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琥翠緑子の珈琲事件簿  作者: Lazzrose
お菓子な不協和音は紙一重?
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8/29

1. 果房こすもす

 最寄駅から徒歩15分、目的地に向かって歩く。

 SNS用の自撮りとはいえ、撮影があるため服装にも少し気合がはいっている。

 今日は、山ガールファッションを少しカジュアルに崩した服装をしている。

 紅葉も終わっており、一部雪も見えるが、あとでロープウェイで山頂まで登るのもアリかもしれない。


「こんにちは、ごめんください。ご連絡していた琥翠緑子です」


 目的地に到着し、店の奥に呼びかける。


「はいはいはい、おまたせしました。どうぞこちらにー」


 手ぬぐいで手を拭きながら店頭へ現れたのは、この店の女将さんだろうか、30代半ばの女の人だった。

 すぐに店の奥――イートインスペース――へ誘導された。


 店裏の庭を開放しており、そこから川越しに街並みと山が見える。

 秋になると山に店名にもなっている秋桜が咲き誇り、一層見ごたえがあるとのことだ。

 来るのが少し遅かったかな……。


 私はお薦めだという、珈琲セット3種盛を注文する。

 看板メニューである葛団子と、季節の和菓子が2つ、それと深煎りのコーヒーが付いたセットだ。

 カメラを取り出し、自撮りを含めた撮影を始める。

 すると、周囲がざわつきはじめた。

 撮影の許可はとっているが、TVの撮影でもなく貸し切りにしたわけではないので、もちろんほかのお客さんがいる。

 どうやら、私のことに気付いたファンがいるみたいだ。

 声の方に視線を向け、軽く手を振る。


「やっぱり緑子ちゃんだ。可愛いー」


 撮影が一段落して、ようやく提供された食べ物に手を付ける。

 まずは葛団子を口の中へ運ぶ。ぷりっとした弾力を突き破ると黒蜜タレが入っており、口の中に葛の香りと黒蜜の甘さが広がっていく。

 そこへコーヒーを一口、黒蜜の良い意味での雑味のある甘さと深煎りコーヒーのどっしりした苦さが合わさり、整えられた味へと変化する。


「すごい、これはとても美味しいですね。癖になりそうです」


 私の言葉に女将さんはとても喜んでくれた。

 他の季節の和菓子もおいしく頂き、先ほどのファンの子と交流していると、誰かが騒いでいるのが聞こえてきた。


「素材が良いのは最初だけだ。すぐに立ち行かなくなって安い化学製品に変わって味も落ちる。新参者はすぐにそういうことをやるんだ」


 ファンの子に求められたサインを書きながら

『無粋な人もいるものだ』

 ……そう思って、その時は気にしなかった。

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