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先代聖女(ユーリカ)2



 ステイン公爵の部下は、何度もコブラー一家を魔物の前に連れ出した。

 自分たちはユーリカを捉えたまま、防御陣の中でニヤつきながら戦いを眺め、ユーリカを言葉で嬲った。

 ユーリカは始めの頃こそ泣いて両親を助けるように懇願したが、それが叶えられないと知り、表情を失くしていった。

 コブラー夫妻は、騎士団の守りもあって何とか生還するような状態で、心身共に衰弱していった。


「中々目覚めないもんだなぁ」

「聖女によって、条件が違うのかもなぁ」


 目前の死闘も、すっかり飽きたと言わんばかりにステイン配下の男たちはぼやいた。

 すっかり表情の抜け落ちたユーリカを見て、わざとらしくため息を吐く。


「・・・・・・なぁ、やっぱ刺激が少ないんじゃないか?」

「おい・・・」

「だってよぉ、グローリアの時は目の前で両親が殺されたんだぜ?それで魔物の殲滅と結界1年分。傷ぐらいつけないと、聖女も本気にならないんじゃね?」


 不穏な内容に、ユーリカの体が強張る。

 その変化に気付いた男たちは、厭らしく笑った。


「王都周辺の魔物は弱いから、公爵様にお願いしてもっと強いやつを連れてきて貰おうぜ」

「そうだな。1か月も変化がないんだ。次の段階に進んでもいいかもなぁ」


 どうする聖女様?

 嘲り笑う男たちを、ユーリカは睨みあげた。

 その瞳には、はっきりと怒りと憎しみが宿っていた。


「っ!こいつ・・・!」


 5歳の女児がするには苛烈すぎる視線に、苛立った男がユーリカを殴った。

 小柄なユーリカが吹っ飛ぶ。


「おい!」


 もう一人の男が慌てて諌めようとして、固まった。


「おい、やばくねーか?」


 魔物がコブラー夫妻に迫っていた。

 夫妻を守っていた騎士は魔物に弾き飛ばされ、守りに入れない。

 他の騎士たちも魔物の相手に手いっぱいで、肝心のコブラー夫妻は死を受け入れるかの如く、呆然と座り込んだまま身じろぎもしない。

 

 これで夫妻が死んで聖女が目覚めなかったら、自分たちの立場はかなり悪くなる。

 ごくりと唾を飲み込んだ瞬間、ユーリカは素早く立ち上がると両親のもとに駈け出した。

 

「おい!待てっ!!」


 夫妻が死ぬより聖女が死ぬ方が尚悪い。

 急いで捕まえようとしたが、殴って手を放したのがまずかった。

 男の手が届く前に、ユーリカは防御陣を飛び出し、男たちは陣を出るのを躊躇した。


 コブラー夫妻に魔物の凶爪が迫る。

 夫妻は恐怖も安堵もない虚無の眼差しで、ただ死を見つめている、

 

 間に合わない・・・

 

 騎士たちの顔が絶望に歪む。

 

 

 

 だが一人、諦めない者がいた。

 小さな足を目いっぱい動かして、必死で駆ける。



 絶対に助けるの。

 お父様とお母様を私が守るの。

 私の所為で、私が聖女なんかに産まれたから。

 ごめんなさい、お父様、お母様。

 酷い目にあわせてごめんなさい。

 もう、泣かない。もう、頼らない。もう、期待しない。

 私が強くなって、私が守るの。

 だからお願い。嫌いにならないで。

 誰よりも大事なの。側にいてほしいの。

 お願い。私にお父様とお母様を守らせてっ!



 必死なユーリカの願いが届いた。

 父の頬を抉りかけた爪が、腕ごと消えた。

 頭を吹き飛ばすつもりで振り抜いた腕が空振り、魔物は不思議そうに自分の腕をみて、グギャアと叫び声を上げる。

 その隙に、ユーリカは両親と魔物の間に割り込んだ。

 

「死にたくなければ、あっちに行きなさい」


 ユーリカが指した先には、男2人を()()()()()防御陣があった。


「お父様とお母様、騎士のおじさんたちをこれ以上傷つけるのは、絶対に許さない。これ以上攻撃するなら消す。でも、あなたたちは人間が憎いのでしょう? 引き裂きたくてどうしようもないのよね? 私にも分かるの。あなたたちの目は私と同じだもの。だから、あっちに行って。あいつらは、あなたたちと比べ物にならないくらい卑劣な屑なの。だから、好きにしていいの」


 ユーリカの言葉に、暴れていた魔物たちが動きを止め、その目が2人の男に集中した。

 

「な、なんだ・・・」

「なんで、こっちを見るんだよぉ」


 蒼褪める男たちにかまわず、ユーリカは続ける。

 魔物に言葉が通じるのか知らない。でも、ユーリカは魔物の心が分かる。()()()()が教えてくれたから。体の中で荒ぶる憎悪は、きっと魔物と同じ。


「あいつらは魔法陣から出ることができない臆病者よ。散々私たちで楽しんだんだもの。今度は自分たちが魔物と遊べばいいんだわ」


 冷たい目をして吐き捨てる5歳の女児に、騎士たちは、何とも言えない顔をした。

 平民は貴族に逆らえない。貴族も、自分より上位の貴族には逆らえない。例え国を守る聖女であっても、その序列には逆らえない。

 そんな現実を散々見せつけられたのだ。

 ここまで小さな子供の心を傷つけ、壊した奴らを擁護するつもりはない。

 小さな聖女のささやかな反乱を止められるわけがない。

 それでも大人として、子供を守れなかった無力感に男たちは項垂れた。

 

 魔物たちが、防御陣に群がっていく。

 どれだけ陣に阻まれても、魔物は狂ったように突進を繰り返す。


「なんだこいつら!なんでこっちに来るんだよ!!」

「おらっ平民!何してるんだ!俺たちを助けろっ俺たちは貴族だぞ!助けに来ない奴は不敬罪で処刑するぞ!!」

「助けてくれたら、どんな願いもかなえてやる!金でも女でも、何でもやるから助けろ!助けてくれ!!」


 ユーリカは、先ほど魔物の爪に抉られて傷ついた父の頬を撫でた。

 手を離すと、傷が消えていた。

 次に、ユーリカは手を組んで祈った。

 僅かに大地が光ると、騎士たちから傷が消えた。どよめきが起こる。

 聖女の癒し。

 ユーリカは聖女の力を手にしていた。


「お父様、お母様、帰りましょう。騎士のおじさんたちも帰りましょう」


 ぼんやりとした両親の手を引き、ユーリカは城門へ向かった。

 騎士たちも、無言のままユーリカの後に続いた。

 喚きたてる男たちの声など、誰の耳にも入らなかった。





ユーリカの荒ぶりがすぎるよぅ・・・

まさかの続き・・・(o´・ω・)aウーン・・・


大丈夫。過去は変えられないのです。想定通りです。。。

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