5話 自然の大精霊
私達はウルフくんに乗って、広くて長いトンネルの中を進んでいる。
周りに飛び出した白く輝く水晶のようなものがトンネル内を明るく照らしていた。
「凄い凄い!こんなトンネルの中をこんな速さで走り続けられるなんて!」
センチは興奮しながら窓から外を眺めていた。
「は、速すぎる……」
ヘルはその場で屈んで震えていた。
「うわー!」
「きゃー!」
トンネル内を飛ぶ妖精が増えてきた。中にはウルフくんと並んで飛ぶ妖精もいる。
「綺麗だね…ん?あっ!あれって…」
「「出口だ!!」」
トンネルを出た先にあったのは…洞窟でした。
さっきの場所より狭かったが、遠くに見える大きな穴から夕日に照らされた木や花等の自然物が見えた。どうやら外に通じているようだ。
「きたーー!」
「みてーー!」
妖精達は私を見つけると、手に何かを持ちながら私に向かって飛んできた。
よく見ると洞窟内には謎の生き物や道具のようなもの、なんと家のようなものまで置かれていた。
なんだか申し訳ない…でもしっかり確認しないと持って来た子にも、持ってこられた子にも申し訳ないよね。
私はウルフくんから降りて、妖精達が持っているものをじっくりと見てみた。
「これは…透明なクッション?」
薄い緑色の透明で丸い物体だ。触ってみると弾力があり、プニプニしていた。まさかコレがスライム?なんかでかくない?
「これはスライムですね…」
ヘルがウルフくんから降りて私に近付き、丸い物体の正体を教えてくれた。
「へぇ〜これが…そしてこっちが…」
「離せ!俺達をどうする気だ!!」
別の妖精が抱えている、妖精よりも少し小さめの生き物を見る。ぼろぼろの服を着ており、耳や鼻が尖っている。顔は人のような犬のような…不思議な顔をしていた。
「これはゴブリンです」
「成る程…」
私は妖精が持ってきた生き物を次々と見る。
イノシシのような鋭い牙を持った大きな男。
「これはオークです」
「ど、どうも…」
「どうも」
オークが小さく挨拶をしたので私は軽く会釈をした。
植物と人間が合わさったような見た目の女性。
「これは木人です」
「どうでもいいけど早く解放してくれない?」
木人はだるそうにしながら私に話かけてきた。
「すいません、もう少しだけ辛抱してて下さい」
「まあ別にいいけど」
私の謝罪に木人はだるそうに反応した。
鶏と蛇が混ざったような生き物。
「これはコカトリスです」
黒くて平べったいトカゲのような生き物。
「これは土龍の子どもです」
中性的でとても美しい、緑の長髪の人。
「これが自然の大精霊様です」
「初めまして」
自然の大精霊は微笑みながら挨拶をしてきた。
「初めまして」
私もしっかり挨拶を返す。
……!?
「大精霊様!!?」
「大精霊!?」
私とヘルは驚きながら自然の大精霊に顔を向けた。
「申し訳ございません!大精霊様と知りながらとんだご無礼を!!」
「すいません大精霊様!この妖精さんにこの辺の生き物集めさせたのは私です!申し訳ございません!」
ヘルと私は急いで自然の大精霊に謝罪をした。
「いいのですよ。むしろ久しぶりにお互いの話が通じる相手と出会えて本当に良かった。私の名前はセレセル、宜しくお願いします」
「私の名前はヘルです!」
「私はロイワって言います…」
「あの…その…そうだ!センチ!自然の大精霊様に挨拶を!」
ヘルは慌ててセンチを呼び出した。
「なーに?」
センチはスライムを5匹抱えながらこちらに向かって歩いて来た。
そんなセンチの後ろをついて来る色んな種族の子供達。
「おねーちゃん、お手玉しないの?」
「もっと見たい!」
「ごめんね〜お姉ちゃんちょっと用事があるんだ。ほら、この子達使って練習してごらん!」
センチは抱えていたスライムを子供達に向かって軽く投げた。子供達は投げられたスライムをキャッチすると、その場でスライムを投げ合って遊び始めた。
「あっ!自然の大精霊さんだ!絵本で見たのとそっくり!初めまして!私はセンチって名前だよ!」
「初めまして」
センチと自然の大精霊が挨拶を交わす。
「センチ、お前は…いや、もういい。
自然の大精霊様、ご無事だったのですね!」
「確か戦争に負けて魔族が逃げる際に「私が作り出した生物を残して逃げる事は出来ない」って言って新大陸に渡らず旧大陸に留まり続けてたんだっけ?」
物凄い立派な方なんだね。
「そんな事がありましたね…魔族の方々が去ってから、海を渡り新しい人間がやって来ました。
もしかしたら新しい人間とそれなりに仲良く出来るかもしれないと思い、思い切って人里に降りてみた事がありましてね…」
以外とアクティブな方だね。
「新しい人間に向かって挨拶をしようとしたら、周りにいた人間は皆突然悲鳴を上げて逃げてしまい、残った兵士のような人間は取っ手が付いた棒を私に向けてきたんです…
「おぞましい気配だ…お前は何物だ!」
だなんて言われてしまったんです…
私は悪い者では無いと説明をしたのですが、相手に話が通じなくて…
相手の言葉は分かるのに、相手は私の言葉が分からないので挨拶どころでは無くなってしまったのです」
それは災難でしたね…
「余りにも酷い仕打ちだったので、私はその村の出入り口全てに大樹を生やして私は自分の住処に帰ったのです」
根に持つタイプなんですね…
「奴らは私が作り出した生き物を問答無用で叩き潰してきます…恐らくカムヤナに存在しない種族である貴方達も例外ではないでしょう。
悪い事は言いません。奴らに会う前に元いた大陸に帰りなさい」
「はい…帰りたいのは山々なのですが…」
「どうやって帰ったらいいのやら…」
ヘルとセンチが困り果てていると…
「主人〜!!主人〜!!」
洞窟の出入り口から声が聞こえて来た。
間違いない、吸血鬼が返って来たんだ。
吸血鬼は両手に何かを持ちながら笑顔で私に駆け寄って来た。
ドスドスドスドス…
「何あのおっさん!超デカいじゃん!」
センチは吸血鬼を見上げながら叫ぶ。
センチの言う通り、確かにデカい。サイズ間違えて作っちゃったからね…
「ああ、あれは私が作り出した吸血鬼って奴だよ」
「クロイ…じゃない、ロイワ様が作り出した魔人なのですね…」
「間違えてあのサイズで作っちゃったの…」
「分かります。私も最初は平均的なサイズが分からず、物凄く大きな生き物を作り出してしまった事が多々ありました…」
自然の大精霊は頷きながら私を見る。
サイズ感を間違えるって大精霊あるあるなの?
「主人!!」
私の前で吸血鬼が止まった。
「吸血鬼、何を見つけて来たの?」
なんか嫌な予感がするんだけど…
「これを見て下さい!」
吸血鬼は両手に乗せた物体を私に向けた。
そこには何と…
冒険者のような身なりをした人間が沢山。
「旅人のような身なりをした奴らなら外の世界の話を沢山知っている事でしょう!大丈夫です、一般市民には一切手を出していませんから!」
「あの…この人達は何処で見つけたの…?」
私は恐る恐る尋ねてみた。
「街の中にある「ギルド」って呼ばれている建物に沢山集まっていました!」
ガシャーーン!!
余りにも驚き過ぎて自分の頭が外れ、地面に落ちてしまった。