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番外編 建国記の人々①

今回から番外編です。

タイトル通り、ベアステラ王国を作った人達のお話です。本編のみんなのご先祖さまですね。


地の文は三人称視点になります。



 この世界は、魔王によって一度滅びた。


 大陸中にあった無数の国々はことごとく滅び、なんとか生き残った人々が協力し合って日々を生きていた。そんな時、絶望する人々の中に三人組の冒険者パーティが現れる。そのパーティは圧倒的な魔法の力で魔王を倒し、この世界に平和をもたらした。


 その後、冒険者パーティの面々は人々から勇者パーティと呼ばれるようになった。パーティのリーダーが勇者と呼ばれるようになったからだ。


 亡国の元王子だった勇者は、平和になった世界で全てを失った人々をまとめて国民とし、新たな王国を築いた。それが、ベアステラ王国であり、初代国王セオドア・ベアステラである。




♢♢♢♢




 真新しい王城の執務室でこの国の若き王、セアドア・ベアステラは、膨大な量の書類に囲まれてうんうんと唸っていた。


 魔王による世界滅亡から二年、ほとんど更地になってしまった大地に種をまき、緑が増え、人々の顔にも笑顔が戻るようになってきた。この立派な王城も先日完成し、建立式を行ったばかりだ。魔王やその配下の魔物に怯えることは無くなったが、代わりに政治的な仕事が増えてきた。

 セオドアは元々魔王に滅ぼされた国の第一王子であり、王としての勉強はしてきていた。しかし、魔物相手に剣を振り、魔法をぶっ放すのが好きだった彼には、政務続きの現状は非常に退屈に思えた。


「だが、俺がしなくてはならないことだからな……」


 彼が自身の真っ赤な髪をかきあげ溜息を吐いていると、軽快に執務室のドアが開いた。


「テディー?私ちょっと、散歩に行ってこようと思うんだけど、テディも行く?」


 楽しそうに執務室に入ってきた彼女は、蜂蜜色の艶やかな髪を靡かせながらセオドアの執務机に手をついた。紫の瞳が、楽しそうに揺れている。

 セオドアは青い瞳を彼女に向け、盛大に溜息を吐いた。


「フェリ、どう見ても俺は忙しそうじゃないか?空気を読んで、お前も手伝ってくれ。仮にも……いや、正しく王妃なんだから」


 セオドアの溜息混じりの苦言に、フェリこと、この国の王妃であり聖女でもあるフェリシティ・ベアステラは口を尖らせた。因みに『テディ』というのは、セオドアの愛称である。

 

「私の国では、王妃の仕事は王様の書類仕事を手伝うことじゃなかったんだけど?」

「ベアステラでは王妃が王の書類仕事を肩代わりしても良いことにしよう。なんたって俺が初代の王だからな。いくらでも法や慣習は変えられるぞ」

「うわー、そんなことやってたら独裁者になっちゃうよー?」


 二人の気安い掛け合いからは、パーティ時代の名残が感じられる。しかしセオドアが亡国の王子だったのと同様に、フェリシティもまた、亡き国の王女だった過去がある。セオドアとは別の国の王女だった彼女は、その類まれな治癒魔法と結界魔法の才能により聖女と崇められていた。


 魔王に荒らされたこの大陸において、治癒や結界を得意とする魔法使いは少ない。何故なら魔王が聖なる魔力を持つ者を優先的に排除してきたからだ。多くの治癒、結界魔法使いが魔王との戦いの初期段階でいなくなったが、フェリシティは王族だったため戦いに出ず、隠されていた。そんなフェリシティの国が滅んだ後、行き場を失った彼女と同じく国を失ったセオドアが出会い、魔王討伐のためのパーティを組んだのは必然だったのかもしれない。


