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レベル1の村娘、実は世界最強でした  作者: ななほし


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第5話 母の短剣

「……誰ですか?」


 私は石室の中を見回した。


 けれど。


 誰もいない。


 あるのは、中央に置かれた黒い玉だけ。


 その玉が、赤く光っている。


『……』


「……」


 怖い。


 正直に言えば、すごく怖い。


 でも。


 なぜだろう。


 逃げようとは思わなかった。


 むしろ――


 この場所を知っているような。


 そんな不思議な感覚があった。


「あなたは……私を知っているんですか?」


『知っている』


 即答だった。


「……どうして?」


『それを語るには、まだ早い』


「ええ……」


 私は困った。


「じゃあ、何を知ってるんですか?」


『お前が持つ、その短剣のことを』


「……これ?」


 私は腰から短剣を取り出した。


 母が昔から持っていたもの。


 私が冒険者になる時に、母が渡してくれたもの。


 古くて、少し刃が欠けている。


 だけど。


 私はこの短剣が好きだった。


「これがどうしたんですか?」


『それは、ただの短剣ではない』


「え?」


 私は短剣を見る。


 どこからどう見ても。


 古びた短剣だった。


『その刃に刻まれた紋章を見ろ』


 私は目を凝らした。


 柄の根元。


 小さな円の中に、三本の線。


 今まで気にしたこともなかった。


「これ……?」


『そうだ』


「何の紋章ですか?」


『……』


 黒い玉が一瞬だけ強く光った。


『それは――』


 その瞬間。


 ――ドンッ!!


