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「まぁ~つぅ~りぃ~」
がぃんっ!
「まぁ~つぅ~りぃ~」
がぃんっ!
「まぁ~つぅ~りぃ~」
がぃんっ!
地の底から響くような呼び声と金属板を踏み叩く音が一定間隔で、しかも、着実に迫ってくるのを、巨大観覧車が姿を変えたプラズマキャノンの天辺で、奉は、恐怖に震えながら聞いていた。
飛び降りようにも、ここは天辺。
さっきのジェットコースターとは、高さが違う。
いくら、奉でも無事ではすまないだろう。
痛さにうずくまってるところを捕まえられたら、すべてが終わる。
しかし、このまま、ここにいてはいけないと、タマシイが叫んでいる。
出会ったときから怖かった。
怖かったので、なりふりかまわず一目散に逃げ出した。
逃げ出したら、追いかけてきた。
追いかけてきたから、逃げ続けた。
捕まったら、何かが変わる気がして、それがとても怖かった。
「ど、どーしよ……どーしよぉ!」
奉は、ただ、オロオロするしかなかった。
上から耳に届くガタガタと震える音。
音の重さ、振動の間隔。
間違いない。
奉は、確かにこの上にいる。
出会って、微笑んだ瞬間に逃げられた。
逃げられたから、むきになって追いかけた。
追いかけたら、さらにダッシュされた。
こっちも負けじと、ダッシュしたら、だんだん楽しくなっていた。
二人とも理由はわからない。
分からないけど、それは、本能か、はたまた、前世からの因縁か。
二人は、追うものと追われるものなのであった。
がぃんっ!
「ひぃっ!」
金属板を踏み叩く音と、奉の短い悲鳴が蒼空に響く。
「ここまでのようね、奉ぃ」
獲物を追い詰める猫のような目で、司は、にんまりと笑った。
「よくも、まあ、こんなことまで逃げてきたわね。
あんたのせいで、あたし、いったいいくつのアトラクション破壊したと思ってんの?」
「そ、そんなの……つ、司ちゃんが追っかけてくるからいけないん……」
「あんたが逃げるからいけないの!
まあ、いいわ。ここで、遊べなかった分のツケ、あんたでたっぷり払って……きゃっ、ちょ、な、なにっ?」
突然、プラズマキャノンがもの凄い光を放ち、驚く司。
見ると、外円に等間隔に設置された三つの発射管が白い光を放ち、中心に配された巨大な光の精霊石に注いでいた。
「なによ、これ! これ、観覧車じゃなかったの?」
「き、気付いてなかったの? たぶん、これ、魔導兵器だよ」
「嘘っ!」
慌てて、司は身を乗り出して、その全貌を見た。
「プラズマ発生装置? 光撃魔術も加わってるし……しかも、目標って……」
「ワス・ウォーディナ帝国首都・皇都アネス・ゴルド、だね」
「いったい、どういうことよ! ここって、遊園地じゃないの?」
「遊園地……のはずだよね。ボク、ちゃんとチラシ見てきたし」
「あたしも……でも、実際は、こんなんなんて……まさか、どっかの帝国の属国が、懲りずに侵攻してきたとか?」
言って、司は、はあぁっっとため息をついて、がっくりと肩を落とした。
「つ、司ちゃん? あの、大丈夫?」
あまりの落ち込みように、奉は、心配そうに声をかけた。
「……せっかく楽しみしてたのに……純真な子どもの夢の舞台をよくも踏みにじってくれたぁねぇ!」
「アトラクション踏みにじった司ちゃんには、言われたくないと思うな」
「なんか言った、奉?」
ぎんっと睨まれ、奉は、ぶんぶんと首を横に振りまくった。
「とにかく! 潰すわよ」
短く言って、司は、宙に身を躍らせた。
「司ちゃんっ? む、無茶だ!」
「くっ、ああああぁぁぁぁっ!」
叫ぶ奉の声を上に聞きながら、飛び降りた司だったが、高出力の電磁波をモロに浴び、苦痛に叫んだ。
「もう、考えなしなんだから……『力』よ……」
奉は、目を閉じ、意識を集中させる。
すると、突然、電磁波の出力が弱まり、苦痛から解放された司は、外円の真下で電磁波を放つ発射管を蹴り砕いた。
「でぃやあぁぁぁぁぁっ!」
そして、今度は、蹴り砕いた発射管を足場に飛び上がり、右上方の発射管を拳で砕き、さらに飛んで、左上方の発射管を打ち砕いた。
「あ、相変わらずの凄まじい身体能力……心配して損したかも」
常識はずれの動きを見せる司に、驚きを通り越して、奉は、呆れた声を出す。
きゅぃぃぃんっ!
