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4-7 初めての実践魔法学

お久しぶりです!

ちょっといつもより長めですが、第四章長いので、今回は切らずに行こうと思います。



 魔力判定から一日経ち、早速次の魔法学の授業がやってきた。

 ベアステラ王立学園は、魔法関連の授業を非常に重視している。よって、魔法学の授業時間も他の科目に比べて多くなっていた。


 一年生の場合、四月の入学から魔力判定が行われる五月までの間は、読み書き計算を学ぶ基礎教養という科目がある。しかし王立学園に入学出来ている時点で、殆どの生徒が基礎教養の科目は満点を取れるレベルのため、これらの科目には復習と確認の意味合いしかない。よって、魔力判定が終わったら、基礎教養の時間は全て魔法学の時間に置き換わり、週に一回だった魔法学の授業は毎日になった。


 今までの魔法学は全て座学だったが、今日からの魔法学はほぼ実践ありきの授業だ。未だ魔法を使えない俺は、緊張しながら魔法実技実習室に入った。


 その後、授業始まりのチャイムと共に実習室に入って来たのは、くすんだ茶色い髪を後ろできっちりとお団子にした、痩身の女性だった。上がり気味の眦からは、オリーブの瞳がギョロリと覗き、神経質そうな印象を与えている。

 

「皆様初めまして。私の名前はキャサリン・マクレイド。一年生の魔法学の授業を担当致します。皆様に実践魔法学の基礎を徹底的に叩き込みますわ。厳しくいきますから、どうぞそのつもりで」


 そう言いながらクラス全体に硬質な笑顔を向けたマクレイド先生に、俺は早速嫌な予感がした。


「では早速、グループ分けを致します。今日はまず、大きく二つのグループに分けます。ご実家等で既にある程度魔法を勉強、習得している習得者グループと、初心者グループです。今から、皆様には簡単なテストを受けて頂きます。その結果によって、私が習得者グループに入れてもいいと思った者は習得者グループに、それ以外の者は初心者グループとなります。今日の目標は、初心者グループの全員が習得者グループに混ざれるレベルになることです。では、私に名前を呼ばれた方はこちらへ来て、ご自身の魔法属性を教えて下さい。その他の方は見学です。見学も授業の一環ですからね。クラスメイトの魔法をしっかりと見ておくように。では、エマ・ライオネルさん、こちらへ」


 真っ先に呼ばれたエマは、はい、と短く返事をして、俺とピーターに翠の大きな瞳で視線をよこした。そして、声に出さずに「行ってきます」と唇を動かしてから、マクレイド先生のところへ向かった。


「ライオネルさん、貴女の魔法属性は何ですか?今使える、使えないに関わらず、魔力判定で出た属性全てを教えて下さい」


「私の属性は聖属性で、他の適正はありません」

 エマの答えに、マクレイド先生は頷く。


「では、この場で使える聖属性魔法があれば、私達に見せて下さい」

「分かりました」


 先生に言われた通り、エマはその場で魔法を発動させた。エマの膨大な魔力が、俺達の周囲に優しく広がるのを感じる。すると、クラスメイトの数人が驚きの声を上げた。


「は?さっき転んで擦りむいた傷が跡形もなくなった!?」

「今朝からずっと痛かったお腹が治ったかも」

「え、なんか、数年前の火傷の痕が消えたんだけど……」

「偏頭痛が治った!?一生の付き合いだと思ってたのに!」

「昼飯食い過ぎて辛かった腹が復活した!?これでおやつもいっぱい食べられるぞ!!」


「……うちのクラス、身体に不調のある人が多かったのね。わんぱく食べ盛り以外。今後定期的に教室に聖結界張ってあげようか?」


 呆れたようなエマの声に、先生含むクラスメイト全員がはっとする。今の結界は、俺達の知っている聖結界じゃなかった。結界の中にいる人達全員の体調を回復させる聖結界なんて、聞いたことがない。

 そんな俺達の気持ちを代弁するように、オリーブ色の目を丸くしたマクレイド先生が、エマに尋ねる。


「聖結界?ライオネルさん、今のは聖結界なのですか?私の知っている聖結界とは違うようですが……」


「正確には、聖結界の中に、治癒魔法をかけた魔法ですね。先生が魔法を見せるようにと仰ったので、見て分かりやすい魔法を使ったつもりですが?」


 きょとんとした顔で、瞳を魔力で紫に輝かせたエマが言うと、若干笑顔を引き攣らせたマクレイド先生がさらに尋ねる。


「もう少し詳しく説明して下さる?」


「聖属性魔法って、結界を張るか、治癒魔法を使うしかできないじゃないですか。他者から見て分かりやすいのは怪我人の治療だけど、私の魔法を見せるために怪我人を作る訳にもいかないし。だったら結界を張るしかないけど、平和な室内に結界を張っても分かりづらいかなって。だから、聖結界を張った内側にちょっとだけ治癒魔法をかけて、結界内の人達全員を元気にできたら、少しは分かりやすいかなと思ってやってみました」


