第69話 満たされし怒りの葡萄酒
『あなたが酒にラベルを貼るなら、酒造の存在を否定する事になる』
―思想家キムチゴール―
メメシアはあたしを救出する為に、ヤーバンブルク大司教領内の魔女狩りの停止命令を司教区に発効させたのよ。
色々手回ししたり、大変だったはずなのよ・・・
「貴公は勘違いをしている。貴公に権威は無い。その紙にのみ、権威がある・・・だが、もし、その紙が紛失したら?貴公に何ができる?」
魔女狩り将軍ハスラングは魔女狩り騎士ジャキエルに合図を送ったのよ。
「メメシア!危ないのよ!!」
ジャキエルが構えたのよ!
「伸び進みたまへアンジェリス スカーラエ!」
メメシア目掛け、ジャキエルの手から光のはしごが勢いよく発射されるように伸びたのよ!
でも、メメシアは片手で光のはしごを掴み止めたの!
そして、魔女狩り停止命令の書をハレルに手渡したのよさ。
「な・・何!?なぜ、微動だにせぬ!?しかも、片手で、何も負荷を感じていないと言うのか!?」
光のはしごを両手で掴み、ねじ伏せようと力むジャキエルに対し、メメシアはそれを片手で押さえ、ジャキエルを睨む。
「それは、信仰心の差です」
「ふざけんな!オレの奇跡術をなめるな!!」
「奇跡は自らが行うものではありません。与えられるものです」
メメシアはそう言うと、光のはしごを持ち上げ、ジャキエルの体は地上から離れたのよ。
メメシアは光のはしごを地面に突き刺す。
すると、光のはしごは螺旋を描きながら天高く伸びて行った。
反対側を掴んでいたジャキエルはそのまま天高く昇って行って、とうとうその姿が見えなくなったのよさ・・・
「彼は奇跡術を使うには未熟です。このはしごは解除できないでしょう。それに、解除すれば落下します。彼が1段1段、はしごを降りて来るまで時間がかかる事でしょう」
「貴公・・・なかなかやるな。どうだ?我らが魔女狩り隊に入らぬか?異端共を虐げる事は、自信の魂も浄化されて行くようで、とても心地がよいぞ」
「断ります。あなた達は信仰を穢す者達です」
「そうであるか。では、ここで天に召されてくれたまへ」
ハスラング将軍は銃をメメシアに向けたのよ!
「止めて!そんな銃なんて、簡単に人に向けちゃダメなのよさ!」
こうなったら、あたしが魔法で何とか・・・
でも、メメシアは手をあたしに向け、止めたのよさ・・・
「そのようなものを使わねば、人と話す事も出来ない臆病者なのですね。憐れみを感じます」
「汝よ!口から出る言葉で死ね!!」
ハスラング将軍は引き金を引いたのよ!
銃の脇に付いた滑車が回転し、火花が上がり、火薬に着火、大きな炸裂音と共に銃口が火を吹いたのよさ!
でも、メメシアは微動だにしなかったのよ!
「っち!はずしたか!」
「無駄です」
続いて6人の兵士達が一斉に発砲!
でも、メメシアは傷一つ付かなかったのよ!
「何?!全部外れただと?!」
「信仰心があれば、そのようなものに当たる事はありません」
これは凄い・・・
メメシアが怖い程に凄いのよさ・・・
でも、ハスラング将軍は笑みを浮かべたのよさ・・・
「このような魔術、汝は悪魔と契約をしているに違いない」
「何を無礼な事を言うのでしょうか?」
「悪魔と契約をしていない証拠なんてあるのか?」
うわぁ・・・最悪・・・
強い相手に卑怯な言葉で攻める・・・
嫌な奴だわさ・・・
「あります。わたくしは隠さずにそれを晒しています。されど、それがわからぬあなたこそ、悪魔に魂を魅了されているようですね」
流石メメシア。
相手の口車を踏みつぶすスタイルだわさ!
「ケイダイト エーオス!ノーウィト エニム ドミヌス クイ スント エーイウス!」
ハスラング将軍が祈りの言葉を述べると、光り輝く巨大なウォーハンマーが姿を現したの!
ハスラング将軍はそれを手に、メメシアに歩み寄るのよ!