 フェリシティは微笑んで、セオドアの頭に手を伸ばした。その燃えるような赤髪を梳くように頭を撫でると、彼は力を抜き、彼女にもっと撫でろというように擦り寄ってくる。


「どうしたの?そんなに疲れちゃった?」

「疲れた。書類仕事は苦手なんだよ。ダンジョンに潜っていた方がよっぽど良い」


 言いながら、セオドアは青い瞳をじっとりとフェリシティに向けてきた。


「お前はしょっちゅう潜っているみたいだけどな?」

「あはははー、バレてる?」

「当然。王妃の行動なんて、筒抜けに決まってんだろ」


 プイッとそっぽを向いてしまったが、相変わらず頭を押し付けてくるセオドアに、フェリシティは笑った。


「ごめんて。そんなに寂しがってると思ってなかった」

「……お前は俺の妻だろ?そばにいろよ」

「うわー、素直ー。可愛いねぇ、私のテディ?」


 フェリシティが頭にキスを落とすと、セオドアはまた拗ねたような目で彼女を見て、すぐに顔を逸らした。もちろん頭はそのままである。それにひとしきり笑ってから、フェリシティも頭を撫でる手を止めずに話し始めた。


「今日はステラに会いに行こうと思ってさ。テディも一緒に行く?」

「ベアステラに?……行きたいけど、政務がな。さすがにダンジョンの第百階層まで行く時間はないな」


 ベアステラは、王城の近くにあるダンジョンの第百階層にいる聖竜の名前だ。以前出会った時に友達になり、王国の名前と国王の姓に彼の竜の名を貰った。故に王と王妃であるセオドアとフェリシティの姓もベアステラとなった。以来、フェリシティは友達に会いに行くと称してよくダンジョンの第百階層まで出かけている。


「ティーナに転送の魔法陣を張ってもらう予定だから、そのうち気軽に会いに行けるようになるよ。そしたらテディも一緒に行こうね」

「ん……魔法陣張ったらすぐ教えてくれ」

「分かった」


 ゆっくりと頭を撫でるフェリシティの手が気持ち良すぎて思わず眠りに落ちそうになっていたセオドアの耳に、バタバタと執務室に向かってくる足音が聞こえてきた。フェリシティも手を止め、執務室のドアを見つめる。すると勢いよくドアが開かれ、涙目の美女が駆け込んできた。ダボっとした黒いローブのフードから、美しい群青色の長髪がはらりとこぼれる。


「セオドア〜〜!!こっ、これ、わた、私が公爵って、どういうこと〜〜〜〜!!??」


 紙をくしゃりと握りしめた手をわなわなと震わせ、漆黒の瞳に涙を溜めて抗議するのは、勇者パーティの三人目、バレンティーナである。比較的内気で物静かなタイプの彼女が大声を出すことなど滅多にない。そんな彼女を面白そうに見ながら、セオドアが軽く答える。


