表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界の光は君と一緒に  作者: いとい・ひだまり


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/12

1 地下牢の少女

 僕はソノワール国の東地区のレイスターという街の出身だ。更に東には森が広がっていて、地下洞窟には女神エレの泉もある。僕はその森でよく植物を採取して紅茶や香油、薬なんかを作って売っていた。偶に遠出して、その地にしかないものを集めることもあったけれど。


 ある時、西に遠出したところその地の友人に手伝いを頼まれた。内容は、ルスタルという貴族家への侵入だった。彼が落とした腕輪を拾ったルスタル家に「返してほしい」と言ったら「そんなもの知らない」と言われた為、仕方なく不法侵入することになったのだ。

 塀の隙間から隠し通路を通って出た先は地下牢だった。薄暗い照明の中進んでいくと、ある牢の中に少女がいた。ワンピースも、銀の髪も翼もボロボロだ。牢の中にあるのは固そうなベッドと簡素なトイレ。それからいくつかの石とそれを置く為なのだろう、少しだけ豪華で質の良さそうな、布で覆われた棚と低い机。机の左側には曇ったもの、右側には磨かれたものが置かれていた。少女は布を片手に地べたに座って石を磨いている。


「人がいるとは思わなかった」


 気付かれないよう身を隠して、トーマが小さく呟く。


「見張りか?」

「違うでしょ。もしそうだったら牢の中に入ってる訳がない」

「だよな。……あれ、あの子ここの娘さんじゃなかったか? 病気だとかで全然出てこなかったけどまさかこんな……」


 トーマの言葉に僕は耳を疑った。

 彼女がルスタル家の娘? 貴族の娘だって? 綺麗な服も着せてもらえないで、こんな地下牢に閉じ込められている彼女が?

 少女は黙々と石を磨き続けている。放っておけなかった。


「ねえトーマ、彼女を助けようよ」

「はぁ? いつルスタル家の奴らが帰ってくるか分かんねえんだぞ。腕輪の位置も」

「でも僕は助けたいんだ」


 僕と彼女を交互に見て、トーマは溜め息を吐く。


「お前のお人好しには困るぜ。分かったよ。分かった。助けよう。ただ、お前がちゃんと面倒見ろよ」

「分かってる」


 僕はお礼を言うと、石を磨いている彼女に近付いた。


「こんにちは」

「……誰?」

「いきなり悪いな。俺達はちょっと野暮用でね」

「ねえ、そこから出たくない?」


 彼女は石を磨くのをやめてこちらを見ていたのに、また下を向いて作業を再開してしまう。


「出たら、罰を受けるわ。お父様はわたしに石を磨かせて、その力を強くすることだけが望みなの。わたしは、その為に生きているのよ」


 自分の為に生きることを諦めたような顔で彼女は言う。けれど作業が終わったのか、彼女は磨いていた青い石を手に取ると僅かな照明に透かした。少しだけ、その口元が綻ぶ。


「君がいつからここにいるのかは分からないけど、こんな地下牢に閉じ込められてるのは普通じゃないよ」

「十の時からいるわ。普通じゃないのも分かってる。でも、お父様が追いかけてくるんだもの」

「追いかけてくる?」

「逃げたら絶対に見つけるって。怒ったらとても怖いの。この間も……鞭で打たれて……」


 彼女は口を結んで、ぎゅうと膝を抱えた。


「じゃあ僕と、絶対に見つからない場所まで逃げればいい。レイスターを知ってる?」

「……田舎街?」


 確かにそうだけれど、少し複雑な気分だ。


「まあ、そうだね。ここから一番遠いと思う。この辺りの黒や青の翼と違って、周りはみんな白い翼だからそんなに目立たない筈だよ。僕が匿うから」

「同じ家に住むってこと?」

「そうなる」


 彼女は少し顔を逸らした。そしてちらりとこちらを向いて、出てきた言葉は……。


「け、結婚するってこと? わ、わたしえっと、レイラと言います。あの、あ、あなたのお名前は……」

「え? えっと……僕の名前はアスタだけど、その、それは結婚とは――」

「いいじゃねえかアスタ。それに箱入り娘に一々説明してる時間もねえ。レイラ、出んだろ?」


 彼女はこくんと頷く。

 トーマが懐からピッキング用の道具を出し、数秒かかり鍵を開けた。


「おし、これで後は俺の腕輪を……」

「腕輪?」


 レイラは首をかしげると「もしかして……」と棚へ向かった。戸を開けて、ふかふかの布の上に置いてあるものを掴むと持ってくる。


「これのこと?」

「え、そうだ。これだ。持ってたのか、ありがとう」


 トーマは言うと、急いでそれを左腕に付けた。彼の父から貰ったものらしく、ある程度情報を記録しておける魔法石が使われている。普通は地図や思い出の記録に使われるが、トーマの家は装飾品を売っているからその設計も記録されていた筈だ。


