電話
あれは数年前、出張先での出来事だ。
仕事を終えて会社を出た私は、宿泊先のホテルへ向かいながらスマホを確認した。
19時00分。
バッテリー残量は5%。
今にも落ちそうな状態だったが、友人に手土産のリクエストを聞くだけなら時間はかからないだろう。そう高を括り、私は通話ボタンを押した。
出張先の会社からホテルまでは歩いて15分ほど。私は電話をしながら夜道を歩いた。
「どうしたの?」
「今、ちょうど仕事が終わったんだ。何か欲しい手土産はあるかと思ってさ」
「あら、気が利くじゃない」
「まあな」
そんな軽口を叩きながら、私は会社とホテルの間にある小さな公園へと足を踏み入れた。
初日に散策して見つけた近道だが、場所が辺鄙なせいか、いつ通っても人影はない。
だが、公園に入った瞬間――鼓膜を突き刺すような激しいノイズが耳元で弾けた。
「痛っ……今、変な音しなかったか?」
私は思わずスマホを耳から離した。耳の奥にはまだキーンという不快な残響が残っている。
『いいえ、何も』
「そうか? ならこっちの電波の問題かな」
公園内は手入れもされず放置されているのか、遊具は雑草に埋もれ、ベンチには埃が積もっている。
街灯もなく、闇がねっとりと足元にまとわりつくような陰気な場所だ。
『ねぇ、あなたは今どこにいるの?』
受話器の向こうの友人が、唐突にそう問いかけてきた。
「○○県に出張中だってば。どうしたんだ急に?」
『今、会える?』
「今? ……何かあったのか? 急用じゃないなら明日そっちに帰るから、その時でもいいか?」
『今。どこにいるの?』
友人の口調に、言いようのない違和感を覚える。
「……大事な話か? ひとまずホテルに戻って充電してから、かけ直すよ」
『どこにいるの?』
壊れたレコードのように、彼女は同じ問いを繰り返す。
「いや、今日の君なんか変だぞ。あ、悪い、スマホもう限界っぽい、また後でな」
バッテリーも限界だ。私は通話を切ろうと画面を覗き込んだ。
――通話終了。19時05分。
「……あれ? もう切れてる」
ホテルに戻り、充電器を挿してから再び友人に電話をかけた。
「もー。どうして急に電話を切ったのよ? かけ直してもずっと話し中だったし。誰と電話してたの?」
「ごめん、間違えて押したかも。あの時バッテリー残量も限界だし」
「はは、あんたらしいなぁ」
「それよりさっきの『会いたい』って話、何だったんだ?」
「……私? そんなこと言った覚えないよ」
「いやいや、 だって、しつこいくらいに居場所を聞いてきたじゃないか」
「やめてよ、私を怖がらせたいの? 用事もないのにそんなこと聞くわけないでしょ」
――じゃあ、あの時、私が話していた相手は。
背筋が凍るような感覚に襲われ、私は震える指でスマホの着信履歴を確認した。
5分間の通話のあと、
19時06分。「非通知」からの着信履歴が残っていた
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