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第117話 魔王の孤島

『魂にとっての酒は、身体にとっての本能に等しい』

―ジャン≒ジャック・ジャソー―




朝、宿泊する部屋を貸してくれた商人が、街の人からうわさを聞いたとの事でねぇ、市の南にある大きな湖の中の孤島に、魔王が潜伏しているとの話なんだわさ。

その孤島は、過去に修道院があったが、今では廃墟となっているとの事なのよ。


あたし達は早速、孤島に向かうべく、湖のほうへ向かってみたんだわさ。

ただ、この湖が予想以上に大きくてねぇ~・・・

結構な距離、あるいてようやく孤島を見つけたんだわさ。

ただ、残念な事は、孤島につながる木製の細い橋が、朽ち果てていて崩落している事なのよ。


あたし達は近くの漁師に頼んで、船を借りたんだわさ。

そんで、ゆっくりと湖の上を渡って、孤島に上陸出来たのだわさ。


孤島には、朽ち果てた建物があって、外から見た感じでは人が住めるようには見えなかったんだわさ・・・


「この廃墟は、もはや瓦礫の山みたいなものだわさ・・」


「島の端っこに別の建物があるみてぇだぜ」


っと、レギンがあるみたいだと言った方向へ向かってみると、石造りの小さな教会がそこにあったんだわさ。


その教会の戸を叩いてみたのよ。

しばらくすると、戸が開いて、司祭のおじさんが出て来たんだわさ。


「おや、これはこれは・・・勇者とそのお仲間の皆様でいらっしゃいますね?」


妙に飲み込みが早い司祭なんだわさ。


「そうですが・・・」


「わかっています・・・魔王の元へ案内しましょう」


司祭のおじさんの後をついて行くと、墓地にたどり着いたんだわさ・・・


「勇者の皆様・・・魔王はこちらです」


そう言って、司祭は新しい墓の前に立ったのよ・・・


「・・・まさか」


「はい。魔王はこの島にたどり着いた後、病気で亡くなりました。彼は、持病を患っていたそうですね・・・結局、黒魔術で誤魔化し誤魔化し生きて来たそうですが、それも限界だったのでしょう」


誰も何も言えなかったんだわさ・・・

まさか、倒すべきはずの魔王が、お亡くなりになってるなんて、誰も考えもしなかったからねぇ・・・


「ご司祭様、すみませんが、このお墓、確認してもよろしいでしょうか?」


「よいでしょう。魔王の遺言で、墓を暴いても良いと言っていました」


あたし達はシャベルを借りて、魔王の墓を掘ったんだわさ・・・

そして、棺を開けたのよ・・・


中には枯れた花に身を包まれた1人の男が眠っていたんだわさ・・・

頬も痩せこけて、1本の剣を脇に携えたこの男・・・


「・・・確かに、魔王様です。魔王こと、ワルリッヒ・フォン・ハッテンは彼です」


「魔王は・・・本当に病気持ちだったのですか?」


「はい。ただ、もう完治したと伺っていました・・・彼が魔王になったのも、この不治の病を克服する為だとも聞いた事があります。不治の病を克服する為に、旧約の民の禁術を用いたのです・・・」


「でも、結局、ダメだったのねぇ・・・」


「そのようですね・・・これで、全てが終わったのですね・・・」


テジーナは静かに涙を流したんだわさ・・・


「ボクは・・・ボク達は・・・彼を倒す為に旅をしていた・・・なぜだろう、魔王が死んだというのに、悲しいなんて・・・」


「ハレル。やり遂げれなかった事に悲しみや虚しさを覚えるのは仕方がありません。ですが、こうして彼の死を確認し、それに向き合う事はきっと、あなたの役目だったのでしょう。この僻地まで足を運んで、彼の最後を知る事・・・それがあなたと、私達にしかできない事だったのでしょう」


ハレルはうつむいて、込み上げる感情を抑えているようだったのよ・・・


「なんだよって、期待外れじゃねえかって思うぜ。魔王ともあろうもんが、こんな小島で勝手に息絶えてりゃ、怒りも湧くし、虚しくもなるもんだぜ・・・だが、まあ、変に争わずに済んだって、安心した気持ちもあるっちゃあるんだ」


「そうねぇ~・・・複雑なんだわさ・・・」


あたし達は魔王の棺を再び埋めなおしたのよ。

そして、墓に花を手向けて、あたし達の長い旅は終わったんだわさ・・・





☆☆



その後、あたしはドラゴン城伯の領地の飛び地の森の奥に、小さな家を作って、ゆっくりのんびりと暮らしているんだわさ。


「魔女さん。ハーブティー、新しく考えたブレンド、味見して見て下さい」


彼女はあたしの弟子で、妙に飲み込みが早く、ハーブの事も、魔法の事もすぐに覚えちゃって、ほとんど教える事も無いんだわさ。


「おやおや、いい香りがするねぇ~・・・あんたが淹れてくれるなら、なんでも美味しいものよ」


「ちゃんと感想、言ってくださいね。改善とか、したいんですから」


ここはのどかな時間が過ぎているのよ。

これまでの間に、神聖帝国内の各地で農民の反乱が起きたり、トケツスタンと教会世界の戦争が起きたり、フリーデスラ方伯とファールツ宮中伯を中心とした改革派と皇帝を中心とした保守派の戦争が起きたり、平穏ではなかったんだわさ。


