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レベル1の村娘、実は世界最強でした  作者: ななほし


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第2話 薬草採取の報酬

町へ戻った私は、冒険者ギルドの扉を開けた。


「ただいま戻りました!」


 元気よく声をかける。


 すると――。


「…………」


「…………」


「…………」


 なぜか、ギルド内が静まり返った。


「……あれ?」


 私、何かしたかな。


 入口に立ったまま、辺りを見回す。


 昼前だというのに、冒険者たちはほとんど喋っていなかった。


 さっきまで聞こえていた酒場の笑い声もない。


 みんな、何かを話している。


 でも、私が入ってきた瞬間に黙ってしまった。


「……こんにちは?」


 一番近くにいた男性へ声をかける。


 男性は私を見る。


 そして――


 ものすごい勢いで目を逸らした。


「え?」


 何だろう。


 ちょっと怖い。


 私はそっと受付へ向かった。


「すみません」


「……はいっ!」


 受付のお姉さんが飛び上がった。


「ひゃっ!」


「えっ?」


「あ、いえ! 何でもありません!」


 昨日、冒険者登録をしてくれたお姉さんだ。


 名前は確か、エマさん。


 今日も笑顔で対応してくれる。


 ただ――。


 昨日より少し顔色が悪い気がする。


「薬草採取の依頼、終わりました」


「…………」


「こちらです」


 私は袋をカウンターに置いた。


 どさっ。


 エマさんが袋を見る。


「……薬草?」


「はい!」


「全部、一人で?」


「はい!」


「どこの森へ?」


「町の近くの森です」


「…………」


 エマさんの表情が変わった。


「ミアさん」


「はい?」


「その森で……何か見ませんでしたか?」


「見ました!」


 エマさんが息を呑む。


「やっぱり……!」


「大きな狼です!」


「……っ」


 ギルドの奥から、


 ガタン!


