落ちこぼれは朝から気が休まらない
お久しぶりです。
更新がだいぶと遅くなってしまいました……
今のところ終わりは全く見えてきませんが、この話を書ききるためにこれを始めたので、時間はかけても必ず書ききります。
気長に見守っていただけるとうれしいです。
翌日。
学校に着くなり視界を塞がれた。
反射的に臨戦態勢に入るが、相手から敵意や殺気は感じられない(作者注・ここまでの所要時間およそ0.3秒)。
「だーれだ♪」
なんの脈絡もなく背後から聞こえてきた声に脱力する。
「……相当暇なんだなお前」
「ちっ気づくのが早い」
……古谷だ。
いや声でわかるから、などという反論は求めていなさそうなので胸にしまっておく。
こいつはあの一件(1章小休止参照)から妙に絡んでくるようになった。なんだってんだ一体。
うん、相手が古谷とわかれば手加減は必要ないな。
目元に当てられた手を力いっぱい振り解く。
古谷は少しバランスを崩したが、すぐに立て直してニコニコ笑っている。
……お前俺が嫌いなんじゃなかったのかよ。嬉しそうなのがまったく理解できない。
と、小さな鳥が目の前に飛んできた。
無論本物ではなく古谷のイタズラ。
こいつ動能力者だからな……。おもちゃを本物っぽく動かすことくらいは楽勝だ。
呆れておもちゃを捕まえると、古谷がにーーーーっと笑って俺をこづき始めた。前とキャラ違いすぎるだろ。
いつもなら古谷の暴走は悟とあーちゃんが止めてくれるんだが、今は二人ともいない。一緒に来てるわけじゃないから当然ではあるが、理不尽にも呪いの念を飛ばしたくなる。
仕方がない。
俺は古谷にまとわりつかれたまま、ロッカーに向かうことになった。
今日は昨日に引き続き掃除実習。班変更はない、とされているが俺たちの班はどうなるんだろう。
古谷をいなしながらぼんやり考えていると、
「うわっ!?」
隣の古谷が前につんのめる。
慌てて後ろを向くとあーちゃんが立っている。
かけようとした声は、あーちゃんが今までになく不機嫌なのに気づいて飲み込んだ。
「翔弥に何してるわけ、コウ」
古谷をにらみながら言うあーちゃんの顔が怖い。
呆気に取られていると、今度は横からぐんっと腕を引かれ、誰かにぶつかった。
「あ、悟……」
おはよう、と言おうとしたが、こちらも明らかに怒っているのでやめる。
そうこうしているうちにあーちゃんと古谷が目の前で言い合いを始めた。なぜか古谷があーちゃんにはたかれている。
「あのー、あーちゃん、悟……」
「「何?」」
鬼のような形相で振り返られて1歩後ずさる。
「いや、俺別に困るようなこと何もされてないから」
「「俺らが困るの」」
古谷は「山崎、人気者だねー」とか口笛を吹きそうな勢いで言うもんだから、またあーちゃんにはたかれている。
「だいたい、翔弥は昨日の今日で無防備すぎ」
「そうそう。 こんなお荷物連れてロッカーに向かうとか。 また昨日みたいなことやられたらどうするの」
「お荷物って……それはさすがに言い過ぎじゃ……」
悟の剣幕に気圧され、学年上位(古谷)相手にとことん口が悪いあーちゃんに呆れていると、
「ん、昨日何かやられたのか?」
古谷がのほほんと言う。マンガだったら周囲に花が飛んでそうだ。
他の二人は説明するつもりはなさそうなので、仕方なく俺が昨日の朝のことをかいつまんで説明する。
途中から古谷の目がだんだんと細められていく。
それを見たあーちゃんがこりゃあ終わったなそいつら、と呟いたのが耳に届く。
どういうことかはすぐにわかった。
「よしこれからそいつ潰す」
「いやいや待て待て待て」
ものすごい笑顔でさらっと宣言した古谷を慌てて取り押さえる。
ヤバいこいつ、顔は笑ってるのに声が全然笑ってない。むしろ不機嫌。古谷の実力から考えて、止めないと死人がでるかもしれない。
その後。
およそ5分説得し続けて、「わかった、殺すのはやめておくよ」と言わせることができた。やっぱり殺すつもりだったのかこいつ、止めてよかった……。
この展開が予想できていたらしいあーちゃんは隣で苦笑い。一緒に止めてくれてもいいだろ……。
