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琥翠緑子の珈琲事件簿  作者: Lazzrose
王様の影は意外な場所で
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14/29

1. 街ブラロケ

 ロケ当日。

 天気は良好で、冬にしては温かいがまだまだ寒い気候の中、商店街の入り口には共演者たちが並ぶ。

 商店街はイルミネーションで飾られ、どこからかクリスマスソングが流れている。


「緑子ちゃん、こないだぶり。涼音ちゃんはこの前のイベントぶりかな? お久しぶり」


 マッソォさんが白い息を吐きながら元気よく挨拶をしてくれたので、お辞儀をして返す。


「あのイベントメンバーでロケできるなんて嬉しいです」


 天真爛漫な笑顔で応える三守さんだが、あのイベントの成功があったからこそ、彼女の事務所がこの座組を提案してきたことをサエさんを通じて聞いている。


「ほな、はじめよかー」


 MCの木村さんが声をかけ、撮影の邪魔になる手袋やコートを各人マネージャーに預け、番組収録が始まった。

 木村さんが適度に場の雰囲気を温めてくれて、商店街を進んでいく。

 ある程度進み、商店街の中心あたりにさしかかったところで、木村さんが企画のタイトルコールを行う。


「商店街で好きなものを買ってきて! みんなのランキングーーー」


 これはMCも含めた各人が商店街の店から好きなものを購入してきて、見せ合い、誰の買ってきたものが一番良かったか決めるというものだ。

 たいてい食べ物を選ぶことが多いのだが、それは視聴者が買いやすく商店街に足を運んでもらいやすくする意図も隠れている。


「それじゃ、みんな買ってきて!」


 木村さんの掛け声とともに、各人がバラけて買うものを探しに走る。


「アーケードの外側に屋台が並んでましたけど、あそこも確か範囲でしたよね」


 スタッフさんとアイコンタクトで確認し、屋台街へ向かう。

 アーケードの外になるため風が強く寒い。

 一足先にマッソォさんが来ており、撮影している屋台を見て(らしいな)と笑ってしまった。


「マッソォさんを見つけました。彼らしいチョイスですね」


 とカメラに話しかけると一瞬マッソォさんの方を映す。

 これは後でスタジオ収録の際に流すVTR用に使うかもしれないということで撮っている。

 私は、屋台で定番の唐揚げや焼きそば、たこ焼きなどの総菜系を通り過ぎ、クレープや蒸かし饅頭やジェラートなどのスイーツ系の屋台が並ぶ場所まで移動してきた。

 ふと、気になった甘酸っぱい香りに惹かれて顔を向けると、パイを売っている屋台を見つけた。


雪花弁ゆきかべん……珍しい店ですね」

「いらっしゃいませ。ホールでもカットでも対応しますよ」


 屋台のお兄さんが声をかけて


「お店の名前からして雪の結晶をイメージしていらっしゃるんですか?」

「そうですよ。なので、ホールだと見栄えが良いと皆さんおっしゃってくれます」


 ここで、スタッフさんに相談する。


「予算的にはカットを2,3個だと思いますけど、見栄え的には1ホールですよね。どうします?」

「悩ましいですけど、ホールの撮影だけして買うのはカットにしてください」

「わかりました」


 編集点を意識して、お兄さんとの会話に戻る。

 1ホールの紹介をしつつ、カットの物を3つ購入した。

 2つをさらに半分にしてみんなで食べ、1カットは物撮りで使う用になる。

 お兄さんに、ロケの後1ホールを買いにくることを告げ、集合場所へ戻ることにした。


「さて、皆さん好きな物は買ってきましたか、では一斉にどうぞ!」


 木村さんの進行に従い、各々買ってきたものを見せ合う。

 マッソォさんは焼き鳥の屋台で買っていたささ身の串焼き、三守さんは生絞りのフレッシュオレンジジュースを、木村さんはチョコチャンククッキーを買ってきていた。


「なんか涼音ちゃんと篠山はえらい健康的なもん買ってきたなー」

「ボクと言えばプロテイン、プロテインと言えば鶏肉ですからね。ってか木村さんのは無難すぎじゃないですか」


 マッソォさんが対抗して木村さんが買ってきたものを弄る。


「アホいえ、結局こういうのがいっちゃん美味いねん。とりあえず順番に食べていこかー」


 マッソォさんのささ身の串焼きは柚子塩で味付けされており、パサパサし過ぎずジューシーで美味しかった。


「これは、とても筋肉によさそうですね」

「緑子ちゃん、無理せんでええで」

「モクと緑子ちゃんはアスリート仲間なので、筋肉については意見が一致するんですよ」


 私の感想にフォローする木村さんだったが、マッソォさんがさらにフォローする形で話を盛り上げる。

 次に、木村さんのクッキーを頂く。

 バターの香りが高く抜け、口の中に甘みが広がる。


「これ、生地に拘ってますね。とても美味しいです」

「そやろ、こういうのが美味いと思っててん」


 次に三守さんのジュースを頂く。

 喉が渇いてきていたこともあって、とても美味しく感じる。


「スッパ、けどアッマ。美味しいわー」

「酸味と甘みで肉体が回復してますねー。筋肉も喜んでいます」

「三守さんのジュース、とても美味しいです」


 三守さんが選んだジュースが大絶賛される。

 この前のイベントの時にも思ったが、彼女の物を選別するセンスは高い。


 最後に、私が買ってきたラズベリーパイを食べる番になった。


「緑子ちゃんのパイ変わった形で美味しそうですね」

「ホールだと、雪の結晶をイメージした形になってて、こういう感じです」


 とスタッフさんが撮影した写真を見せる。

 スタジオで見るVTRでも差し込まれるだろう。


「ほぅー、面白い形やね。それでは、一口」


 木村さんがカメラを誘導してパイを口の中へいれる。

 続いて私たちも味わう。


 口の中へ入れた瞬間、衝撃が走った。


(王様のラズベリーだ!)


 気高い酸味の中に、じんわりと体中に染み渡るような甘みで胸が震える。

 しかし、少し違和感も感じた。 


(キャンディとパイの違いからくる違和感? なんだろう。確かに同じ感じがするんだけど、わずかに違う)


「美味いなー。篠山、アメリカで活動してた時あるやろ? 本場と比べてどうや?」

「いや、ボクが行ったのは筋肉留学ですから、そういうのは食べてませんよ。でも、これは美味しいですね」

「私、よく緑子ちゃんのSNSみてますけど、紹介されているお菓子どれも美味しいですよね」

「ありがとうございます」


 感動に打ち震えていた私だったが、なんとかお礼を返すことができた。

 そして、誰のが一番良かったかを決める際に、私、マッソォさん、木村さんが三守さんへ投票。

 三守さんは、私を選んでくれた。


 ロケが終わり、しばらく自由時間のあとロケバスで局へ戻る流れになった。

 私は三守さんと連れ立って屋台街へ戻り、ラズベリーパイを購入した。

 途中で、木村さんが買ってきたクッキーの店も見つけたので、それもひと箱購入する。

 彼が言う通り、こういうのは無難で美味しい。


「どっちも、ほんとに美味しかったですね」

「はい。……また来たいですね」


 三守さんが笑い、私も軽く頷く。

 しかし今、一番気になってしょうがいないのは、手元のラズベリーパイだ。

 王様の秘密に近づけるような気がして、心が震えている。


(このパイを追えば近づけると良いな)


 私は小さく息を吐き、ロケバスへ歩き出した。

 バスの席に座った時、ふと気づく。

 木村さんが買ってきたクッキーと、私たちが買ってきたクッキー。

 パッケージの色が、少しだけ違って見えた。


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