そのとき、中心の精霊石が白く輝いた。
「な、なんでよ! 発射管は潰したってのに……」
打ち砕いた発射管の残骸を足場に、司は、焦りの声を上げる。
「司ちゃ~んっ! 聞こえる~っ! 聞こえたら、こっちまであがってきて!」
「わ、わかったっ!」
上から奉の呼ぶ声に応え、司は、昇るときと同じ要領で天辺まで駆け上がる。
「来たわよ。どうしたの?」
息も切らさず、即座に尋ねる司に、奉は、ポケットからチラシを取り出した。
「ここ見て。この船の見取り図だよ。
中央中心に動力室……魔力炉があるところだね。
そして、その真上には……」
「! これって、この巨大観覧車の位置じゃない!」
「そう。この魔導兵器が起動しているのも、電磁波の照射は追いつかなくても、この炉に直結しているからだよ」
「どっちにしろ、これを全体を壊さなくちゃ、作動しっぱなしってわけ?
しょうがないわね。あたしの全『力』を持って、叩き潰して……」
「で、でも、司ちゃん、ホントにできる?
匠ちゃんの武器も他のみんなのサポートもないんだよ?」
「やるしかないわ。
ここで、何もしなかったら、皇都は、壊滅しかねないわ。
やれるかどうか分からないけど……帝国の守護を預かる身としては、やるしかないのよ」
「けど、もし、兵器の破壊に成功しても、魔力炉の行き場の失ったエネルギーで起こる爆発は、どうするの?」
「ああ、それに関しては、考えがあるから、大丈夫。
じゃ、奉、あたしの背中に乗って」
「え?」
「なにしてんのよ。
あんたをここに置いたまんま、ぶち壊すわけにいかないでしょ?
さっさと乗る乗る!」
「う、うん」
せかされ、奉は、おずおずと司の背中に背負われ、どこからか取り出した帯で固定された。
ドクンドクンッと司の鼓動が奉の身体に伝わってくる。
そっと耳を寄せて聞くと、自分の鼓動とはまったく合わないことに気付いた。
司が鳴れば、追いかけるように奉の鼓動がドクンッと響き、それは、まるで、互いに鼓動を補い合うようなリズムだった。
「奉、さっきは、ありがと」
「え? なんだっけ?」
「だ、だから、さっき、あんたが電磁波を……
ああ! もうどうでもいい! いくわよ! はあぁ……」
少し頬を赤らめた司が深く呼吸を繰り返し、精神を集中させる。
すると、その身体から白く輝く金色の光が湯気のように立ち昇り、全身をく覆った。
(なに……これ……いつもと違う。
いつもより、『気』が高まって……こんなの初めて……どんどん、どんどん『力』が湧いてくる)
異様な気の高まりを感じつつ、司は、右手を高く掲げた。
すると、司がイメージしたとおり、硬く握られた右の拳に全身を覆う光が収束し、まばゆいばかりの光が小さな太陽のように輝いた。
「いける! たあっ!」
目をカッと見開き、司は、再びその身を宙に躍らせる。
かなりのスピードで、真下に降りて、中心の白く輝く精霊石の位置までくると、気合とともに白金に光る拳を叩き込んだ!
「だああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
ぴぎぃぃぃっ!
拳がヒットした場所から巨大精霊石に亀裂が蜘蛛の巣状に広がり、次の瞬間、
ごがぉぉぉぉぉんっ!
巨大な観覧車が変形した魔導兵器のそのすべてが消し飛んだ!




