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静かな春の夜の夢。


昔から人付き合いが苦手だ。


人と話せないわけではないのだが、言葉選びなのか話しかけるタイミングなのか、はたまたそのどちらもなのか、いつも怪訝な顔をされている気がするし、自分の話で笑ってくれてはいるが果たして目の前の人は本当に楽しいと思って私の話を聞いてくれているのかなどを考えてしまうので、人と話すと疲れてしまうのだ。


それなのに人との関りがなくなるのは怖いため、自分から話しかけにいっては『今日もなんか嫌な顔をされた気がする』と考えて落ち込む。

我ながら本当に面倒くさい性格だと思う。


しかもこの性格に不器用さまで加わっており、もはやお手上げ状態である。

仕事に関しては残業量が人より多いからか「頑張っているね」と言われることも多いが、自分の不器用さ故に仕事が遅くて他の人はしなくていいような残業をすることになっているだけなので、「頑張っている」という評価を聞くたびにただただ申し訳なくなるのだ。


現在31歳。独身。田舎生まれで、今現在は都心より少し離れた場所にワンルームを借りて一人暮らし中。料理は苦手なため、ご飯だけ炊いて、あとはスーパーの割引シールが貼られた惣菜を買って食べている。


もともと友達付き合いというものもあまり上手ではなかったから、20代前半までは一緒に呑みに行っていた友達とも今は疎遠になり、SNSでおすすめに流れてくる彼らの充実した生活の様子や家庭の愚痴を見ると虚しさが募るだけだったのでもうSNSの類は削除した。


家庭を持った子もいれば、仕事にプライベートも充実して楽しそうな子たちもいる。私みたいな陰にじめじめと生えたキノコのような奴には到底届かない世界だ。



今日も残業を終えて今現在帰宅中。


明日は休み。特に予定のない休み。

趣味もないし、推しもいない。ただただ時間が過ぎていくだけの無駄な時間。


たまに気が向けば外出して、本屋に行って表紙だけを見て気に入った小説を買って読む。当たりはずれはあるが、何もしないよりはまし、なのかもしれない。



帰る途中に洗濯洗剤がもうなくなりそうだったな、と思い出してスーパーへ。

ついでにお惣菜でも買って帰ろうかと店内をプラプラ。


惣菜コーナーを物色し、今日は3割引きのコロッケがあった。ツイているかもしれない。と思ったときだった。

人の会話なんて聞きたくなくても耳に入ってくるもので。

飲料コーナーの近くで話していた2人のお姉さまの話し声が聞こえた。


「ねぇ、聞いた?近藤さんのところのお嬢さん、もう28歳なのに彼氏もいなくて休みの日もおうちにいるんですってよ」


「あら、そうなの?今の時代、結婚しない選択肢があるっていうけど、私たちの時代じゃ考えられないし、その年で結婚してないなんて結婚できないなりの理由があるんじゃない?」


「そうよね~!私もそう思ってたのよ~!」



まったく。

人の往来が多い場所でなんて話をしているんだか。どこの誰とも知らないお姉さま方に意見するのは憚られるので心の中で少し毒づく。


結婚したから確実に幸せになれるのかと言われるとそうではないだろう。

お互い好きで結婚していても、浮気をする人もいれば離婚をする人たちだっている。

相手の家族や親戚関係のことだって軽視できない。

そういったことを考えてあえて結婚という選択をしない人だっているだろう。


まぁ、私の場合はそもそも相手がいないし、最後に付き合ったのだって7、8年前で。しかも私は好きになった人とは付き合えたことがないし、告白されて付き合ったとしても、最初はその人のことを好きだと思えてもすぐに熱が冷めてしまうのだ。

