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レベル1の村娘、実は世界最強でした  作者: ななほし


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第23話 千年前の父

――父さん。


 目の前にいる。


 ずっと。


 死んだと思っていた人。


 私が幼い頃。


 突然いなくなった人。


 村では。


 魔物討伐で亡くなったと聞かされていた。


「……父さん」


 声が震える。


 アレンは。


 静かに笑った。


「大きくなったな、ミア」


「……」


 私は。


 一歩。


 また一歩。


 父さんへ近づいた。


「本当に……父さん?」


「ああ」


「生きてたの?」


「……そうだ」


「どうして?」


 私は。


 涙をこらえながら聞いた。


「どうして私を置いていったの?」


 アレンは。


 答えなかった。


「どうして母さんもいなくなったの?」


「……」


「どうして私は何も知らされなかったの?」


「ミア」


「私はずっと――」


 声が詰まる。


「自分は普通の女の子だと思ってました」


「……」


「弱くて」


「何もできなくて」


「でも、それでいいと思ってた」


 私は。


 拳を握る。


「それなのに」


「今になって」


「私が女神の娘だとか」


「世界の外から来たとか」


「神様が殺しに来るとか……」


 涙が落ちる。


「意味が分からないよ……」


 アレンは。


 しばらく私を見つめていた。


 そして。


「……すまない」


 深く。


 頭を下げた。


「本当に、すまない」


 私は。


 何も言えなかった。


     ◇


「まず、知っておいてほしい」


 アレンが言う。


「お前が村で生まれたという記憶は、本物だ」


「……本当に?」


「ああ」


「じゃあ……世界の外から来たっていうのは?」


 アレンは。


 少し考える。


「正確には――」


「お前の魂が、この世界の法則だけでは説明できない」


「……魂?」


「お前は生まれる前から、特殊だった」


 アレンが。


 ルナを見る。


「お前の母親は、世界を創った」


 ルナが頷く。


「そして私は、その力を知っていた」


「だから……」


 私は。


 聞いた。


「私を産んだの?」


「違う」


 アレンは首を振る。


「お前は――」


 一瞬。


 言葉を選ぶ。


「ルナが作った存在ではない」


「……え?」


「お前は、ルナから生まれた」


「それは……同じじゃない?」


「違う」


 アレンの顔が。


 真剣になる。


「お前の魂は、ルナのものではない」


「……」


「ルナが世界を創る前から――」


「お前の魂は存在していた」


 私は。


 何も言えなかった。


「つまり」


 シエラが口を挟む。


「ミアさんは、女神よりも古い存在……?」


「そういうことになる」


「そんな……」


 シエラが。


 珍しく言葉を失った。


     ◇


 その時。


 背後から。


 ――ガシャン。


 鎖が動いた。


 全員が振り返る。


 巨大な影。


 虚無の王。


 その赤い目が。


 私を見ていた。


「……」


 私は。


 その目から。


 目を離せなかった。


「父さん」


「何?」


「あれは何?」


 アレンの表情が。


 険しくなる。


「あれは」


 そして。


「お前の敵ではない」


「……え?」


 全員が驚いた。


「虚無の王は――」


 アレンが。


 鎖を見つめる。


「この世界を壊すために存在しているわけではない」


「じゃあ何のため?」


「世界を終わらせるためだ」


「同じじゃない?」


 クロエが言う。


「似ているけど違う」


 アレンは答えた。


「世界を壊す者は、世界を憎んでいる」


「だが、虚無の王は――」


 アレンが。


 影を見る。


「世界を終わらせることで、新しい世界を始めようとしている」


「……」


「それが、虚無の王の目的だ」


 レイヴェンが。


 険しい顔をする。


「ならば千年前の戦いは何だった?」


「俺たちは、あいつを倒そうとしたんじゃない」


「封印しただけだ」


「なぜ?」


 アレンは。


 私を見る。


「お前を守るためだ」


「……私?」


「ああ」


 アレンが頷く。


「千年前」


「虚無の王は、世界を終わらせるために動き始めた」


「その時」


「お前が生まれた」


 私は。


 息を呑む。


「私が……?」


「お前の存在が」


 アレンは。


 静かに続けた。


「虚無の王の計画を狂わせた」


「どうして?」


「お前が持っていたからだ」


「何を?」


 アレンが。


 一言。


「世界の核を」


     ◇


 ――世界の核。


 その言葉が。


 頭に残った。


「それって……」


 シエラが聞く。


