荒野での戦い・中
「あれを破るとは、なかなかやりますねぇ……! ですが、まだ手はありますよ!!」
サタンの接近を許さないニャルラトホテプは、魔力球の散弾壁を展開しつつ、同時に練り上げていた高濃密の魔力球を放つため、サタンがいる方向へ腕を伸ばした。
【させぬわぁぁぁ!!】
魔力球の散弾壁を打ち破ったサタンは、そのままの勢いをさらに加速させてニャルラトホテプへと、竜巻と化したまま突撃し続ける。
やがて、二人の距離が縮まり、互いの間合いに入った瞬間、ニャルラトホテプは高濃密の魔力球をサタンへと放った。
カッ!!
ドゥゥ……ン……オォォォ……。
サタンの持つ竜麟が施された黄金の長剣の切っ先と、ニャルラトホテプの放った高濃密の魔力球が衝突し、閃光とともに圧倒的な風圧から生じる衝撃波と、のしかかるような爆音が辺りに響いた。
【「あの姿では、瞬時に防ぐことは難しかったようです。さすがに、あの中心部にいた想造主の初子はひとたまりもなかったはず。この戦いは私の勝利……」】
ニャルラトホテプは[黒い肌の神父服の男]という姿から別の姿である[無貌のスフィンクス]に身を変えていた。
今のところ、衝撃波によってさらに無惨な状態になった荒野にはニャルラトホテプが佇んでいるのみ。
サタンの姿は立ち込める砂煙で見えないからだ。
ニャルラトホテプが姿を転じた理由は、闇と死の神ウィニラルスから奪った高濃密の魔力は、サタンへ攻撃するためにほとんどを魔力球に込めていたため、防御に回せれなかっためだ。
ゆえに、仮にも人間を模した姿では、衝撃波をまともに喰らい致命的な傷を負う危険性が高いため、逃れるために無貌のスフィンクスになるしかなかった。
だがしかし、戦いの終着は訪れてはいなかった。
砂煙が止んだ瞬間、ニャルラトホテプがサタンの姿を見てしまったから。
纏っていた黒衣は切れ端のようにボロボロになりながらも。
紅紫の瞳を持つ王者の風貌は、魔力球の至近距離からの衝突による爆発で、煤にまみれながらも。
背から生やしていたコウモリの大翼も、穴があき飛べるかどうか危うくなりながらも。
サタンは佇んでいた。
【この程度で、貴様の勝利は確定すると思ったのか? なら、それは、思い上がりにも等しいということだ】
衝突の中心部にいながら、サタンは致命的なダメージを負うことはなかった。
即座に、魔力障壁を生み出し、圧倒的風圧から来る衝撃波を防いだから。
だが、全身を防ぐほどの障壁は張れず一部はまともに食らったのだろう。
手足の皮膚に軽い火傷があるのが証拠だ。
【貴様のその姿、それが貴様の奥の手ということか? 仮にも、光と闇の二神を殺奪したのだったな。
ククク、それなら我も姿を変えるか。真の姿にな!】
サタンはそう叫ぶと、右目にしていた黒い眼帯を勢い良く外し、全身から黒い濃霧状の闇を柱のように噴出させ、姿を変えていく。
――そう、人を模した姿から、アラスゼンを倒した漆黒の竜の姿へと――。
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催促したら……馬上鞭がきますよ?