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無能と罵られ追放された天才軍師、敵国で英雄になる ~追放した王国が、今さら停戦を求めて土下座してきても遅い~  作者: レモンティー


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第百十六話 皇帝の暗殺計画を、敵国の少女が止めた

和平記念日の朝、宮殿の門に少女が現れた。

名はソフィ。

旧王国領の出身で、荷運びの仕事をしていた。

門番は汚れた服を見て追い返そうとしたが、少女は破れた伝票を握りしめて動かなかった。

「今日、皇帝様が通る道に、変な荷物が運ばれたの」

ソフィの知らせを受けた近衛隊長は、宮殿を封鎖すれば犯人が警戒すると反対した。

だが何もしなければ皇帝が危険にさらされる。

シリウスは少女の話を確かめる係と、避難路を守る係を分けた。

伝票には祝賀用の照明器具と書かれていた。

だが箱を運んだ男たちは、火薬を扱う倉庫の印章を使っていたという。

護衛隊長は警戒した。

「いたずらかもしれません」

シリウスは少女に尋ねた。

「なぜ気づいた」

「父が鉱山で働いていたから。火薬の箱には、あの印がつく」

少女の父はかつて戦争で敵側にいた。

そのことを知られれば、少女自身が疑われる。

彼女は震えながらも伝票を差し出した。

シリウスは護衛隊長と相談し、二つの措置を直ちに実行させた。

皇帝の通行経路を静かに変更すること。

人混みを押しのけるような捜索をしないこと。

「犯人が誰か分からないうちに群衆を敵にするな」

倉庫の調査で、照明器具の箱に隠された発火装置と火薬が見つかった。

搬入記録には複数の偽名が使われていた。

護衛隊は荷車の車輪に残った赤土から、隠し場所を特定した。

ところが容疑者の一人が市場へ逃げ込んだ。

「市場を封鎖しますか」

「出口を押さえろ。商人には避難の理由を説明しろ。踏みつぶされる人を出すな」

容疑者は井戸の脇で拘束された。

誰も剣を抜かず、群衆に負傷者も出なかった。

エリシアは式典の延期を決めた。

議員の一部は弱腰だと批判したが、皇帝は言った。

「民の安全より、私の勇敢さを見せることが大切だとは思いません」

ソフィは事情聴取のあと、シリウスに小さな声で尋ねた。

「私、敵の国の子なんです。それでも信じてくれたんですか」

「伝票の中身を確かめた。お前の生まれを調べたわけじゃない」

「父は昔、帝国兵と戦いました」

「ならば、お前が今日したことはなおさら大切だ」

少女は涙をこぼした。

彼女が恐れていたのは犯人だけではなかった。

真実を話しても、国籍のせいで信じてもらえないことだった。

事件の調査は続き、拘束された者のうち起訴された者は、証拠と証言に基づいて公開の法廷で審理されることになった。

シリウスは少女の証言が報復を招かないよう、居場所の保護を手配した。

褒賞金を渡す日、エリシアは何が欲しいか尋ねた。

ソフィは迷った末に答えた。

「故郷の学校に、本を買ってください」

皇帝は頷き、少女の望みどおりにした。

記念日の式典は数日遅れで開かれた。

シリウスは群衆の端で、旧王国と帝国の子供が一冊の本を覗き込む姿を見た。

その日の平和を守ったのは、大将軍の剣ではなかった。

疑われる覚悟で門を叩いた少女の勇気だった。

ソフィの証言を記録する際、役人は出身地の欄で筆を止めた。

旧王国領の村名を聞いた途端、護衛兵の一人が眉をひそめたのだ。

「犯人と同じ土地の出身かもしれません」

少女の指が震えた。

シリウスは役人の紙を指さした。

「出身地は本人確認に必要だ。疑う根拠にはならない。発言と証拠を分けて記せ」

だがその後、ソフィが市場へ戻ると、仕事仲間の一人が距離を置いた。

「宮殿に密告したんだろう。次は俺たちか」

少女は家に閉じこもった。

危険を知らせたことが、暮らしを壊してしまったのだ。

シリウスは報奨金を渡すだけでは足りないと悟った。

彼女の雇い主に事情を説明し、職を失わないよう法的な保護を整えた。

ただし少女の居場所を勝手に公表しないことを条件にした。

「英雄だと紹介すれば、皆が守ってくれるでしょう」

広報官の提案をシリウスは退けた。

「顔を知られれば、犯人の仲間にも見つかる」

ソフィは自分の名前を記念碑に刻まないでほしいと願った。

「学校に本が届いたら、それでいいです」

ソフィの証言が記録されると、旧王国の町で噂が広まった。

少女が帝国の褒賞金目当てで父の仲間を売った、という根拠のない話だった。

ソフィは学校へ行けなくなった。

門の外に見知らぬ男が立っていたからだ。

「私が黙っていればよかったのかな」

シリウスはすぐ否定したくなった。

しかし少女の怖さを、英雄の言葉で消すことはできない。

「黙らなかったことは正しい。だが、そのために危険を負わせたのは大人たちの責任だ」

彼は護衛隊と相談し、少女の居場所を公表しないこと、証人への脅迫を独立して捜査することを決めた。

帝国側だけで守れば、かえって密告者という噂を強める。

旧王国側の治安官にも協力を求めた。

治安官は苦い顔をした。

「こちらの住民が皇帝を救ったと認めれば、反発する者がいます」

「認めるのは皇帝の恩人だからではない。犯罪を知らせた市民だからだ」

調査の結果、噂を広めた一人が暗殺計画の資金提供者とつながっていた。

だが噂を信じた町の人々すべてを罪人にはできない。

ソフィはしばらく町を離れ、別の学校で学んだ。

帰郷を急がせなかった。

本人が選べることが何より大切だったからだ。

半年後、彼女は故郷の図書室へ戻った。

以前彼女を避けた同級生が、棚の前で声をかけた。

「その本、面白い?」

「うん。最後がちょっと難しい」

それ以上の謝罪はなかった。

ソフィもすぐには許せなかった。

それでも二人は同じ机に座った。

シリウスが受け取った報告には、少女の勇気を讃える言葉より先に、『本人の希望で帰郷』と書かれていた。

その一行を読んで、ようやく肩の力を抜いた。


帰郷から数週間後、故郷の学校から礼状が届いた。

子供たちが読みたい本を一冊ずつ選び、図書室の棚に並べたという。

そこには少女の名前はなかった。

エリシアは手紙を読んで言った。

「名を残さない勇気もあるのですね」

シリウスは頷いた。

「守ったものが残れば、それで十分だと思える人もいる」

ソフィが再び市場へ出た朝、彼女は以前と同じように荷車を引いた。

特別な行列も拍手もない。

その平凡な朝を取り戻すことこそ、事件の本当の終わりだった。

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