第13話 古き塔への階段
――コツ。
――コツ。
地下へ続く階段を。
私たちはゆっくりと下りていた。
「……本当に行くんですか?」
クロエが小声で聞く。
「行くしかないだろ」
レオンが答える。
「さっきの黒ローブの連中も、まだ王城にいる」
背後では。
騎士たちが侵入者たちを拘束している。
でも。
私たちが向かっている地下への道は。
誰も追ってこなかった。
国王陛下の命令で。
私たちだけが進むことになった。
「どうして私たちだけなんでしょう?」
私が聞く。
アリシアさんが答えた。
「この階段は、あなたが現れたことで初めて開いたからです」
「私が?」
「ええ」
私は胸元の短剣を見る。
さっきまで光っていた紋章は。
今は元に戻っていた。
「……この短剣」
シエラが呟く。
「やっぱり普通の武器じゃないわ」
「母からもらっただけなんですけど……」
「それが一番怖いのよ」
「?」
私は首を傾げた。
◇
階段は。
どこまでも続いていた。
「長い……」
私は思わず呟く。
「もう十分歩いたよな」
ガルドも周囲を見る。
壁には古い文字が刻まれている。
その一つをシエラが読む。
「……『選ばれし者、眠りし記憶を開く』」
「選ばれし者?」
クロエが聞く。
「おそらくミアのことね」
「私ですか?」
「他に誰がいるのよ」
「……そうですよね」
少し照れた。
すると。
階段の途中で。
私の足が止まった。
「……あれ?」
「どうした?」
レオンが振り返る。
「今……誰かに呼ばれた気がしました」
「声が?」
「はい」
私は耳を澄ます。
すると。
『――ミア』
「!」
今度は。
はっきり聞こえた。
「今、聞こえました!」
全員が黙る。
シエラが魔法を使う。
「……何もいない」
「でも、聞こえました」
私は前を見る。
『――こっちだ』
声が。
また聞こえた。
その声は。
懐かしかった。
「……父さん?」
思わず口にする。
レオンが驚く。
「アレンか?」
私は答えられなかった。
ただ。
階段を下りる。
声に導かれるように。
◇
やがて。
階段が終わった。
そこには。
巨大な扉があった。
高さは十メートル以上。
扉の中央には。
私の短剣と同じ紋章。
「これ……」
シエラが近づく。
「古代文字がある」
刻まれていた言葉。
――『血を示せ』
「血……?」
私が首を傾げる。
「どうする?」
レオンが聞く。
私は考えた。
「……これですか?」
短剣を抜く。
「危ないぞ」
「大丈夫です」
短剣の刃先を。
指先に少し当てる。
「痛っ」
一滴。
血が落ちた。
――ポタ。
その瞬間。
扉が。
震えた。
――ゴゴゴゴゴゴ……。
「なっ!?」
巨大な扉が。
ゆっくりと開いていく。
「……ミア」
シエラが呟いた。
「あなたの血に反応したわ」
「そうみたいですね」
私は少し怖くなった。
扉の向こうは。
真っ暗だった。
「何かいます」
ガルドが盾を構える。
「警戒しろ」
レオンも剣を抜く。
私たちは。
ゆっくりと中へ入った。
◇
部屋の中央。
そこに。
一人の男性が立っていた。
「……!」
私は息を呑む。
黒い髪。
優しい目。
見覚えのある顔。
「父さん……?」
男性は。
私を見る。
そして。
微笑んだ。
「大きくなったな」
「……!」
私は走り出した。
「父さん!」
手を伸ばす。
しかし。
私の手は。
男性の身体をすり抜けた。
「……え?」
男性の姿が。
薄く揺らめく。
「これは……映像?」
シエラが驚く。
男性――アレンは。
静かに話し始めた。
「ミア」
「……」
「この映像を見ているということは」
アレンは少し悲しそうに笑った。
「お前はもう、ここまで来てしまったんだな」
「父さん……どこにいるの?」
私は問いかける。
「どうして死んだって言われたの?」
アレンは答えない。
「俺が伝えられることは少ない」
「どうして?」
「時間がないからだ」
その言葉。
以前も聞いた。
「ミア」
アレンは。
私の目を見る。
「お前の母親は――」
映像が乱れる。
「待って!」
私は叫んだ。
「母さんが何なの!?」
アレンの姿が薄くなる。
そして。
「お前の母親は――」
その瞬間。
――ドン!!
部屋全体が揺れた。
「何!?」
床が割れる。
壁から黒い煙が噴き出した。
「危ない!」
レオンが私を引っ張る。
床から。
黒い腕が伸びてきた。
「魔物!?」
ガルドが盾を構える。
しかし。
黒い腕は。
私たちを攻撃することなく。
アレンの映像へ向かって伸びていった。
「……何だ?」
アレンの表情が変わった。
「来るのが早すぎる」
「父さん?」
「ミア!」
アレンが叫ぶ。
「絶対に――」
映像が途切れる。
「待って!」
私が手を伸ばす。
でも。
もう遅かった。
アレンの姿は消えていた。
黒い腕が。
ゆっくりと。
こちらへ向き直る。
その先端には。
一つの赤い目。
「……!」
シエラが震える。
「これは……魔物じゃない」
「じゃあ何なんだ?」
レオンが構える。
シエラが答える。
「魔力そのもの……」
赤い目が。
私を見る。
そして。
声が響いた。
『――鍵を確認』
私は一歩下がった。
『封印対象を確認』
さらに。
『――排除を開始する』
「来るぞ!」
レオンが叫ぶ。
黒い腕が。
私たちへ向かって伸びてきた。
私は短剣を握る。
怖い。
でも。
逃げたくない。
レオンたちを守りたい。
そう思った瞬間。
短剣の紋章が。
再び光った。
――ドクン。
――ドクン。
まるで。
私自身の心臓と同じように。
脈打っている。
そして。
地下深く。
誰にも知られていない場所で。
一つの巨大な目が開いた。
『――第一封印』
『解除を確認』
『次段階へ移行します』
世界のどこかで。
何かが。
目を覚まし始めていた




