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太陽の声  作者: 仲村戒斗
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第一章‐11

 翌日。太陽神に会うため、スラッグ、アテラと共に聖堂へと向かっていた。てっきり朝から森に向かうと思っていたのだが、アテラが「太陽神様に会わないといけないでしょう」とスラッグをたしなめていた。重要なのにすっかり忘れていたらしい。森で目覚めた時に履いていたものとは違う、簡素ではあるが丈夫らしいこの街の革靴で石畳を歩く。聖堂はヘリオスの中心付近に建てられており、スラッグ達の家からは歩いて数分の近い距離にあるようだ。しかし、相変わらず強い日差しは体力を大いに削っていく。スラッグとアテラは流石に慣れているのか平然としている。


「サモスタルコス様というのは神父に相当する存在なのかな」


 太陽神が地上で顕現するための依り代として使われる人間。この街ヘリオスではサモスタルコスという人物がそれを担う。役割としては大きく異なるが、聖堂にいる存在として近いように思った。


「シンプという言葉は知らないな。総称としてはコードペイターと呼ばれている」


 知識をまさぐると、ペイターとはラテン語で父や神父を指す言葉だ。コードという語が役割の補足的意味を持つのか、それとも関係がなくコードペイターという全く別の意味を持つ単語なのか。そもそも神父が通じない事を失念していた。使用用途が限定的な語は通じないであろう事は分かっていたのに、うっかりだ。それも、彼らが日本語をペラペラと話すから自然と通じると錯覚してしまう。ただ、明らかに日本人ではない彼らがナチュラルに話していると意識すれば違和感は強い。日本語は地球規模で言えばマイナーな言語になる。どちらかと言えば英語の方が適切だ。厳密に言えばそれも適切ではないだろうが。


「そのコードペイターであるサモスタルコス様は聖堂に住んでいるのかな」


「そうだ、聖堂には居住空間が設けられていて、コードペイターはそこに住む事になっている……ほら、あれだ」


 家を出て通路をずっと進んでいくと広場に出る。そこはヘリオスのほぼ中心に位置する場所で人々の憩いの空間となっており、祭りのときはここを会場とされる。そしてここから東に向かうと灰色の外壁の建築物が見える。近いとは言われていたが、本当にあっという間だった。


「これは……」


 近づいていくにつれて聖堂が視界を覆っていく。神を祀るというその巨大な建築物は、二階までの家が大半の街中では突出した存在感を放っている。大きさだけでなく装飾も多数施されまっさらな場所を探すのも一苦労するのではと思う程に過多であり圧倒的だ。思わず感嘆の息を漏らしてしまう。知識と照らし合わせると、所謂バロック建築というものに該当する。芸術的な設計思想で複雑に構築された建物がそう呼ばれる。俺が知る歴史の知識では大昔の文化だ。建物全体がどうなっているのか分からないが正面側は建物が楕円形になっていて、壁にはガラス状のものが埋め込まれていたり、いくつか大きいくぼみがあってその中に人型の彫刻がある。更に上を見上げると、塔のように三か所突き出ていた。ともかく、このような装飾を施された異様な建築物を見たのは記憶がないため当然初となる。彫られている造形のどれもが別々の形をしていて外側だけでも一日中見ていられそうだ。むしろ足りない気さえしてくる。


「見とれるのも分かるが、行くぞ」


「ああ……」


 急かされて聖堂正面の扉を開いて三人共に建物の中に入っていく。


「中も豪華な造りをしているなぁ」


 外だけ豪華なハリボテなんかでは当然なく、しっかりとした建築物だった。外側に負けず劣らず、いや明らかに内側の方が凝っていた。表面的な部分だけではなく構造的にも異質さが浮き彫りとなる。天井には縦長の絵を挟み込むように左右、多くの窓がありそこから太陽光を多く採り入れられとても明るい。奥にはステンドグラスが見える。太陽神が祀られるのに相応しい太陽の聖堂だ。天井の中心を走る絵を眺める。これは何を描いたものなのだろう。知識上では神話を表現したものだが、これも同様にこの世界の神話なのだろうか。しかしそう考えると違和感がある。


「こんなすごい聖堂、誰が設計したんだ」


 バロック建築を実現するには、この大きな立体物を美しく飾り付けられるだけの芸術家と、それを破綻なく構造に組み込んで設計できる建築家が必要だ。


「数百年も昔の話だが、設計、建設したのはヘリオスと建築様式が違うのも理由の一つだな。こんな設計、やろうと思ってできるもんじゃないとヘリオスの建築が言っていた」


 どんな人物がデザインしたのか本人に話を訊いて見たかったけれど、それは叶わぬ願いのようだ。とてもじゃないが生きていないだろう。


「ヘリオスの住民はね、皆ここでお祈りしているの。幸せを願うときや不幸を悲しむとき、世界が怖いとき。皆が太陽神様を頼りにしているのよ」


 朝早いからか、来ている信者の姿はなかった。奥のステンドグラスを輝いた瞳で眺めるアテラは聖堂のありようを教えてくれる。描かれた神を見つめる彼女は恋する乙女のように恍惚としていて、その表情は魅力を惹きたてていた。神はそれほどまでに崇められる存在なのかと不思議に思う。


「それにしてもこのステンドグラス、すごい」


 十メートルはあるだろうその巨大なガラス細工は、上部に赤く丸い太陽が象徴的に配され、日光が降り注ぐ下部には豊かな自然と、手を合わせ恵みを喜ぶ人間達、そして動物達の姿が描かれていた。その動物はよく知っている形だった。本来ならあの森も俺が良く知る動物が住んでいたんだな、けれどモンストラクターが現れた事によって大きく変わってしまった、と。

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