「こんな奴は恋愛をする資格すらないだろう」と、職場の人から勧められた出会いもすべて丁重にお断りしてきたのだ。



結論、私はお姉さま方の話が耳に痛かったのだ。

実家に帰っても同じような話を家族からされるし、近所の人たちも同じだ。

それ故にそう遠くはない実家への足が遠のいてしまうのだ。



冷え切った私の心と同じくらい冷めたコロッケを連れて自宅へ帰る。

だいぶ温かくなったとはいえ、4月の夜風はまだ冷たい。

今から咲くのか、もう散りかけているのかわからない桜を眺めながら歩く。


存外この時間は嫌いではない。

春の夜の匂いがするから。


一度足を止めて大きく深呼吸をする。

先程まで冷めていた心が少しだけ、ほんの少しだけ温もりを取り戻した気がした。



自宅は築41年のアパートのワンルーム。8畳の部屋は決して広いとは言えないが、シンプルな家具とお気に入りの間接照明。それさえあれば十分だ。


買ってきたコロッケを一旦冷蔵庫にしまって、お風呂に入る。

お風呂といってもシャワーで済ませてしまうことが多い。

理由としてはこの年になっても一人でのお風呂は怖いからだ。

シャンプーなどをするときに目を閉じるあの瞬間がいつまでたっても怖い。情けない。


本日もササっとお風呂を済ませ、買ってきたコロッケと前日に炊いて冷凍していたご飯を一緒に電子レンジに入れて温める。

テレビには今人気だというアイドル達が出演しているバラエティ番組が映っている。

好きな番組などはないのだが、自分以外の″音″がほしくてテレビをつけている。

無音の中にいると、今日一日の反省が始まったり、過去の嫌だった場面がリフレインしてしまい、泣きそうな気分になってしまう。

だから大きめのボリュームで見ているのだ。「無」になるために。



温まったご飯たちをもってローテーブルに移る。

「惣菜が苦手」と言う人もいるが私はそう思ったことはない。確かに専門店のような場所に比べたら、「また食べたい!」と思えるほどの美味しさはないのかもしれない。しかし私はそもそもが味覚音痴なのか、大まかな味は分かってもあまり味にこだわりはないので、コロッケならコロッケという味がすれば別になんだっていい。それに料理が苦手な私からしたらこの惣菜たちは大変ありがたいものなのだ。


だらだらと食べ進め、食べ終えたあとは食器を洗って片付ける。使う食器は一人分だから使うたびに片付けたほうが楽な気がする。


お気に入りのマグカップにノンカフェインのコーヒーを入れて、2人掛けのソファに腰かける。

先程までつけていたテレビを消して、室内の電気も消し、間接照明だけをつける。そしてスマホを取り出して最近よく聞いているポッドキャストを再生する。2人組のバンドメンバーがスタッフと一緒にフリートークを中心に進めていくのだが、これが落ち着くのだ。


最近あった話や家族の話などをいじりいじられながら進んでいくトークは、時折自虐のようなものもあり、その空間に自分もいるようなあの雰囲気が好きで聞くようになった。


今日のトーク内容はお互いに自分の好きなものをおすすめするコーナーで、一人のメンバーは映画観賞を、もう一人のメンバーは小説をおすすめしていた。


その話を聞きながら、「明日の休みは久しぶりに映画に行ってもいいかもしれない。普通の映画館よりも小さな映画館をおすすめしていたし、今から検索してみよう。ついでに本屋さんで小説も買ってみよう」と思い立つ。



気分屋な私のことだ。明日になれば「やっぱり面倒くさいから家にいようかな」となるかもしれないが、今は明日行く映画館を検索することが楽しみだし、そのあと行く予定の本屋さんに今日おすすめされていた小説があるのかないのかも気になる。それでいいとも思う。


明日にならなければ、私の気分なんて私にもわからないのだ。


検索していると、とある小さな映画館が目にとまる。ちょうどその近くに本屋さんもあるようだ。

よし。行くときはここにしよう、と決めて、残っていたコーヒーを飲み干す。


珍しく今日は気分がいいかもしれない。

この気分を壊したくないから、無音で寝るのはやめてポッドキャストをつけたまま寝よう。


シングルサイズのベッド。肌ざわり重視で選んだブランケット。少し硬めの枕。

間接照明を消して、そこに横になる。そして今までの放送で特にお気に入りだった回を再生する。


『リスナーのみなさん、こんばんは。今夜も僕たちの放送を聞いてくれてありがとうございます…』


お決まりのセリフを耳にしながら、ゆっくりと目を閉じる。



明日はどんな一日になるのだろうか。

少しでも気分がよくなるような出来事があったらいいのになと思う。


だんだんと遠くなる彼らの声を聴きながら、夜は更けていく。





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