ハレルは功績を称えられ、帝国騎士として、小さいながらも領地を得たんだわさ。

ただ、彼はトケツスタンとの戦争で、戦死してしまったそうなのよ・・・

プロテイウスは農民の反乱に、農民側として参加し、消息不明なの・・・

テジーナは修道院に入ったものの、宗教改革派の圧力で、修道院が廃院になってから消息不明・・・

フリーデスラ方伯こと、フィーリプ殿下は、皇帝との戦争に負け、囚われたそうだわさ。


トントン


突然ドアをノックする音。


「おや、お客さんかねぇ?グレーテル、見て来てくれないかねぇ?」


「は~い」


弟子がドアを開けると、見覚えのある姿があったんだわさ・・・


「・・・テジーナかねぇ?」


「久しぶり。マジョリン。まさか、お菓子の家に住んでるなんて、予想外だったよ」


「魔女さん、知り合い?」


「グレーテルや。さっきのお茶をもう一杯、用意して欲しいのよさ。彼女はあたしの少ない友人だわさ」


テジーナを招き入れ、テーブル越しにお話しをしたんだわさ。


「修道院が無くなるとは思わなかったのよさ。これから、どうするつもりかねぇ?」


「目的が無くて・・・」


「そのさ、よかったら、ここで一緒に暮らさないかねぇ?」


「そんな、マジョリン・・・気持ちはうれしいけど・・・お弟子さんもいるし、悪いよ・・・」


「悪く無いですよ。えっと、テジーナさん?魔女さんから、あなたの話し、色々伺ってますから。むしろウェルカムだよ」


「ほら、グレーテルもそう言ってるし」


「ありがとう・・・マジョリン・・・」


すると、ドアを勢いよく開けて、小僧が入って来たんだわさ。


「魔女さーん。手紙が来てるよー」


「あ、ヘンゼル!入る時は靴の泥を払ってから上がってって、何度言えばわかるのかねぇ~!」


「あ、ごめんなさーい。ほい、グレーテル、手紙、魔女さんに渡して。ボクは木、伐採して、環境破壊推進してくる」


っと、小僧は手紙を置いて去って行ったんだわさ。


「今の子は・・・」


「グレーテルの兄ちゃんのヘンゼルだわさ。まあ、ここは賑やかで、落ち着かないかもねぇ」


「いいですね。子供に好かれるなんて、マジョリンさんらしいです」


グレーテルが手紙を見て、何かはしゃいでるんだわさ。


「魔女さん!すごいですよこの手紙!」


「何が凄いのかねぇ?」


「だって、新大陸から届いた手紙ですよ!あの未開の地から、手紙って届くんですね!」


あたしはグレーテルから手紙を受け取ったのよ。

差出人は・・・


「あら、メメシアからの手紙だわさ」


「メメシアさん?あの聖女の?・・・新大陸に本当に行ったんですか」


「流石、あたし達で一番行動力があるだけあるんだわさ。どれどれ・・・」


手紙の封を開けると、何枚もの紙に細かくびっしりと書かれた文章が・・・


「あ、見にくい」


「え?老眼?」


「ちゃうわ。普通に読みにくいんだわさ」


「なんって書いてます?」


「うんと・・・新大陸で、原住民に布教活動を続けていて、現地の文化も尊重しつつ、多くの人に信仰に目覚めてもらってるってさ」


「流石聖女ですね」


「・・・新大陸の食べ物、ウォーム市で食べた時の事を思い出す・・・とにかく、元気でいるってさ」


海賊との戦いや、奴隷解放とその後の生活の保護とか、とにかくメメシアは新大陸で大活躍しているようなんだわさ。


「今、わたくしは大陸を横断した所で・・・って、さりげなく新大陸横断しちゃってるんだわさ!」


「え?聖女すごっ!」


「えっと・・・この後、大海原をまた航海して・・・念願の東の大国、中つ国や日の本の国を目指すつもりです・・・また、落ち着きましたら手紙を書きます・・・だってさ」


「東の国々に、西側から向かう・・・方角がわからなくなる話しですね・・・」


「・・・え?世界は平じゃないの?」


「グレーテル、新しい情報、教えてあげるんだわさ」


あたしは今、のんびりと過ごしているんだわさ。

大冒険を続けるメメシアには勝てないけど、あたしも色々、あたらしい事に挑戦してみようって思うのよねぇ~・・・

死ぬまでこの命、楽しんでやるんだわさ。





~Das Ende~







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