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先代聖女(ユーリカ)3



 外門手前でユーリカは両親を守り続けてくれた壮年の男の袖を引いた。

 男───騎士団長ザリクは膝を落とし、ユーリカに目線を合わせた。


「・・・・・・おじさんは、どうして魔物と戦っているの?」


 真剣な顔で問うてくる幼女に、ザリクは顔を緩ませた。


「おじさんも、誰かに命令されたの?むりやり戦わされてるの?」


 辛そうな悲しそうな顔のユーリカに、ザリクは数えきれない数の魔物を屠ってきた手で小さな頭を撫でた。


「違うよ。俺は、守りたいと思ったから騎士団に入った。自分がそうしたいから魔物と戦っている。誰にも命令されてないよ。お嬢ちゃんも、君のお父さんやお母さんも、王都のみんなも、守りたいと思ってる」


 厳つい顔をくしゃりと歪め、剣ダコのある分厚くて固い掌をユーリカの肩に乗せる。

 ザリクは言葉にすることで、改めて思いを確かめる。


「おじさんはね、昔は酷い乱暴者だったんだ。親にも周りにも随分迷惑をかけた。怒られたし罰も受けた。でも見捨てられることは無かった。・・・・・・俺の力も人に向けたら駄目だけど、魔物に向けたら感謝された。感謝されたら嬉しくて、魔物と戦うために騎士団に入った。そんで、魔物を殺すよりも人を助けて喜ばれる方が嬉しいって気付いて、守りたいって気持ちになって、いつの間にか騎士団長なんぞになってた。───人は気持ち次第でどうにでもなるんだって俺は思う。お嬢ちゃんはどうしたい?」


 小さな子には難しい話かもしれない。でも、この聡い『聖女』になったばかりの娘には、できれば憎しみばかりを育てて欲しくない。娘よりも幼い女児に、これ以上傷ついた冷たい瞳をさせたくない。

 にかっと笑う傷跡だらけの男を見て、ユーリカはそっと目を伏せた。


「・・・・・・私は、お父様とお母様を守りたい」


 小さく呟かれた言葉に、ザリクはほっと息を吐いた。


「ああ、いいな!守ってやれ!!俺も、お嬢ちゃんと君の両親を守ると約束するぜ!」


 力強い言葉に、ユーリカはびっくりしたように目を瞬いた。にこにこと嬉しそうに笑うザリクを見て、ユーリカの顔が綻ぶ。

 年相応の幼い笑顔に、ザリクも周りの騎士団の男たちも、嬉しそうに笑った。


「おじさんは、私たちを守ってくれるの?」

「ああ!」

「じゃ、私もおじさんを守る。おじさんが守りたい人も私が守る!」


 真剣にユーリカは宣言する。

 真摯な気持ちが伝わって、ザリクはユーリカの頭をぐしゃぐしゃと撫でて明るく笑った


「そっか!ありがとな!滅茶苦茶嬉しいぜ!!お嬢ちゃん、何かあったら俺んとこに来いよ?俺は頭悪いけど、知り合いは多いからな。何とかしてやる!俺たちは『助け合う仲間』だから遠慮はいらねぇ。お嬢ちゃんは独りじゃねぇんだから、困ったら頼れよ?約束だ」


 ザリクはユーリカに拳を突き出した。

 不思議そうな顔をするユーリカに、騎士団流の約束の作法を伝授する。

 拳を合わせ、その拳を自分の心臓の上に置き、約束を口にする。


「「私たちは仲間だから、困ったことがあったら助け合う」」


 目を合わせ、ゆっくりと約束を唱和し、笑いあう。

 ザリクは立ち上がると、王都を見た。


「さ、今日も皆が無事に帰れて良かった。俺は嬢ちゃんたちを送って行くから、皆はゆっくり休んでくれ!」


 そういうと、皆で外門に向かって歩き出した。





 ミルトランド王国では、貴族と平民の間には越えられない壁がある。

 とはいえ、男爵相手なら全く越えられない訳でもない。

 貴族門を守る近衛騎士は男爵の次男や三男以下ばかりだし、騎士団長とは多少の面識もある。

 心身を喪失した男爵夫妻と聖女に目覚めたばかりの幼女を屋敷まで送り届けるという騎士団長の申し出に、困惑はされたが許可された。

 男爵邸は貴族門にほど近い場所にあること、貴族との付き合いがそれなりに分かっていること、聖女の報告に手続きの手間が取られることなどが考慮されたのだ。

 近衛騎士が王城に走る中、ザリクはユーリカ達をゆっくりとコブラー家まで送った。


「大丈夫か?」


 家令に男爵夫妻を託し、ザリクはユーリカを案じた。

 ユーリカはこくりと頷いた。


「たぶん、聖女の力が使える・・・。私たちに酷いことをする人を近づけないようにできると思う。おじさんは、王都の人を守りたいんだよね?だったらそれもお願いする。約束だもの」


 まっすぐな瞳に暗い影が無いのを確認し、ザリクはにかっと笑った。


「ありがとな!すげー有難いけど、無理すんじゃねーぞ。俺はお嬢ちゃんたちを守るって約束したんだ。お嬢ちゃんは自分も大事に守らなきゃいけねーぞ」


 ザリクの言葉に、ユーリカは泣きそうな顔をした。


「でも、私の所為でお父様とお母様が・・・」

「嬢ちゃんの所為じゃねぇ!嬢ちゃんも、男爵夫妻も被害者だ。クソ貴族共が寄ってたかって嬲りやがって・・・魔物以下の所業だろ・・・」


 つい怒りで本音を口走ったザリクは、はっと我に返ると、口を押えて周りをキョロキョロと伺った。


「悪い、嬢ちゃん。今俺が言ったこと内緒な。忘れてくれ。不敬罪で死ぬのはゴメンだ」


 厳つい騎士が蒼褪めてオロオロする姿に、ユーリカはたまらなく面白くて笑った。


「うん。内緒ね。おじさんの言ったことは全部本当だけど、おじさんには生きててほしいもの」


 くすくす笑うユーリカの顔に脅えが混じっているのを見つけ、ザリクは内心で自分に舌打ちをした。

 ユーリカは今、死と隣り合わせで生きている貧民街の子供のようなほの暗い影を抱えている。

 魔物を恐れることもなく、話しかけ、魔物の心が分かると言った。魔物たちも、彼女の言葉に従ってはいなかったか?

 聖女でありながら、その心の在り様に不安が無いわけではない。

 願わくば、聖石に守られて心穏やかに成長して貰いたい。


「お嬢ちゃんさえ良ければ、これからも様子を見に来てもいいか?」


 子供が一人で王都に来るのは難しいだろう。そう思って聞いてみれば、ユーリカは嬉しそうに頷いた。

 ザリクはユーリカと別れ、王都にある騎士団練兵場に帰った。

 翌朝、王都には聖女の結界が張られており、王都民は歓声を上げた。

 


すみません。体調不良に加え、職場で不測の事態が勃発し、続きを書いてる余裕がありませんでした。

年内は大変な状況が続くこと確定なので、更新はのんびりめになります。

週末に調子よく書ければいいんですが。。。

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