そういえば。
「あーちゃん、やけに古谷に遠慮ないけどなんで?」
「それ今どうでも「そうそう! 俺と天彦は幼馴染だから!」」
「……コウは黙って」
これ以上深く詮索するなら殺す、と言わんばかりの殺気を放つあーちゃん。ええ、この二人の関係は一体……。
あ、そういえば作業着取ってくるんだった。
言い合ってる二人は放っておいてロッカーに向かうか____
と、思ったのだが。
「翔弥」
「山崎」
「「何逃げてんだよ」」
妙に息の合った二人に捕まってしまった。
一縷の望みをかけて悟を見るが、苦笑いするばかりで助けてくれる気配はない。
結局、一触即発の空気をかもし出す二人に捕まったままロッカーに向かうはめになった。
今日は朝から本当に疲れる。
で。ロッカーに着いたわけですが。
「またずいぶんと古典的な手を……」
あきれたような悟の言葉には誰も答えない。
そりゃそうだよな。ズタズタにされた作業着見て何か言える奴はそういない。
悟の言う通り、物を壊す隠すは昔からやられてきたド定番の嫌がらせだ。
でもこれ、多分普通に壊したんじゃないんだよなあ。超科学力の跡が見えてるから。しかもこれすげー見覚えある感じの跡だし。
……などと言っても何の解決にもならないのは明白なので、口には出さない。
不意にがん、と金属音がしたので、見ると古谷がロッカーに手をついていた。
めまいでもしたのか、と聞くと違うと言われた。俺から古谷の顔色は確認できないが、本当に大丈夫か?
あーちゃんも顔が怖い。ジト目で古谷を見ている。
「天彦、どれくらいかかる?」
相変わらずロッカーに向いたままの古谷があーちゃんに声をかける。声に温度があるなら今のは氷点下だろう。怖い。
「……これくらいなら10秒」
作業着を一瞥したあーちゃんがボソッとつぶやいた。
次の瞬間、あーちゃんが左手を作業着にかざして超科学力を流し始めた。
みるみる破れた作業着が直っていく。
こうなってくると超科学力なんて名称じゃなくて超能力って呼んでいい気もする。ただ、この学校に所属する人間は一貫して「超科学力」と呼ぶことにこだわっている。
宣言通り10秒で作業を終わらせると、あーちゃんは俺を振り返った。やめろ見るなまだ顔が怖い。
しかも俺を見たまま何も言わずに静止している。もう訳がわからない。
「えっと……とりあえずあーちゃんありがとう」
あーちゃんは仏頂面でうなずき、周りの様子を見ていた悟の方に歩いていった。
やっと気まずい空気から解放された、と思ったらすぐに古谷がくっついてきた。
「……山崎お前、友達少ない割にけっこう愛されてんのな」
古谷の言葉の真意を測りかねていると、授業開始5分前を知らせるチャイムが鳴った。
「悟、あーちゃん。それと古谷。早く教室行くぞ。遅れたら大変だ」
俺はおまけか、と古谷がぶつぶつ言っていたようだが無視。聞いてる暇はない。
「ごめん翔弥、ちょっと助けて」
くぐもった声が聞こえると思ったら、悟があーちゃんに羽交い締めにされていた。時間がないので、嫌がらせの首謀者割り出しをひとまず拒否したら捕まったらしい。
「とりあえずあーちゃん引き剥がしてくれない?」
「……と言われても」
ただ、今身動きが取りにくいのは俺も同じ。
古谷を引きずって教室に行くことはできるが、このままあーちゃんを引き剥がすのは難しい気がする。
……それに。
「首謀者だったら、ボロボロの作業着見てわかったから問題ないけど」
「「「はあぁぁぁ!?」」」
思ったことをぽろっと口に出したら残り三人がものすごく大きな声を出したので、こちらがびっくりしてしまった。
こんなところで無駄話をしている暇はないので、早歩きで移動する。あーちゃんも悟から離れて歩き始めていてほっとひと安心ではあるものの。
「え、あれはわかりやすくない?」
「……いやいやいやいや」
「あれのどこに人特定できる要素があったの」
「やってたとこ見てたのか? 見てたんだな?」
……え、これって説明必要なものなのか?
とはいえ、時間がないのでうるさい三人を無視して教室に向かう。
……授業開始まであと3分。




