6話 冒険者達と魔族
「主人!主人の頭が落ちた!」
吸血鬼は両手で冒険者達を持ったまま、落ちてしまった私の頭を見ながら慌てていた。
「ロイワさん今助けて…頭軽っ!」
センチが私の頭を持ち上げて驚きの声を上げている。
「何でだろうね…今頭の中が真っ白になってるから頭が軽いのかな?」
私は頭が外れたまま普通に会話をする。
「不思議だね〜!はいロイワさん!」
センチは私の頭を元ある場所に戻してくれた。
前後ろ逆のままで。
「こらセンチ!ふざけている場合では無いだろ!大丈夫ですかロイワ様!?」
ヘルは慌てながら私の頭を回して元に戻してくれた。
「え〜、鉱石人なら一度は通る道でしょ?頭逆さまに置かれるのは」
センチは両手を後ろに回しながら文句を言う。
「2人ともありがとう…さて、吸血鬼さん」
私は改めて吸血鬼に問いかける。
「何でしょうか?」
「あのね…
何してくれちゃってんの?」
「えっ?外の情報を知る為に賢い生き物を連れて「駄目でしょ!?どう考えてもこれヤバイやつでしょ!!?ギルドって村とか街とか、人が集まる場所にある施設だよね?!絶対誰かに連れ去られる瞬間を見られてるって!!」
「大丈夫です!街の住人を全て気絶させてから侵入して連れ去りましたし、この冒険者達はしばらく目を覚ましません!」
吸血鬼は説明しながら両手に持った冒険者を静かに地面に下ろした。
「そうじゃ無くて…はぁ、とりあえずこの冒険者達どうしようか…」
私達は地面に寝転がる冒険者達を見る。
耳が尖っている金髪の女性、耳が丸い茶髪の女性、耳が短くて尖っている黒髪の男性…耳が横に付いている人達しか居ない。
「あっ!!こいつ俺達の住処に無理矢理入ってきて俺達を家ごと全て焼き払った奴らだ!!」
寄ってきたゴブリンが剣士のような姿をした黒髪の男を指差しながら叫んだ。
「こいつ俺の友達殺した…」
オークも寄ってきて悲しそうに呟く。
「この女性、眠っていた私達に火をつけて、仲間達が焼かれる姿を見て笑っていたわ…」
木人は魔法使いのような姿の金髪の女性を見ながら呟いた。
「冒険者の方達は残酷です。我々は人間の邪魔にならないよう人里から離れて普通に生活している筈なのに、冒険者は我々魔族を探し出して殺してしまうのです。少し抵抗しただけでも殺され、逃げても殺され、何もせずに立ち尽くしても殺される…」
自然の大精霊は悲しそうに語る。
「酷い…ただ生きてるだけでそんな…」
ヘルは耳を下げて今にも泣き出しそうな表情で呟いた。悲しさのあまり、うまく言葉が出ないようだ。
「あっ!こいつらの持ち物…」
センチが気絶している冒険者からバッグを取り上げ、中身を見て驚きと怒りの表情を浮かべた。
私達もバッグの中身を確認すると…
「げっ…これって…」
「酷い…」
何と、ゴブリンの耳や木人の髪、スライムと色がそっくりの液体が入った瓶が見えた。
「そう、魔族を殺して体液や体の一部を持ち去り、薬や武器の材料として使用しているようなのです…ゴブリンの耳や木人の髪に代わる材料になりそうな植物の果実を創り出しても人間達は見向きもしないのです…」
「じゃあさ、この冒険者を再び野に放したらまた魔族が人間の私利私欲で酷い目に遭う訳だよね…こいつらどうするの?」
センチは怒りで怖い顔になりながら、冒険者達の処遇について考えているようだ。
「うーん…この場にいる冒険者をどうにかしたとしても、次々と新しい冒険者達がやって来るだろうし…」
私は必死に考える。
「とりあえずこの冒険者達を元いた場所に戻しましょう。我々が此処で冒険者を殺したら人間との関係が更に悪化します…」
自然の大精霊はこの冒険者達を無傷で帰すつもりのようだが…
「だからってこんな殺人鬼を世に放ってもいい訳じゃ無いでしょ!?みんなは仲間を傷つけられてこんなに悲しんでいるのに…」
センチは怒りながら自然の大精霊に抗議している。
「それは自然の大精霊様も分かっている!だが、これ以上魔族と人間の関係が悪化したら困るのは我々魔族なんだ!少しは考えろ!」
ヘルはセンチを叱っている。
どうしよう…口論がヒートアップしている…今此処で仲間同士喧嘩している場合じゃないのに…
私に何が出来るかな…
…………うん、私にできるのはこれくらいかな。
「あの…これ以上魔族達が傷付けられないようにすればいいんだよね?」
私はこの場に居る全員にある提案をしてみる事にした。
「あのね…ここの魔族達を強化して冒険者に傷付けられないようにすればいいんじゃないかな…?」
「「魔族を強化…?」」
センチとヘルは首を傾げた。
「うん、魔族がありえないくらいに硬い上に強くなれば冒険者達は「もう戦いたく無い」って思って戦いをやめてくれるんじゃ無いかなぁって思ってさ…
ほら、今の魔族達は人間から離れて生活しているんでしょ?
そんな遠くに居る強敵をわざわざ探し出して倒すなんて馬鹿な真似はしなくなるんじゃないかなってさ…」
「成る程…それならわざわざ遠くに居る危険な魔族から材料を無理矢理奪い取るような真似をしなくなるかもしれませんね!
安全に取れる材料があるなら危険な魔族狩りを諦めてくれるかもしれません!」
ヘルは喜んで私の意見に賛成してくれた。
「ええ、その提案なら魔族に平和が訪れるかも知れません。私も協力します」
自然の大精霊も賛成のようだ。
「うーん…確かに良い案だけどさ、冒険者達には何か罰は与えないの?切り捨てられてきた魔族達の意思はどうなるの?」
センチは賛成はするものの、冒険者達についての処遇にはイマイチ納得出来ないようだ。
「誰よりも仲間を大切にするセンチの言いたい事は分かる。だがな、ここで誰かが我慢をしなければ平和はやってこないんだぞ?センチ、分かってくれ…頼む」
ヘルはセンチに優しく語りかけて説得している。
「分かってるよ…だから悔しいんだよ…
ここで我慢してアイツらを無事に解放しないと逆に魔族達が危なくなる事だって分かってるんだよ…だけどさ…………ごめん、ちょっと1人になるね」
センチはそう言うと、洞窟奥に向かってゆっくり歩き出した。
「センチ…」
「気持ちの整理をさせる為にも、今は追いかけない方がいいかもね…」
ヘルと私はセンチがトンネルに向かって歩き去るのを静かに見つめていた。