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先代聖女(ユーリカ)1



 聖女グローリアが儚くなった。

 16年目にして聖女に目覚めた途端、国中の魔物を一掃し、結界を張り、聖女の力を見せつけた矢先のことだった。

 漸く魔物に怯えずに暮らせる。

 国民がほっとしたのも束の間で、皆、酷く落胆した。

 

 多くの町や村が魔物に滅ぼされ、多くの国民が傷ついた。

 それでも、生き残った者は立ち上がり、生きるために助け合う。

 聖女の代替わりの度に繰り返される光景。

 被害の大小はあれど、国民は逞しい。否、そうでなければ、この国では生きていけないのだ。



◇◇◇



「今度の聖女は男爵令嬢だそうだ」

「・・・・・・先代と違って使えそうだな」



 グローリアが死去し、新たな聖女が産まれた。

 コブラー男爵家に産まれた聖女はユーリカと名付けられた。

 下級貴族に産まれたこと、グローリアが聖女に目覚めた経緯から、貴族たちは様々な思惑をコブラー家に向けた。

 

 

「コブラー男爵。そろそろ聖女様は5歳になるのではないかね」

「は、はい。来週で5歳になりますが・・・」


 王都に居を構える貴族を招致した国王主催の夜会で、コブラー男爵はステイン公爵に声をかけられて狼狽えた。

 男爵が高位貴族の、しかも最上ともいえる公爵と関係を持つことはまずあり得ない。

 更に先代聖女グローリアの最期から、貴族たちに様々な噂が蔓延っており、聖女に関しては腫物扱いになっていたから尚更である。

 

 魔物は聖女を憎んでいる。

 リーヴェン侯爵家は聖女が居たから襲われた。

 王太子は現場に居合わせたため、魔物に呪われて病死した。

 聖女に関わると、災難に見舞われる。

 

 そんな噂を聞いていた男爵は、できるだけ目立たないよう、ひっそりと暮らしていた。

 

「聖女様は、目覚めの兆候など出てきましたか?」

「いえ、それはまだ・・・」

「そろそろ目覚めても良い年ごろですなぁ。男爵は何かされておいでかな?」

「いえ、特別なことは何も・・・」


 聖女の目覚めは謎に包まれている。

 知っているのなら、グローリアの時に手を打っているはずである。

 訝し気な表情を浮かべる男爵に、目の前の男は爽やかな笑みを浮かべた。

 

「もしかしたら、目覚めを促す方法を見つけたかもしれないのですよ。是非試してみたらと思いましてね」


 男の提案に、周囲が騒めいた。

 グローリアの結界が解けて4年。魔物の攻勢は強まっている。

 少しでも早く聖女が目覚めれば、それだけ安全な日々を送ることができる。


「どうです?誕生日の翌日にでも聖女様に会わせていただけませんでしょうか」

「・・・・・・えぇ・・・」


 周りの圧に押されて、コブラー男爵は了承した。嫌な予感しかしないが。

 しかし男爵風情が、ステイン公爵の申し出を断ることなど、そもそも出来るわけがない。

 満足そうに立ち去る男の背中を、コブラー男爵は茫然と見送った。

 

 

◇◇◇

 

 

 一週間後、宣言通りステイン公爵はコブラー家に訪れた。

 一生懸命カーテシーを披露するユーリカに笑顔を向けるも、公爵は強引に、男爵夫妻とユーリカを王都外に連れ出した。

 そこではまさに、騎士たちが魔物討伐を行っていた。


「いやぁ!こわいよぅ!おとうさまぁ、おかあさまぁっ!!」


 泣きわめくユーリカの横で、公爵が術式で作り出した氷の礫を無造作に打ち込んだ。

 それには魔物を倒す殺傷能力など無い。悪戯に魔物を怒らせ、興奮させるだけ。凶暴さを増した魔物が一斉に襲い掛かってくる。

 魔物の動きが予測がつかないほど乱れ、対応しきれずに騎士団の被害も増えていく。

 その様子を、防御陣の中から楽しそうに眺める公爵と部下。公爵に腕を掴まれているユーリカは、魔物に傷つけられていく人々を前に、恐怖で蒼白になっている。

 

「聖女様。早く目覚めないと、大事なお父様やお母様が怪我をしてしまうよ。もしかしたら死んでしまうかもね」


 笑顔で恐怖を煽る公爵に、ユーリカは半狂乱になった。


「いや!いやいやいやいやっやだぁっ!!」


 暫く魔物を煽っていた公爵は、ユーリカに変化が起きそうもない様子に、つまらなそうに術式を消した。

 

「ふん、初日ではいきなり目覚めんか。男爵!聖女が目覚めるまで、私の部下を派遣するよ。少しでも早く目覚めるように努力したまえ」


 一方的に告げると、散々戦場を荒らした公爵は、そのまま帰っていった。

 残された騎士団と魔術師団は、必死になって魔物と戦う。

 男爵一家はお互いを抱きしめあい震えながら、その様子を見つめることしかできなかった。


「あんたたち、大丈夫か?」


 騎士団の団長と思しき壮年の男が話しかけてきた。

 魔物の掃討もあらかた終わり、魔術師たちが簡単な血止めを行っている。

 蒼白な顔の一家を、男は痛ましげに見やる。


「さっきの・・・貴族だよな?」


 問いかけに、男爵が無言で頷く。


「あんたも、貴族さんかい?」


 もう一度頷く。


「・・・先に帰ったお方は公爵で、私は男爵だ・・・」


 絞り出すように呟かれた言葉に、男は心から同情した。


「そちらのお嬢ちゃんは、もしかして聖女かい?」


 険しい表情で娘を抱きしめる男爵に、男は頭をガリガリ掻いた。


「いや、だからって何てこともないんだ。そりゃ、早く聖女様になってくれれば俺たちも嬉しいけどさ、こんな小さな嬢ちゃんに恐ろしい思いをさせて、無理強いさせるのはあまりにも・・・なぁ・・・」


 周りの団員も、痛ましい目で男爵一家を見つめている。

 自分たちだって、酷く傷ついているというのに。


「・・・・・・すまない」


 男爵の謝罪に、男は頭を振った。


「あんたが謝ることじゃねーよ。それより立てるかい?どっか怪我してねーか?」


 平民の男たちの気づかいに、男爵の目頭が熱くなった。

 上級貴族の多くは平民を見下しているが、彼らの方がよほど人間味があり温かい。


「お貴族様にこんな事をいうのも不敬かもしんねーが、俺らも頑張るから、あんたたちも頑張ってくれな」

「・・・・・・ありがとう・・・」


 乱暴な平民言葉だが、暖かな心情が伝わってきて、コブラー男爵は感謝した。

 それから公爵の宣言通り、部下を名乗る者が男爵家を訪れては、魔物討伐の前線に連れ出された。

 

 

 


このお話を書いていると、気力が取られていくので、前後編になってしまいました。

あの、悪意の塊のお貴族様の所為!たぶん!


楽しいお話、尊いお話などなど、心に栄養を取り込んで、後編を頑張って書きます。

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