「魔女共に、異端者共に下す聖なる鉄槌!マレウス・マレフィカールム!」
「神の御業を真似したに過ぎぬ、愚かな偽奇跡術など・・・打ち砕いて差し上げましょう」
メメシアは手を組み、何か、手で印を表しているようだったのよ。
「オン!アスラガーララヤーンソワカ!」
メメシアの背後に燃え盛る光輪が出現し、その闘気、熱気から、空気が歪んで蜃気楼が発せられるのよ!
「異端の術、これで思う存分に討ち殺してやれる!」
ハスラング将軍は聖なるウォーハンマーを振り上げたのよ!
メメシアは素手でかまえるのよ!
「メメシア!危ない!」
ハスラング将軍のウォーハンマーが振り下ろされ、大地に大きなくぼみを作った!
「大振りすぎますよ」
メメシアはハスラング将軍の懐に飛び込んでいたのだわさ!
そして、メメシアの手がハスラング将軍の体に添えられたのよ!
「ナウマク サマンダ ボダナン ラタンラタト バラン タン」
メメシアが術を唱えると、ハスラング将軍は見えない何かにぶん殴られたように激しく吹き飛ばされた!
メメシアが両手で円を描く!
「オン アボキャ ベイロシャノー マカボダラ マニ ハンドゥマ ジンバラ ハラバリタヤ ウム」
メメシアがの手の軌跡上に燃え盛る初めて見る文字か印章かが浮かび上がるのよ。
すると、ハスラング将軍の手にした聖なるウォーハンマーが燃え盛り、その炎はハスラング将軍を飲み込んだのよ!
「なんだ!なんだこの炎は!!」
兵士が桶に水を汲んで、ハスラング将軍にかけるも、水は全て蒸発し、炎はその勢いを収まらず、激しく燃え盛り続けるのよさ!
流石のハスラング将軍も苦しみ、そして、祈りだした・・・
手を組み、天を仰ぐハスラング将軍を見て、メメシアは術を停めた。
炎が消え、ハスラング将軍は涙を流していた・・・
「自分が死にかけて、人に与えた苦しみを理解できたのかねぇ・・・」
なんて思ったのだが、全然違う事がすぐにわかるのよ。
「神よ。感謝します。試練を与え下さった事に、我が信仰を示す為に、我が迷いを消す為に・・・これまで築き上げた100を超える魔女と異端者共の屍は無駄ではなかった事をここに示します!」
ハスラング将軍はどうしようもない程に、狂信者であったのだわさ・・・
人の道を踏み外したような邪の道を聖なる道と信じて疑わない人間・・・
だけど、これをメメシアはわかっているはず・・・
なぜ、術を停めたのだろうかねぇ・・・
メメシアはハスラング将軍を見ていなかったのよ・・・
ただ、分厚い雲に覆われた空を見上げていたのだわさ・・・
「何か来ます・・・」
あたしも空を見上げたのよ・・・
何かが落ちて来るのが見えた・・・
中庭に降り注いだのは、バラバラになった肉片・・・
ジャキエルだったものだったのよ・・・
術師を失った光のはしごも砕け散ったのよ・・・
「マジョリン!大変だわ!やつらが舞い降りて来るわ!」
再び空を見上げると、雲の中に何かうごめくものが見える・・・
その数、数えきれない程に多く・・・
「ヴィルデ ヤークト・・・ヴィルデ ヤークトが来る!!地上のあらゆるものを破壊し、死を与える悪霊狩猟軍団だわさ!!!」
「マジョリン!あれが影響を及ぼす範囲は!?」
「この監獄を中心に・・・街1個分だわさ!」
「マジョリン!いかなる手段を用いてもいいから壁の上の人達を助け出して!」
「だわさー!!」
「プロテイウス!今すぐ街の人達を避難させるように!外に出ている者は最寄りの教会か、地下室のある建物にいるように伝えて!!」
「オッス!!」
「ハレル!勇者の力、最大出力で迎え撃つ準備!」
「いいですとも!」
「何処へ行くと言うのだ!我との戦いはまだ、終わっていないぞ!!」
ハスラング将軍はメメシアに掴みかかる!
「わたくしはこの狂気を抑えます!みんな!頼みましたよ!!」
メメシアとハスラング将軍は拳で激しく殴り合う!
あたし達はそれぞれ、やれる事をする為に走ったのよ!