「やぁバレンティーナ、久しぶりだな。ずっと話があるから城に来いと呼んでいたのに、お前が一向に訪れないから、俺の方から話の内容を書いた手紙を送ったまでさ」

「城には来てたよ!フェリを送るために」

「それ、転移魔法で直接フェリの部屋に行って帰っていただろう?警備兵がびっくりするからやめろ」

「だって、フェリに頼まれたから」


 二人がフェリシティに目を向けると、彼女は明後日の方を向いて口笛を吹いた。


「フェリ、バレンティーナを巻き込んで自由に動くのはやめてくれ。毎回俺の元に、『王妃様に撒かれました』と涙ながらに駆け込んでくる警備隊長が哀れでならない」

「ごめんなさーい」


 反省のかけらも無いフェリシティの謝罪に、セオドアは溜息を吐いた。そんなセオドアに詰め寄って、バレンティーナは訴える。


「そんなことよりセオドアっ、どうして突然、私が公爵位を賜ることになってるの!?二人は元王族だからなんとも思わないのかもしれないけど、私は平民だよ?」


 必死に訴えるバレンティーナに対し、セオドアは当然だという顔をする。


「この世界を救った勇者パーティの一員に、褒賞として爵位を授けるのは不思議では無いだろう?」

「身分が高すぎるって言ってるの!!平民がなんらかの功績を挙げて叙爵する場合、大体は一代限りの男爵位とか、その辺でしょう!?それを、こ、公爵、公爵って……」


 バレンティーナは、爵位の中で最も高位の公爵位を貰うことに動揺しているらしい。


「お前の国ではそうだったかもしれないがな。俺とお前では常識が違うんだよ」

「セオドア王子の国で私は生まれ育ったんですけど!?」

「何を言ってる?ここはベアステラ王国だぞ?建国二年の赤ちゃん国家だ。慣例など、あってないようなものだろう」


 セオドアは椅子から立ち上がり、涙目のバレンティーナを見下ろして威圧するように腕を組んだ。


「俺が法だ。異論は認めん!」


 バレンティーナは泣き崩れた。


「ううぅ、ひっそりと一人で暮らしたかったのに……村外れの小さな庵で、日々魔法陣の研究をして過ごす夢が……ただでさえ勇者パーティってことで注目されてるのに……」

「じゃあ、早々に子ども達に爵位を譲って隠居すればいいんですよ。僕もお手伝いしますから」

「へ?」


 バレンティーナの隣りに、いつからいたのか、おかっぱ頭の少年がしゃがみ込んでいた。彼は嘆くバレンティーナににこりと笑って、優しく涙を拭う。燃えるような赤いおかっぱ髪をサラリと揺らし、バレンティーナを見て愛おしそうに青い瞳を細めた。

 少年と全く同じ色の髪と瞳を持つセオドアは、大きな溜息を吐いた。


「ノア、いつからいたんだ?」


 セオドアの煩わしそうな声を意にも介さず、少年はにこりと笑った。


「兄上、バレンティーナさんが来ているのに、どうして僕に教えてくれないのですか?」

「お前には関係無い話だからだ」


 セオドアの言葉に、ノアは上目遣いで含みのある視線を寄越した。


「本当に?」


 その少年らしからぬ全てを見透かしたような視線に、セオドアはまた溜息を吐いた。


「はぁ。バレンティーナ、諦めてくれ。うちの弟がどうしてもと言うから、お前の爵位を上げざるを得なかったんだよ。流石に王弟を平民や下位貴族に婿にやる訳にはいかなくてな……」


「へ?」


「バレンティーナさん、安心してください。僕がお婿に行ったらすぐに、子供をもうけましょう。何人か作ってある程度大きくなったら、二人で隠居しましょうね。大丈夫、僕達の子どもならきっと優秀で、すぐに家のことを任せられるようになりますよ。なんなら大きめの子どもを養子に迎えてもいいし。そうしたら早く二人きりになれますよ!」


「ふえぇ!?」


「こら、ノア。子どもは貴方の都合のいい道具じゃないのよ?そんなんじゃティーナに嫌われるわよ。この子結構子ども好きなんだから」

「え!?ごめんなさい!そんなつもりなかったんです。ただ、早くバレンティーナさんの夢を叶えて二人でのんびり暮らしたいなって思っただけで……そんな、嫌わないでください!」


「ええええええええ????」


 バタン


 目の前で繰り広げられるやり取りに目を回し、バレンティーナは意識を失った。理解の許容範囲を超えたようだ。


「バ、バレンティーナさん!?」


 オロオロと倒れたバレンティーナの前で右往左往するノアを見て、セオドアとフェリシティは顔を見合わせて笑った。


「バレンティーナには、公爵家の家名を考えて欲しかったんだがな……ま、いいか。俺が適当に決めて。バレンティ公爵家なんてどうだ?ノア」

「いいと思います!さすが兄上です!」

「えー、何そのセンス。ティーナが起きたらまた嘆くよ?まぁ、面白いからいいけど。それよりノア?ちゃんとティーナの了承を得てから色々やるのよ?無理やりはダメ!絶対!」


 フェリシティが真剣な顔でノアに言うと、ノアは雄の顔をして笑った。


「当然。僕が成人するまでには、バレンティーナさんに僕無しじゃ生きていけないと言わせて見せます」

「うわぁーお。おっとこ前〜」


 思わず赤面してそう言ったフェリシティとは対照的に、セオドアは遠い目をしていた。


「成人までに……あと三年かぁ。頑張れよ、バレンティーナ」


お読み頂きありがとうございました。

本当は一話で終わらせたかったのですが、長くなったのでもう少し続きます。長くなった理由は、ご先祖さま達が本編のキャラよりよっぽど動かしやすかったからかと……


では、次回もよろしくお願いします。

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