 と椅子が倒れる音がした。


 私は驚いて振り返る。


 冒険者の一人が立ち上がっていた。


「黒い毛……だったか?」


「はい」


「目は?」


「赤かったです」


「牙は?」


「すごく大きかったです」


「体長は?」


「うーん……」


 私は両手を広げた。


「このくらい?」


「…………」


 男性の顔から血の気が引いた。


「……嘘だろ」


「え?」


 男性は周囲を見回す。


「黒牙狼王だ……」


「黒牙狼王?」


 聞いたことのない名前だった。


「何それ?」


「知らないのか!?」


 別の冒険者が叫ぶ。


「知らないです」


「お前……」


 なぜか呆れられた。


 私は首を傾げる。


「そんなに有名な狼なんですか?」


「有名どころじゃない!」


 男性が頭を抱えた。


「災害級だぞ!」


「さいがい……?」


「災害級!」


 受付のお姉さんが小さな声で続けた。


「一匹で街を滅ぼせる可能性がある魔物です」


「…………」


 私は固まった。


「え?」


「昨日、王都から討伐隊を派遣する話まで出ていたんです」


「…………」


「それが今朝、突然……」


 エマさんが言葉を止める。


「どうしたんですか?」


「黒牙狼王が、倒されていたんです」


「……へえ」


「……」


「よかったですね」


「よくありません!」


 なぜか怒られた。


「どうしてですか?」


「誰が倒したのか分からないんですよ!」


「魔物同士で喧嘩したとか?」


「そんな傷じゃなかったそうです」


「じゃあ病気?」


「災害級魔物が病気で倒れるなんて聞いたことありません!」


「そうなんですか……」


 私は腕を組んで考えた。


 でも、心当たりは一つしかない。


「そういえば」


「はい?」


「森の中で、すごい音がしました」


 ギルド中の人間がこちらを見る。


「ドンッ! って」


「…………」


「そのあと、狼がいなくなりました」


「…………」


「だから、逃げたんだと思います」


 沈黙。


 私は不思議に思った。


「どうしました?」


 エマさんが恐る恐る尋ねる。


「……ミアさん」


「はい」


「その狼に、何かしましたか?」


「何か?」


「攻撃したとか」


「してませんよ」


「本当に?」


「はい」


「では、どうやって……」


 私は少し考えた。


「……」


「…………」


「……押しました」


「…………」


「手で」


 ギルド内が静かになった。


 誰も喋らない。


 私は困ってしまう。


「……あの?」


 すると。


 後ろから小さな笑い声が聞こえた。


「ぷっ……」


 振り返る。


 一人の少女がいた。


 私と同じくらいの年齢だろうか。


 赤茶色の髪。


 細身の身体。


 腰には短いナイフ。


 彼女は口元を押さえながら笑っている。


「ご、ごめん……」


「?」


「だって……」


 少女は笑いをこらえながら言った。


「災害級の魔物を『押した』って……」


「あの……」


「面白すぎるよ」


「……」


 なんだか恥ずかしい。


「笑わないでください」


「ごめんごめん」


 少女は私の前まで歩いてきた。


「私はクロエ」


「ミアです」


「知ってる」


「え?」


「昨日登録した新人でしょ?」


「はい」


「それで今日、黒牙狼王が倒れた」


「……?」


 クロエはじっと私を見る。


「ねえ、ミア」


「はい」


「本当に何も知らないの?」


「何がですか?」


「……ううん」


 クロエは少し考えてから笑った。


「なんでもない」


「?」


 そのとき。


 ギルドの扉が勢いよく開いた。


「失礼する!」


 大きな声。


 全員が振り返る。


 入ってきたのは、三人の冒険者だった。


 先頭にいるのは、金髪の青年。


 腰に剣を下げている。


 その後ろには、杖を持った女性と、大きな荷物を背負った男性。


「討伐隊の報告を――」


 青年が言葉を止める。


 そして、ギルド内を見回した。


「……何だ?」


 受付嬢が慌てて近づく。


「レオンさん!」


「エマ、状況は?」


「それが……」


 エマさんがこちらを見る。


 私を見る。


 そして、レオンと呼ばれた青年を見る。


「この子が……」


「?」


 私を指差した。


「森から戻ってきたところです」


 レオンの目が私に向く。


「君?」


「はい」


「名前は?」


「ミアです」


「森に行ったのか?」


「はい」


「何をしていた?」


「薬草採取です」


「……それだけ?」


「はい」


 レオンは眉をひそめた。


「黒牙狼王を見なかったか?」


「見ました」


 レオンの表情が変わる。


「どこで?」


「森の中です」


「戦ったか?」


「戦ってません」


「では、逃げたのか?」


「はい」


「どうやって?」


 私は少し考える。


「押したら逃げました」


「…………」


 レオンが黙った。


 隣の魔法使いの女性も黙る。


 後ろの大柄な男性も黙る。


 そしてクロエだけが――


 また笑い始めた。


「ふふっ……!」


「クロエさん……」


「ごめんって!」


 レオンは頭を抱えた。


「……なるほど」


「何がですか?」


「いや」


 レオンは私を見る。


「君、面白いな」


「?」


「冒険者になったばかりなんだろう?」


「はい。昨日です」


「ランクは?」


「Fです」


「……F」


 レオンは少し考えた。


「なら、ちょうどいい」


「?」


「俺たちのパーティーに入らないか?」


「えっ?」


 突然の申し出だった。


「でも私、弱いですよ?」


「知ってる」


「レベル1ですよ?」


「それも知ってる」


「魔法も使えません」


「……それも知ってる」


 なぜ知っているんだろう。


 レオンは苦笑した。


「だが、Fランクなら当然だ」


「そうなんですか?」


「ああ」


 レオンは剣に手を添えた。


「俺たちは明日、初心者向けのダンジョンへ向かう」


「ダンジョン……!」


 その言葉を聞いた瞬間。


 胸が高鳴った。


 冒険者になったなら、一度は行ってみたい場所。


 魔物。


 宝箱。


 未知の遺跡。


「行きたいです!」


 思わず即答していた。


 レオンが少し驚いた顔をする。


「……本当に?」


「はい!」


 私は頷いた。


「私、冒険者になったばかりなので、いろんな場所へ行ってみたいです!」


 レオンは笑った。


「分かった」


 そして、後ろの二人を紹介してくれた。


「俺はレオン。剣士だ」


「私はシエラ。魔法使い」


「……ガルド」


 大柄な男性が短く答える。


 そして。


「私はクロエ!」


「クロエさんも?」


「うん」


 クロエが手を上げる。


「私もこのパーティーに入ってる」


 こうして私は――。


 冒険者になって二日目にして、初めての仲間を得た。


 ただ。


 このときの私は知らなかった。


 明日向かうことになるダンジョンが――


 千年以上前から誰も最深部へ到達できていない場所だということを。


 そして。


 そのダンジョンの最深部には――


 私自身に関係する、古い石碑が眠っていることを。


「明日、集合は朝六時な」


「はい!」


「遅れるなよ」


「分かりました!」


 私は笑顔で頷いた。


 冒険者になって、まだ二日。


 なのに。


 もうこんなに面白いことが始まっている。


 明日が楽しみだった。


 ――ただ一つ。


 ギルドを出たあと。


 私の後ろ姿を見つめていた人物がいた。


 受付嬢のエマだ。


「……あの子」


 彼女は小さく呟いた。


「本当に……何も知らないんだ」


 エマの手には、一枚の古い記録書があった。


 そこには黒牙狼王について書かれている。


 討伐難易度。


 災害級。


 推奨討伐人数。


 最低二十名。


 必要戦力。


 王国騎士団一個中隊以上。


 そして最後に。


 黒牙狼王の死因。


『身体の前面を中心に、未知の圧力による損壊』


 エマは震える手で記録書を閉じた。


「……押しただけ、ね」


 その日の夜。


 王都では、さらに一枚の報告書が作られていた。


 そこには――


『黒牙狼王を討伐した可能性のある少女について、極秘調査を開始する』


 と書かれていた。


 少女の名前。


ミア・ルナベル。


 冒険者ランク。


F。


 レベル。


1。


 そして、その横には。


 まだ誰にも知られていない一文があった。


『鑑定結果に重大な異常の可能性あり』


 ミアの知らないところで。


 少しずつ。


 世界が動き始めていた。

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