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私の邪悪な魔法使いの友人2  作者: ロキ
シーズン2 私の邪悪な魔法使いの友人の弟子
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第一章 12)執事サンチーヌ

 ホールの客たちはすぐに塔の主に会えないことがわかると不満そうな表情を見せていたが、文句を言いながらも、こちらの要求通りに来客名簿に名前を記して、別室に設えた即席の応接室に次々と移動していった。


 客たちの数は本当に多くて、ホールの階下にある部屋を全て活用しても納まり切らなかったので、やむなくこのホールにも椅子やテーブルを用意した。

 それを用意するのは本当に大変だった。サンチーヌの指揮の下、アリューシアの連れてきたメイドや召使たちは本当に頑張って働いてくれたと思う。

 もちろん、この塔の召使いたちも、彼らに負けないくらい働いた。ゲオルゲ族の召使いだって、アビュの指示に従い、椅子やテーブルを運ぶのを手伝っていた。

 そのおかげで、思ったよりも早く全ての準備を設えることが出来た。


 疲れを見せ始めていた客たちも、椅子に座って一息つき、軽い食事と飲み物を口にすると、一様に落ち着いた様子を見せたようだ。

 先程まで塔のホールには、暴動前夜のように苛立ちが渦巻いていたが、今は晴れた日の昼下がりのような穏やかな雰囲気になっている。


 私はサンチーヌの見事な手腕に、感嘆せざるを得なかった。

 サンチーヌ。

 年齢は、私やプラーヌスよりもいくらか上であろう。

 黒い髪の毛が丁寧に撫でつけられている。切れ長の目には、冷たさと共に、鋭い知性や深い教養が感じられる。

 貴族的な、見目麗しい容貌である。ボーアホーブ家という名門貴族の執事として働いているということは、彼も下級ながら貴族の出に違いない。

 おそらく貴族の次男か三男。名門貴族が庶民を執事として働かせることはないはずだから。


 「私に感謝するよりも、まずはアリューシアお嬢様に感謝するのが筋でしょう。お嬢様が命じたことを、遂行しただけに過ぎませんから」


 私がサンチーヌに感謝の言葉を告げると、そう軽く一蹴された。


 「はあ、そうですね・・・」


 あまりに冷たい突き放すような口調に、サンチーヌに抱いた感謝と感動は急速に萎んでいきそうになったが、彼に助けられたことは事実なのだ。その気持ちは忘れてはいけないだろう。


 「とにかく塔が平安を取り戻せたことを感謝します」


 私は言う。


 「あなたが私に感謝するのは勝手ですが。しかし付け加えるとすると、更に感謝すべきなのは、食事と飲み物を作った料理人のミリューとアバンドンです。あの二人の料理がなければ、客たちがこれほど簡単に、機嫌を直すこともなかったでしょう」


 「ああ、あの料理ですか?」


 確かに客たちの機嫌が変わったのは、その料理を出してからだ。

 レモンの果汁の入った飲み物と、パイ包みのお菓子。見た目には何の変哲もない料理だった。量もそれほど多くはない。


 「あれはそんなに美味しいのですか?」


 「私もボーアホーブ家に長年お世話になり、様々な料理人の様々な料理を食べさせて頂きましたが、この二人の料理は傑出しています。アリューシア様の御父上であられる、ボーアホーブ家当主様が、非常に料理に造詣の深い方で、近隣諸国から様々な料理人をスカウトしていたのです。ミリューとアバンドンはそんな当主様を満足させた腕前」


 まるでその料理を今まさに口にしているかのように、本当に一瞬のことであったが、サンチーヌは何とも言えない幸せそうな笑みを浮かべた。

 まるで仮面でも被っているように無表情なサンチーヌが、こんな表情を垣間見せるなんて意外なことだった。

 しかしサンチーヌが思わず幸せそうな笑みを浮かべてしまうほど、その噂の二人の料理は美味しいのであろう。


 私もその料理への好奇心を募らせた。出来ることならば、一度くらいこのような料理を食べてみたいものである。

 現在のこの塔の料理人は、専門的な料理人というよりも、この塔の住人の大多数を占めるゲオルゲ族の中で、ただ単に最も料理を得意としている者が勤めているといった現状である。

 決して不味いものではないが、特別に押しいものでもない。

 プラーヌスも料理にはうるさいほうで、彼には権力も財力もあって、どのような料理人でも雇える立場のはずであるが、今のところ料理人探しに費やす時間がない。

 いずれに彼は有名な料理人を雇うのかもしれないが、その目途は立っていない状況。


 「ああ、食事の話をしていれば、お腹がすいてきましたよ。少し遅くなりましたが、僕も昼食を食べてきます」


 ホールの混乱はすっかり収まった。少しくらい休憩をしても問題ないだろう。それに料理の話しをしたせいか激しい空腹も感じた。


 「どうぞ。私はもう少しここにいます。まだまだ新しい客も到着しているようですし」


 私の空腹事情など知ったことではないといった冷ややかな態度でサンチーヌは返してくるが、自分はこの現場で仕事をしているので、ゆっくりと食事休憩をしてくればいいと言ってくれているのだ。私はその言葉に甘える。


 「よろしくお願いします。それではまた後で」


 私はサンチーヌに丁寧に頭を下げて、北の塔の食堂に向かった。


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