を別の形で行わせた。

村人役の者を配置し、負傷者を運ぶ時間、橋の幅、食料の量まで計算に入れた。

今度は誰も簡単に勝てなかった。

「これでは軍事訓練になりません」

教官の一人が抗議した。

「軍事訓練だから必要なんだ」

シリウスは静かに返した。

「戦場で守るべきものを計算から外せば、どんな勝利も安く見える」

閉鎖の知らせは議会にも届いた。

卒業生は反発した。

自分たちの学んだ学校が否定されたと思ったのだ。

シリウスは公開討論の場を設けた。

「学校の名を守ることと、学ぶ内容を変えないことは同じなのか」

卒業生の一人が言った。

「大将軍の教えは間違っていたのですか」

「正しかったこともある。間違ったこともある。だが、私の時代の答えが、次の時代の正解とは限らない」

改編案は施設そのものの廃止ではなく、従来の軍人養成課程を終了し、一時休校の後に共同学院として再開するものだった。

文官、救護員、技師、住民代表も学ぶ共同学院へ移行する。

作戦の成功だけでなく、犠牲の少なさと説明責任を評価する。

校長は長く考え、最後に一つ条件を出した。

「シリウス様の名前を外すなら、新しい名前は学生たちに選ばせてください」

「もちろんだ」


数週間後、門から英雄像が下ろされた。

反対する卒業生もいた。

シリウスはその声を封じなかった。

代わりに門の脇へ白い掲示板が設けられた。

誰でも学院の授業に意見を書けるようにしたのだ。

最初の書き込みは、小さな子供の文字だった。

『おとうさんが戦争にいかなくていいことも、おしえてください』

シリウスはその一行の前で足を止めた。

英雄の名を残すより、問いを残すほうが難しい。

だからこそ、学校は変わる必要があった。

学院の改編に反対する卒業生たちは、門の前で夜通し灯をともした。

彼らにとってシリウスの像は、戦争を生き延びた家族の誇りでもあった。

「像を外せば、父の戦いまで否定される!」

若い女性の声に、シリウスは足を止めた。

「お父上は、どこで戦われた」

「南の丘です。片腕を失いました」

シリウスはその戦場を覚えていた。

自分の命令で、救援隊が遅れた場所だった。

「戦いを否定するために外すのではない。戦った人の経験を、一人の英雄の名前の陰に隠さないためだ」

女性はすぐには納得しなかった。

シリウスも説得し切ろうとしなかった。

代わりに学院の展示室へ招き、父親の証言を記録してほしいと頼んだ。

改編の準備では、教官同士も対立した。

作戦学を減らせば軍の能力が落ちると危惧する者、救護や法を教えれば訓練時間が足りなくなると主張する者。

シリウスはすべてを同じ時間に詰め込む案を退けた。

「軍人の専門課程は残す。ただし、住民の生活を知らずに指揮官にはなれない」

改編案の公開説明会では、最も鋭い質問をしたのは軍学校の生徒だった。

「救護や行政まで学ぶなら、私たちは剣の訓練を減らすのですか」

シリウスは答えた。

「必要な訓練は続ける。ただ、剣を使う前に考えることが増える」

「敵が考える時間をくれなかったら?」

「だから判断を速くする訓練も要る。速さと、考えないことは違う」

生徒たちは納得しなかった。

そこでシリウスは模擬演習を提案した。

橋の向こうに武装集団が現れたという設定で、軍人だけの班と、救護員や技師を交えた班に分かれる。

軍人だけの班は素早く橋を封鎖した。

だがその結果、病人を運ぶ馬車が立ち往生した。

混成班は橋の一部を開け、通行証を確認しながら負傷者を通した。

しかし警備が薄くなる時間も生まれた。

「どちらが正解ですか」

校長が尋ねると、シリウスは首を振った。

「一つの正解を出すための演習ではない。欠点を見つけ、次に備えるためだ」

評価表には、二つの班の判断と結果が並んだ。

混成班の案も満点ではなかった。

改善策として、避難専用の仮橋を事前に用意することが挙げられた。

卒業生の代表はその記録を読み、ようやく言った。

「我々が学んだ戦術も、捨てられるわけではないのですね」

「捨てるのではない。使う場面を見極める」

新学院には、軍人のほかに市場の商人、橋を造る技師、避難を経験した住民が講師として招かれた。

最初の講義で一人の老婆が言った。

「私は戦争の作戦を知りません。でも、逃げるとき荷物を持てない子供がいることは知っています」

生徒たちは黙って書き留めた。

その言葉は、どの戦術書にも載っていなかった。

学院には現場実習が設けられた。

生徒は市場の物流を調べ、避難路を歩き、退役兵の話を聞く。

地図の上の線が、誰かの家の前を通ることを知るためだった。

新しい学院の名は、学生たちの投票で決まった。

『国境共同学院』

シリウスの名は外されたが、図書室には彼の作戦記録も、誤りを認めた裁判の記録も残された。

式典の日、門の前で反対していた女性が一枚の紙を持ってきた。

「父の話を書きました。良かったことも、嫌だったことも」

シリウスは深く頭を下げた。

「それが、この学校に必要な教科書です」

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