 なんてことない顔でとんでもないことを言ってのけているエマの瞳は、相変わらず紫に輝き続けている。


「でもこの魔法、結界の内側にずっと治癒魔法をかけてるから、魔力すごく食うんですよね……改良の余地ありだなぁ……」

「も、もういいですよ。ライオネルさん、さすが規格外の聖属性魔法でした。勿論習得者グループです。あちらで待機なさって下さい」


 マクレイド先生の言葉に、エマは

「分かりました」

と言って魔法を解いた。紫に輝いていた瞳がいつもの翠色になると、エマは何事もなかったかのように先生に示された席に移動した。


「さすが聖女様」

「まだ候補だって言ってたけど、聖女様ってあんなにすごいんだ」

「いや、年齢的にまだ正式に聖女になってないだけで、能力は歴代最高だってお父様が言ってたよ」

「普段が気さくだから、すごい人だって忘れてた」


 騒然とするクラスメイト達が、口々にエマの話をしている。それほどまでに、エマの魔法はすごかった。


「エマさすがだね。僕、圧倒されちゃった。次の番、僕じゃありませんように」


 隣で震えながら祈っているピーターに、それは俺のセリフだと言いかけてやめた。


 エマに圧倒されているクラスメイト達に向けて、マクレイド先生は安心させるように声を掛ける。


「皆様、ライオネルさんは特別凄い能力をお持ちなだけなので、自分とは決して比べないように。一年生の今の時期に高度な魔法が使える者など滅多にいませんから、安心なさい。

 今回のテストで私が見たいのは、皆様がちゃんと魔法を発動できるかどうかです。どんなに小さくても良いので、魔法で何かを生み出すこと。それが実践魔法学の第一歩なのです。

 私は長年初心者の魔法を指導して来ましたから、未熟で分かりにくい魔法でも、発動していればちゃんと感知できます。

 確かに聖属性魔法を感知するのは難しいですが、ライオネルさんのような規格外の魔法を見せつけなくとも良いですからね。特に聖属性の方は魔力量が少ない方も多いですし、小さな聖結界を張れるだけでも充分評価に値します」


 先生の言葉に、不安そうだった生徒達の顔が明るくなる。


「そうだよ、聖女候補と自分を比べたのが間違いだった」

「私だって、家庭教師には褒められていたんだもの。エマちゃんが普通じゃないだけよね」

「そうだ!あれは俺達とは違う存在だ!俺達はゆっくり練習して上達していこう!」


「……なんか、私が化け物みたいな扱いになってない?」


 エマが口を尖らせてぶつくさ言っているのが微かに聞こえた。


 一番最初に規格外のエマが終わったため、その後のテストは順調に進んだ。

 マクレイド先生は、身分の高い貴族の生徒から順番に名前を呼んでいるようだった。そのため、呼ばれるのが早い者ほど魔法慣れしている者が多く、ピーターを含む貴族の生徒は全員、習得者グループとなった。その後呼ばれた平民の生徒の中には魔法を発動できない者もいて、そういう人達は初心者グループとなった。勿論、俺も初心者グループだ。


 初心者グループは俺も含めて四人で、魔力判定の時に特別講義を一緒に受けた二人は習得者グループになっていた。あの二人はバレンティ夫人と一緒に聖結界を張っていたから、当然といえば当然である。けれど、仲間に置いて行かれた感じがして、なんだか寂しい。そしてそれ以上に、同じ講義を受けた自分が全く魔法を使えないことが情け無く感じてしまう。

 授業が進むごとに、俺のテンションはどんどん下がっていった。


 そんな俺の気分は関係なく、授業は進む。


「では、習得者グループの皆様は、あちらで今言った課題に取り組んで頂きます。その間に、初心者グループの皆様には魔法を習得して頂きます。初心者グループの皆様は私の周りに集まって下さい」


 先生に言われた通りに、俺を含めた初心者グループの五人は集まった。


「では初心者グループの皆様には、各属性の一般的な初級魔法をお教えします。魔力判定の水晶が光るだけの魔力をお持ちなら、初級魔法の名前と、どんな魔法かというイメージさえ明確に持てれば魔法は発動します」