「きゃっ!」


 石室全体が揺れた。


「な、何!?」


 天井から小さな石が落ちてくる。


 私は慌てて頭を抱えた。


『時間がない』


「え?」


『あれが近づいている』


「あれって?」


 返事がない。


「ちょっと!」


 黒い玉の光が弱くなる。


『娘よ』


「はい?」


『その力を、決して恐れるな』


「……力?」


『お前は――』


 そこで。


 声が途切れた。


「え?」


 黒い玉は完全に沈黙した。


「……終わり?」


 私はしばらく待った。


「もしもし?」


 返事はない。


「……寝ちゃったのかな」


 私は首を傾げた。


 すると。


 背後から――


「ミア!」


「!」


 聞き覚えのある声。


「レオンさん!」


 振り返る。


 石室の入口に。


 レオン、シエラ、クロエ、ガルドが立っていた。


「無事か!」


 レオンが駆け寄ってくる。


「はい!」


「よかった……!」


 クロエも息を切らしている。


「もう、心配したんだから!」


「すみません!」


「謝るくらいなら、もう落ちないでよ!」


「はい!」


「返事だけはいいんだから……」


 クロエがため息をついた。


 ガルドも私の頭から足元まで確認する。


「怪我は?」


「ありません!」


「本当に?」


「はい!」


 ガルドは安心したように頷いた。


「よかった」


 シエラだけが。


 石室を見回していた。


「……ここは?」


「分かりません」


「この部屋に落ちてきたの?」


「はい」


「何かあった?」


「えっと……」


 私は黒い玉を見る。


「この玉が喋りました」


「…………」


 シエラが固まった。


「……喋った?」


「はい」


「何て?」


「私のことを知ってるって」


「……」


 シエラが黒い玉に近づく。


 慎重に手をかざす。


「魔力反応は?」


 レオンが聞く。


「ある」


 シエラの表情が変わった。


「でも……普通じゃない」


「どういう意味だ?」


「古代魔法に近い」


「古代魔法?」


 私は聞き返す。


 シエラは頷いた。


「千年以上前の魔法体系」


 そして。


 黒い玉を見つめる。


「こんなものが、どうしてここに……」


 その時。


 シエラの視線が私の手元で止まった。


「……ミア」


「はい?」


「その短剣」


「これですか?」


 私は短剣を見せた。


 シエラの顔が険しくなる。


「それ……どこで手に入れたの?」


「母からです」


「お母さん?」


「はい」


 シエラが短剣を受け取る。


 刃を見る。


 柄を見る。


 そして。


「……ありえない」


「?」


「この紋章……」


 シエラの指が震えている。


「知ってるんですか?」


「……知らない」


「え?」


「正確には」


 シエラは短剣を返した。


「知らないけど……似た紋章を見たことがある」


「どこで?」


「王都の古文書館」


 シエラは小さく息を吐いた。


「禁書指定されている資料の中に」


「禁書……」


 レオンが眉をひそめる。


「そんな危ないものなのか?」


「分からない」


 シエラは首を振る。


「でも、一つだけ」


「何?」


「その紋章には、こういう意味があると記されていた」


 シエラは私を見る。


「『世界の始まりを見届けし者』」


「……?」


 私は意味が分からなかった。


「どういうことですか?」


「それが分からない」


 シエラは答えた。


「だからこそ、王都に戻ったら調べたい」


「はい!」


 私は元気よく頷いた。


「一緒に調べましょう!」


 シエラが少し驚く。


「怖くないの?」


「何がですか?」


「自分の持っているものが、禁書に関係しているかもしれないんだよ?」


 私は短剣を見る。


 母からもらったもの。


 私にとっては。


 ただの大切な思い出だった。


「怖くないです」


 私は笑った。


「だって、お母さんがくれたものですから」


「……」


 シエラが黙る。


 そして。


 少しだけ笑った。


「そう」


     ◇


 石室を出る。


 来た道を戻っていく。


 途中。


 クロエが隣を歩いていた。


「ねえ、ミア」


「はい?」


「お母さんって、どんな人?」


「優しい人です!」


「それだけ?」


「料理が上手です!」


「……それだけ?」


「あと、怒ると怖いです!」


「普通のお母さんだね」


 クロエが笑う。


「お父さんは?」


「冒険者でした」


「そっか」


「はい」


 私は前を向いた。


「だから私も冒険者になったんです」


「……いいね」


 クロエが小さく言った。


「そういうの」


「?」


「ううん。何でもない」


 そして。


 クロエが少しだけ私に近づいた。


「じゃあさ」


「はい?」


「これからも一緒に冒険しようね」


「もちろんです!」


 私は笑った。


     ◇


 その頃。


 王都。


 王国騎士団本部。


「報告します!」


 一人の騎士が駆け込んできた。


「灰色迷宮にて、大規模な魔力反応を確認!」


「規模は?」


「測定不能です!」


 部屋にいた騎士たちがざわめく。


「まさか……」


 一人の老人が立ち上がった。


「千年前の記録と一致しているのか?」


「はい!」


 騎士が震える声で答える。


「古代封印領域の反応と一致しました!」


 老人の顔から血の気が引いた。


「……封印が」


 誰かが呟く。


「破られたのか?」


 老人は首を横に振った。


「違う」


「では……?」


 老人は窓の外を見る。


 遠くにある灰色迷宮の方向を。


「封印が破られたのではない」


「……」


「封印が――」


 一度、言葉を止める。


「誰かを認識したんだ」


     ◇


 同じ頃。


 灰色迷宮。


 ミアたちが去った後。


 地下深く。


 黒い玉が再び赤く光った。


『……認識した』


『間違いない』


『あの娘は――』


 黒い玉の奥で。


 何かが目を開ける。


『――「鍵」だ』


 そして。


 遥か遠く。


 魔族領の黒い城。


 玉座に座る魔王が立ち上がった。


「……始まったか」


 その顔に。


 初めて笑みが浮かんだ。


「千年待ったぞ」


 魔王は呟く。


「――ミア・ルナベル」


 世界の誰も知らない。


 ただの村娘だと思われている少女が。


 千年前から続く巨大な物語の中心にいることを。


 そして。


 その少女自身は――


「お腹すいたなぁ」


 そんなことを考えながら。


 仲間たちと迷宮を歩いていた

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