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私の邪悪な魔法使いの友人2  作者: ロキ
シーズン2 私の邪悪な魔法使いの友人の弟子
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第四章 5)アリューシアの章

 とはいえ、ラダの提案を本当に実行に移す勇気は、さすがのアリューシアにもなかった。

 あの魔法使いに自分から話しかけるなんてありえない。それは疾走する百頭の暴れ馬の大群の前に、裸で飛び込むことよりも勇気がいること。

 しかしその馬の大群の前を横切らなければ、向こう岸に渡ることが出来ないのならば、一か八かの勇気を見せる必要があるのかもしれない。

 さもないと永遠にあの魔法使いの世界に辿り着くことは出来ないのだ。


 (いや、違う。あの人が百頭の暴れ馬そのもの! 百頭の大群を上手く避ければいいということではない。百頭の暴れ馬の大群に突っ込んで、ぶつかって、それでいて生還しなければいけないということ。無理無理、そんなの絶対に無理!)


 そういうわけで結局、アリューシアの日常は変わらないのである。窓から魔法使いの姿を見ているだけ。


 しかしそれでもアリューシアの人生は幸せに包まれている。

 いつも同じような夕暮れの時間、あの魔法使いは庭に現れる。

 庭に現れた彼の姿を見ているだけで、アリューシアの心の中は大変な御馳走を前にしたときのように、次から次へと幸せの唾液が溢れてくるのである。

 だから、それで充分ではないか。


 「お嬢様、そんなことで本当にいいのですか?」


 しかし侍女のラダがアリューシアの影を踏みつけながらチクリと囁いてくる。「この時間が永遠に続くと思っているのですか?」


 「ど、どういうことよ? ラダ」


 「いずれ、あの魔法使いさんはこの屋敷を出て行くんですよ。彼が今、この屋敷に滞在されているのは、戦いの報酬を全部受け取っておられないからだという話しです。すなわち、その報酬を受け取れば」


 「ここから出ていってしまう・・・。た、確かにそうね、その通りだわ!」


 アリューシアは冷静に受け答えしているつもりでいながら、声の震えを止めることは出来なかった。


 「どうしよう、どうしよう・・・」


 (しかし、ラダはどうして、嫌なことだけはしっかりと伝えてくるのかしら)


 もしかしたら冷静な指摘をしてくれているのかもしれないが、そんなことに関係なく、ただただラダの言葉に腹が立った。アリューシアはラダを睨みつける。


 「お嬢様、私を罵っても、その現実を変えることは出来ませんよ」


 一方、ラダは動揺するアリューシアを嘲るように返してくる。


 「な、何よ、ラダ! もうクビよ! あんたこそ、このお屋敷から出て行きなさいよ!」


 「さようございますか」


 ラダは澄ました表情で、間髪入れず返してくる。


 (本当にこの女、嫌な性格だわ! 女なんて大嫌い! 早く私は男の人と生きたい・・・。でも、この性悪女の言ってることがデタラメじゃないことも確か。いずれあの人はこの屋敷を出て行ってしまうことは事実なんだ)


 「どうにかしなさいよ、ラダ!」


 ラダに八つ当たりしても仕方ないことを受け入れて、アリューシアはむしろラダに頼ることにする。


 「私はさっき、クビにされたのでは?」


 「取り消しよ、取り消し! とにかく私を助けてよ、ラダ!」


 あの人がこの屋敷を出て行ってしまったら、アリューシアの世界はどうなってしまうだろうか。

 その瞬間、アリューシアの世界から美が消え去ってしまうだろう。

 空から太陽が消えて、世界が真っ暗になってしまうというのではない。だって夜は夜で美しいのだから。

 すなわち、あの魔法使いがアリューシアの前からいなくなってしまうというのは、太陽が消えるどころの騒ぎではないということだ。

 闇が美しいことを、アリューシアはあの魔法使いに出会って、初めて知った。あの魔法使いがいなくなったら、その闇も美しさを失うだろう。


 「ねえ、あの人を引き止めてよ」


 アリューシアはラダに哀願する。

 あるいは、私の代わりにこの気持ちを伝えて欲しい。


 「何を愚かなことを」


 ラダは取り合わない。


 「お願い!」


 「無理です」


 「どうしてよ、ケチ!」


 「・・・わ、私も、男の人とそんなに話したことはありませんから」


 さっきまで澄ました表情をしていたラダが、途端に弱々しく微笑み始めした。


 「え、え、そ、そうなの?」


 「は、はい・・・」


 「何それ? それなのに私に偉そうにアドバイスしてたの?」


 「別に偉そうにしてたつもりはありませんけど」


 「恋愛のことは私にお任せみたいな態度だったじゃない」


 「はて、何のことやら」


 しかし実のところ、あの魔法使いがこの屋敷を出ていく日は、すぐにやって来そうな気配はなかった。

 アリューシアもラダも知らない事実であったが、ボーアホーブ家は約束した報酬を支払えそうになかったからだ。

 そしてボーアホーブ家はこの経済状況を理由に、約束の報酬を支払う意思を失いつつある。


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