 マクレイド先生はそう言いながら、皆を見回した。先生のギョロリとした目が俺に向いた途端、俺は思わず俯いてしまった。

 だって、今の説明だと、やっぱり俺は魔法を使えないということだからだ。分かった上で魔法学の授業に出ていたが、かなり肩身が狭い。しばらく顔を上げられなさそうだ。


 俯いた俺から一番遠いところにいる生徒へ、マクレイド先生は声を掛ける。


「貴方は火属性でしたね?火属性の初級魔法はファイアです。名前通り火を出す魔法ですから、イメージは難しくないはずです。私の真似をして、人差し指を一本立ててみて下さい。立てた人差し指の先に、小さな火がポッと灯るイメージをして。イメージできましたか?では、『ファイア』と唱えてみましょう。指先に火が灯るイメージをしながらですよ?さぁ、『ファイア』」


 俺以外の初心者グループの生徒達が歓声を上げる。どうやら魔法が発動できたようだ。


「お見事、できましたね。では、貴方は習得者グループに混じって課題をこなして来て下さい」


 そうやって、マクレイド先生は初心者グループの一人一人に声をかけ、俺以外の四人はすぐに魔法を習得した。


 そして、マクレイド先生は今、一人残った俺の前に立っている。


「ルーカスさん、最後は貴方の番です」

「はい……」


 何とか返事を返したが、俺は顔を上げられなかった。それは、魔法を使えない自己嫌悪のせいだけではなく、先生から発せられる何らかの負の感情を感じていたからだ。何故か俺は、マクレイド先生に非常に嫌われているようだった。


「私の授業を受ける者は、魔法発動が出来ることが最低ライン必要な能力です。私の仕事は、初心者の魔法使いを鍛えること。魔法使いでない者を鍛えることはできません」


「…………」


「貴方は魔力判定で水晶の反応がなく、その後の特別講義でも魔法発動はおろか、属性確認さえできなかったと聞いています。そういう人は魔力無しとして、魔法学以外のカリキュラムを受けることになっているはずですが……どうして、私の魔法学の授業を受けているのです?」


 マクレイド先生の刺々しい言葉に、俺は唇を噛み締めた。先生の言い方的に、魔法を使えない俺が魔法学の授業に出ることを聞いてはいるようだったが、納得していないといった感じだろうか。


「その……特別講義の講師に、今は魔法を使えなくても、急に使えるようになるかもしれないから、使い方を勉強しておいた方がいいと薦められまして……」


 俺の言葉に、先生は大きな溜息を吐いた。


「それは使えるようになった時に改めて習えば良いことでしょう。今の貴方に、魔法学の授業は無駄です。ただ見ているだけの生徒がいては、他の生徒の気が散ります。今からでも、カリキュラムを変更してもらいなさい。私はできない者に、単位をあげることはないですからね」


 先生の言葉が、俺の心に刺さる。


 言っている内容は至極真っ当で、むしろ親切とも言えるくらいだ。バレンティ夫人に言われたからとはいえ、俺の方が無茶を言っている自覚はあるし、周囲の白い目に晒される覚悟はしていた。しかし、マクレイド先生の俺への態度は、正論武装した言葉の裏に、憎悪が透けて見える気がしたのだ。


 気のせいか?俺の考えすぎか?

 先生とは初対面のはずだし、彼女は何一つ間違ったことを言っていない。

 ではやはり、勘違いか?

 俺のことが嫌いなわけではなく、魔力無しの人間が嫌いとか?

 嫌悪と憎悪を、俺が勘違いしているだけ?


 そんなことを俯いたままぐるぐると考えていると、もう一度、深い溜息が聞こえた。


「私から言えることは以上です。魔法の使えない貴方に、これ以上使う時間はありません。まだ魔法学の授業を受け続けるなら、他の生徒の邪魔にならないところで息を潜めていなさい。授業の邪魔は許しません」


 そう言って、マクレイド先生は踵を返した。

 そんな彼女を、俺は混乱気味の頭で見送っていた。


「王城にずっと籠っていれば良かったものを」


 少し離れたところで、マクレイド先生が吐き捨てるように言った。きっと先生は俺に聞こえないと思ったのだろう。しかし、俺の耳はしっかりと彼女の言葉を拾ってしまったのだ。


 先生の言葉の意味を理解するまで、俺は目を見開いてその場に立ち尽くしていた。


お読み頂きありがとうございました。

次回もよろしくお願いします。

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