第60話 燻製ビール
『飲酒には1つの意味しかない。生きると言う意味である』
―社会心理学者エーリッヒ・フロンガス―
~ 前回のあらすじ。マジョリン、燻製ビールを飲む ~
「あれ?マジョリンさん?」
何処かで聞き覚えのある声が・・・
なんと、飲み友魔法使いのテジーナちゃんだったのよさ!
「あ、テジーナちゃん!え?偶然~!どうしてまた出会えちゃうのかねぇ~」
「マジョリンさん。酒飲みは酒飲みにひかれあうのですよ」
「何それ名言!?ねえ、せっかくだし、一緒に飲もうよねぇ~!」
「そうですね。いいでしょう。受けて立ちましょう」
っと、すました笑顔のテジーナちゃんはあたしの目の前の席に座って、向かい合ったのよさ。
「マジョリンさん。今、何を飲んでいるのですか?」
「これ?これね、燻製ビールなんだわさ」
「燻製ビール・・・気になります。私も同じのをたのんじゃいますね」
テジーナちゃんの所にも、あたしが飲んでいるのと同じ燻製ビールが来たのよさ。
そして、1口・・・
「・・・どうかねぇ?」
「っぷしゅ~~・・・これは、香ばしく独特な風味ですが、クセになりますね。初めて飲む味ですよ」
「だよねぇ~。燻製した麦芽を使っているんだってさ~。ここの名物なんだってさ~」
「そうなのですね。知らなかった・・・大聖堂のお膝元にこのような美味しいビールが存在していたとは予想外です」
「おお、美味しいって思ってくれたのかねぇ?」
「はい。流石マジョリンさんのおすすめです。それにしても、美味しいには種類が多くありますが、私の美味しい感覚がまた広がった気持ちになりますよ」
「そう言ってくれるとうれしいじゃ~ん」
「ふふふっ、マジョリンさん、まるでこの街の人みたい」
そうねぇ・・・確かにこの街の人かーって感じな発言だったわさ。
「でも、なんかあたしゃ気に入ったんだわさ。この街の少ししか知らないけれども、いい感じだな~って・・・来る前は大聖堂もあるし、お堅い街なんだろうなって思っていたけど、人間味があるし、迷路みたいに入り組んだ細い道とか、わくわくしながらあるける感じ、嫌いじゃないのよさ」
「そうですか・・・でも・・・」
「でも?」
「聞いた噂なのですが・・・魔女狩りが行われているとか・・・その件数も多いそうで、私はこの後、すぐに街を出るつもりです。マジョリンさんもあまり長居しない方がいいですよ」
魔女狩りねぇ・・・
まあ、大聖堂がある大司教区の中心街だし、そういう噂はあるのかもしれないねぇ。
「まあ、大丈夫だわさ。あたしの仲間には頼りになる・・・そこそこ頼れる僧侶がいるからねぇ~」
「そうですか。でしたらよかったです」
っと、話をしていたら、店員さんが近づいてきたのよさ。
「お客さん達、いい感じの人だから、こっそり教えておくけど、魔女狩りには気を付けた方がいいよ。うちみたいなちゃんとした店を持って、旅の客相手にしている店はまだしも、貧民窟にいるようなやつらは教会や番兵に告げ口をするのさ。魔女を密告した者には礼金が出るからね・・・」
「そ、そうなんですか?」
「一度捕まったら、悪しき魔女か善人たる魔女かなんか関係ないのさ・・・今の大司教になってからは酷いものだよ。反対した市長と書記長も捕らわれたんだ・・・あれは、選帝侯とかの政権争いも関係しているみたいだけどね」
「そんな、市長や書記長も?それは酷い話しなのよさ・・・彼等はどうなったのかねぇ・・・?」
店員はため息をついて、少しうつむいて話したのよさ・・・
「市長も書記長も火あぶりだよ。書記長にいたっては、その奥様と息子も一緒に火あぶりにされたよ。街や市民の為にと働いてくれていた人達だっただけに、残念で悲しい出来事だよ・・・」
「それは・・・酷い・・・そんな事、許されるのですか?」
「大司教には誰も逆らえないんだよ・・・真面目な市民達も怖くて抗議できないでいるんだ。あの川の上にある市庁舎を建てた時のように団結すればいいって話しでもないんだよ。破門をちらつかされたら手も足も出ない・・・」
怖いねぇ・・・
そんな恐ろしい事が、この街に起こっていたなんて、見た感じでは全然気が付かなかったのよさ・・・
「なんでこんな事になったんだろうね・・・私はこの街が好きだし、みんな汗水流して働いて、ほんの小さな幸せを感じるだけで満足してるのに・・・おっと、これ以上はあまり言ったらよくないですね」
「話しにくい事だけど、話してくれてありがとうなのよさ。知らないでいたら危ない事だし、それに、あたし達を信頼して話してくれた事、うれしく思うのよ」
「そんな、喜ばれる事じゃないですよ・・・せっかく美味しいビール飲んで、満足してもらえたらって所なのに、なんか重い話し聞かせてごめんなさい」
その後、飲み終えたあたしとテジーナちゃんは店を出たのよさ。
「今日は消える魔法、使わないのかねぇ?」
「ええ。一応、魔力温存です。マジョリンさん、しばらくここにいるようでしたら、気を付けてください・・・私はこの街を出ます・・・」
「そうねぇ。それがいいよ。また、どこかで一緒に飲めるといいねぇ」
「・・・はい。その時は是非、飲みましょう」
こうしてテジーナちゃんとは別れたのよさ。
あたしは早く宿に戻って、引きこもってようって思ったのよ。
でも、途中の屋台で美味しそうな菓子パンが売っていたのよさ。
それをお土産に買ってっと・・・
なんか、家族に内緒で自分だけ飲みに行って申し訳なくなってお土産持って帰るおじさんみたいだわさ・・・
しかし、この街の屋台は色々あって、見てて楽しいねぇ~・・・
「ちょっと、そこのあなた」
・・・え?
あたし?
なんか急に番兵さんに声をかけられたのよ。
周囲をちらちらっと見るけど、誰も反応していないのよさ。
「さっき、そこの屋台の人があなたが魔法を悪用したと言っています」
「・・・え?あたしが?」
すると、番兵の後ろに隠れて、屋台の人があたしを睨んでいるのよさ。
「こ、こ、こいつです!支払った銀貨が葉っぱだったんです!」
「・・・ええ?!何を言っているのよさ!あたしは確かにちゃんと銀貨を払ったのよさ!」
「ちょっと、話しは向こうで聞こうか?」
ああ、これはやばい・・・
でも、だからと言って、番兵を攻撃するのもよくないのよさ・・・
どうするあたし・・・
「あなたがちゃんと銀貨を払ったのはわかってますが、申告があったので、形式上のやり取りだけさせてください。すぐに終わるのでお願いします」
「・・・まあ、それなら」
っと、その言葉を信じたのが悪夢の始まりだったのよさ・・・
『真の幸福は酒なくしてあり得ない』
―劇作家チェーポップ―