「はぁ、やっと落ち着いた。これがないとなんか安心できないんだよな。……ん?」

「どうかしたの?」

「記録容量が増えてる」


 腕輪が壊れていないか確認していたトーマが驚いて、レイラを見た。

 元々彼の腕輪にはいい魔法石が使われていて普通のものより性能がいい。だからルスタル家にネコババされたのかもしれないけど……。


「何かしたか?」

「えっと……」


 彼女は説明してくれた。生まれつき自分は特別な能力を持っていて、石に触れるとその石の力を増大させることができるのだと。おまけに石の気配を察知する能力にも長けていて、どんなに小さくても見つけることができる、と。


「この家はそんなお嬢さんの力を使おうと、こんな場所に監禁してたって訳か。胸糞悪いぜ」


 その言葉に彼女は俯く。


「……それより、目的を果たしたのなら早くここを出たいわ」

「そうだね。見つかっちゃいけない。早く行こう」

「あ、少しだけ待って」


 彼女はそう言うと、棚にあった石を数個持って出てきた。


「腕輪だけなくなっていたらトーマさんが疑われてしまうわ」

「おっと、そりゃそうだ。俺もいくらか貰ってっていいか? 折角なら店の商品に使うか売るかしたい」

「どうぞ」

「よっしゃ、ありがとな」


 楽しそうに棚の中を物色しているトーマを横目に、レイラはある石を見せてくれた。ぼんやりと白が霞んでいて水晶に似ている。


「それは?」

「ゴーストストーン。透明になれるから、屋敷を出る時に役立つかと思って」

「それ高ぇだろ。流石は金持ちだな」

「ええ。一説によると、透明になっている間は死んだ人と距離が近くなるそうよ」

「へぇ、そんな神秘的な話があるんだ」


 草のことはよく知っているけれど、石についてはあまり知らない。ぼくはそっとそれに触れてみた。


「うわっ⁉︎」


 僕の手がない。いや、あるんだけど透けて見えなくなった。すごく違和感がある……。


「用事は済んだから早く出ようぜ」

「あ、うん」


 戻ってきたトーマの声で、レイラはもう一つ持っていたゴーストストーンを彼に渡した。僕とレイラは二人で手を握ることで、一つの石の力を分け合うことに。


「……ん? そういえばどうしてレイラはさっき、石を直接持ったままなのに姿が透明にならなかったの?」

「力の具合をコントロールできるの。石と一つになれるって思ってもらえたら分かりやすいと思うわ」


 普通は石に特殊な機械を付けないと能力のコントロールは出来ない。彼女の力の貴重さを体感した。


 そのまま僕達は簡単にルスタル家を脱出できてしまって、屋敷から少し離れた場所でトーマとは別れた。「売れ行きが楽しみだぜ」とにこにこ顔で店に帰っていったのを覚えている。

 それから僕はレイラと共に超特急でレイスターへと戻ることにした。ルスタル家に見つかる訳にはいかなかったから。ただでさえ僕とレイラの翼は白と銀で、黒や次いで青の翼が多い西の地域では目立った。人の家の屋根を勝手に借りて寝たりもしたけど、レイラは文句一つ言わなかった。六年ぶりだという外の世界に、ずっと目を輝かせていた。


「ありがとう、わたしを連れ出してくれて」


 夜、レイラの背中に薬を塗っていたら不意に彼女が言った。


「本当はあそこから逃げ出したかったの。誰かに助けてほしかった。でも怖くて……」

「レイラ……」


 服を前で抱える彼女の二の腕にぎゅうと力が入った。背中の鞭打ちの傷はまだ治り切っておらず、痛々しい。思い知らせる為、罰の為に打たれたのだという。

 実の娘をどうしてこんなにまで痛め付けることが出来るのか、僕には理解出来なかった。六年もこんな扱いを受けてきた彼女が不憫でならないと歯を食いしばると、彼女は振り返って笑った。


「だから、今とても嬉しいの。ありがとう」


 初めて見たレイラの笑顔は、とても可愛くて、月明かりの下で輝いていた。


「うん」


 僕は微笑んで、彼女が幸せでいられるように頑張ろうと思った。

 そういえば結婚の誤解を解いていないと思い出して話をしたけど、それは上手く伝わらなかったのだった。


 それから僕達は四年間、レイスターのアパートで一緒に暮らした。レイラのことを好きになったけど、手を出すのは何というか、悪い気がして……。

 レイラはブレスレットやネックレスを作って売った。彼女が触れれば、道端の石も力強いエネルギーを放った。女神様が石に力を宿して魔法石にするように、彼女は石の力を増大させることが出来た。「北部出身のお母様が同じ銀の翼だった」とレイラは教えてくれたけれど、きっと女神様に似た力を持っているから、女神様に似た銀の毛色なんだろうとも思った。僕にはそんなレイラが天使に見えた。僕達種族の別名通りの。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