「世界を動かす魔力源のようなものですか?」


「もっと根本的なものだ」


 アレンは答える。


「この世界に存在する全ての法則」


「時間」


「空間」


「生命」


「死」


「魔力」


「そして――」


 アレンが私を見る。


「因果」


 私は。


 息を呑んだ。


「お前は、それらを生み出す側にいる」


「……そんなの」


 私は首を振る。


「私、何もできませんよ?」


 全員が。


 一瞬。


 黙った。


「……ミア」


 レオンが。


 困ったように言う。


「それはもう、無理があると思うぞ」


「え?」


「黒牙狼王を吹き飛ばしただろ」


「魔族の軍勢を一言で止めただろ」


「神族の剣を消しただろ」


「……」


 私は。


 指を折って数える。


「……本当に私が?」


「お前だ」


「……」


 クロエが笑った。


「今さら気づいたの?」


「だって!」


 私は。


 頬を膨らませる。


「全部たまたまだと思ってました!」


「どんな人生送ってきたのよ……」


 シエラが苦笑する。


 その時。


 アレンが。


 小さく笑った。


「……変わらないな」


「え?」


「そのままだ」


 父さんは。


 少し嬉しそうだった。


「母親に似た」


 ルナも。


 微笑む。


「でしょう?」


「……」


 私は。


 その二人を見る。


 初めて。


 本当の家族を見ている気がした。


     ◇


 でも。


 その時間は。


 長く続かなかった。


 ――ズズズズズ……。


 虚無の王の身体から。


 黒い霧が漏れ始める。


「……まずい」


 アレンが立ち上がる。


「封印が弱くなっている」


「どうすれば?」


「この場から離れろ」


「父さんは?」


「俺は残る」


「嫌です」


 私は。


 即答した。


「せっかく会えたのに」


「ミア」


「また置いていくんですか?」


 アレンは。


 黙った。


「私は嫌です」


「もう、何も知らないままなのは嫌」


「だから――」


 私は。


 父さんの手を握った。


「一緒に帰りましょう」


 アレンは。


 驚いた顔をした。


 そして。


 優しく笑った。


「……そう言うと思っていた」


「じゃあ!」


「だが」


 アレンの表情が変わる。


「今はまだ無理だ」


 その瞬間。


 虚無の王が。


 初めて口を開いた。


『――アレン』


 低い声。


 空気が震える。


『久しいな』


「……ああ」


 アレンが答える。


『娘は大きくなった』


「……」


『ならば』


 虚無の王の赤い目が。


 私を見る。


『もう、返してもらおう』


「何を?」


 私が聞く。


『――世界の核を』


 ――ドクン。


 私の胸が。


 強く脈打った。


「……!」


 短剣が。


 突然。


 真っ二つに割れた。


「え?」


 床に落ちる。


 ――カラン。


 そして。


 短剣の中から。


 小さな光が飛び出した。


 それが。


 私の胸へ入っていく。


「ミア!」


 レオンが叫ぶ。


「大丈夫!」


 私は。


 胸を押さえる。


 痛くない。


 むしろ。


 温かい。


 そして。


 目の前に。


 新しい表示が現れた。


 『世界の核――接続を確認』


 その下。


 さらに。


 文字が浮かぶ。


 『管理者権限――完全解放まで』


 『残り――三段階』


「……三段階」


 ルナが。


 目を見開いた。


「そんな……」


「どうしたの?」


 私は聞く。


 ルナは。


 震える声で言った。


「封印は……」


「三段階ではないはずよ」


「……え?」


「あなたにかけた封印は――」


 ルナが。


 私を見つめる。


「四段階だった」


 ――その瞬間。


 神殿の奥から。


 聞いたことのない声が響いた。


『違う』


 全員が振り返る。


 誰もいない。


『封印は――』


 声が。


 私の中から聞こえる。


『五段階だ』


 私は。


 凍りついた。


「……私の中?」


 次の瞬間。


 私の目の前に。


 見覚えのない表示が浮かび上がった。


 『第零封印――未解除』


「……第零?」


 アレンの顔から。


 血の気が引いた。


「ミア」


「はい?」


「それだけは――」


 父さんが。


 初めて。


 怯えた。


「絶対に解除するな」


「どうして?」


 アレンは。


 答えなかった。


 ただ。


 私を見つめる。


「それを解除したら――」


 虚無の王が。


 笑った。


『世界の始まりが――思い出される』


 ――ゴゴゴゴゴ!!


 神殿全体が崩れ始めた。


 そして。


 私の中で。


 何かが。


 ゆっくりと。


 目を開けた。

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