表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私の邪悪な魔法使いの友人2  作者: ロキ
シーズン2 私の邪悪な魔法使いの友人の弟子
PR
68/188

第四章 6)アリューシアの章

 「約束したことは事実であるが、奴の要求は無茶だ。あんなもの、こちらの弱みにつけ込んだ卑怯な契約。真面目に履行する必要はない」


 というのがアリューシアの父の弁であった。それを建前にして、父は魔法使いへの約束の報酬を出し渋り続けていたのである。


 「我々も同じ意見です」


 重臣たちもアリューシアの父の意見に同意する。「あのような莫大な報酬、支払う価値はありません。奴が痺れを切らすまで待つ、五年でも十年でも。もちろん、奴が怒り出さないよう、幾らかは小出しに支払って宥めることは必要ですが」


 「奴だって、ボーアホーブ家とギャラック家の戦いが激烈だったことは承知のはず。それに大変な戦費を費やしたことも。いくらボーアホーブ家であっても、簡単に支払うことが出来ないことくらい理解しているでしょう。引き伸ばし続ければ、いずれ帰る仕度をするに違いなりません」


 多くの重臣たちの意見もアリューシアの父と同じであった。いや、更にそれ以上に過激な意見を具申する武官もいた。


 「この際、暗殺を試みるのも一つの選択肢ではないでしょうか。強欲の罪は裁かれて当然。奴はあまりに多くを求め過ぎています」


 「奴を殺すというのか?」


 しかしアリューシアの父も、その意見にはさすがに眉をひそめた。


 「ボーアホーブ家のためです。私が命に替えてでも成功させてみせます」


 「しかし失敗すれば、我がボーアホーブ家は、奴と完全に敵対することになる。それどころではない、隣国にも悪い噂が流れるだろう、ボーアホーブ家は金で雇った魔法使いに報酬を支払わず、それどころか暗殺を試みたと」


 「ギャラック家も奴を恨んでいます。ギャラック家の仕業に装う工作は容易なはずです。しかしそのような工作が必要なのは、暗殺に失敗したときの場合だけ。奴は我々を甘く見て、油断しきっている様子。あのような優男一人、殺すのは容易いことでしょう」


 「確かにそれが成功すれば、全ての心配は杞憂に終わるだろう」


 その意見を真剣に検討し始めた様子の父を見て、末席に佇んでいたアランが慌てて声を張り上げた。


 「魔法使いプラーヌスの実力を甘く見てはいけません。彼の魔法の前では、我々など赤子同然。暗殺が成功するはずありません。見え透いた工作なども見抜かれるでしょう」


 しばらくは黙って重臣たちの意見を聞いていたアランであったが、ついに我慢しきれないといった表情を見せる。「それは我がボーアホーブ家の完全なる破滅を意味します」


 「アラン様のご指摘の通り、暗殺は危険な策ではあります。しかしアラン様はいささか、彼のことを過大評価しすぎではないでしょうか?」


 「それはあなた方が、彼と共に戦場を駆けたことがないからでは? もし一度でも、彼の魔法を間近で見ることがあれば、そのような意見は口が裂けても言えないはず」


 アランのその言葉に、暗殺を提案していた武官は押し黙った。ここに居る重臣たちは、誰もあの戦場で戦ってはいないのだ。


 「わかっているアラン。あの魔法使いの力で、ボーアホーブ家は滅亡を免れたのだ。それを剣で報いるのはあまりに無慈悲」


 父がアランを宥めるように話し始めた。「とはいえ、奴の言い分を受け止め、そのまま言い値を払えば、ボーアホーブ家が破産の危機に見舞われることも事実」


 「確かに彼の要求は過大です。しかし今こそ、ボーアホーブ家の名誉を賭け、その契約を履行すべきときかと存じます」


 アランは次期当主である。それなのに、この件に関してはただ意見をすることしか出来ないのが悔しくて仕方なかった。

 本来ならば、彼が前面に立って交渉すべきことである。しかしアランは魔法使いの立場に立った意見ばかりを口にする。それが周囲の評価だった。

 もしかしたら裏で通じているのではないか。たとえば魔法使いが受け取る報酬の一部を、アランが受け取る裏約束があるとか・・・。そのような噂まで立っている。

 そういうことを考慮に入れ、魔法使いとの交渉だけは父が勤めることと相成ったのだ。

 もちろん、そんなことありえない。アランに後ろ暗いところはない。


 「彼に支払う報酬の目途は尽きつつあります」


 アランはこれまで主張し続けていた意見を、また改めて父に説く。「確かに報酬は桁違いの金額ですが、ボーアホーブ家ならば決して払えない額でないことも事実」


 「しかしそれを払えば、我々は十数年もの間、質素な生活に耐えなければいけない。税を上げる必要も生じるだろう、民も苦しむ」


 確かにその通りではある。父や重臣たちの言い分も充分に納得出来るものであった。

 その契約を履行すれば、結局のところ、ボーアホーブの領地に住む領民たちが苦しむことになるのだ。

 それだけにアランは強く押し切れないところもあった。


 (しかし父や重臣たちは、あの魔法使いを甘く見ている。彼と交渉することは絶対に不可能だ。まして駆け引きが介在する余地は皆無。ただ淡々と、最初の約束を履行するのみ。それだけが我々の選択肢)


 あの魔法使いを怒らせてはいけない。彼はギャラック家などよりも、ずっと恐ろしい相手なのだ。

 そこを父も重臣もわかっていない。ボーアホーブ家は世界に名だたる富豪だが、所詮、片田舎の貴族に過ぎない。アランはそんな危惧を強く感じていた。


 (このままでは、何か恐ろしいことが起きるかもしれない。あの魔法使いが黙っているはずはないのだから)


 例えば何の警告もなしに、あの魔法使いは突然、実力行使に出るかもしれない。

 ボーアホーブ家の金庫を奪うなどということではない。それでは世間に悪評が立つ。


 (そんなやり方ではない。もっと違うやり方で、彼は我がボーアホーブ家を、恐怖でもって屈服させようとするだろう)


 いや、あるいはそれを待つのも一つの方法かもしない。アランの弁舌では父や重臣たちを説得出来ないのだから、彼らにその恐怖を味わってもらうのだ。

 しかしそれで何か失われたとしたら、悲し過ぎる。例えば誰か死んでしまったりすれば、それは取り返しのつかないこと。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