3 病弱な公爵様と貧民街の子どもたち
◇◇◇
「あの、実は、お父さまは今体調を崩していて、ベッドから起き上がれないんです。何とか今日のためにお迎えの準備をしようと頑張っていたのですが、直前で倒れてしまって。皆でなんとかベッドに運んだところだったんです」
「まぁ。そうでしたの。では、無理なさらずに、ゆっくりお休みになったほうがよろしいわ。わたくし達はおいとましますから。ね?お父さま」
「そうだなぁ。また日を改めて伺うとするか」
しめしめ。さすがのお父さまも、急病ならばやむなしと考えたようですわね。
ところが、
「あの、実はお医者様をお呼びするお金がなくて……もし、お父さまに何かあったら、僕たちどうしたらいいか……」
と、目を潤ませてくる。
え?空耳かしら?医者に掛かるためのお金もない?王弟殿下なのに?どういうこと?この国はいつからそんな貧乏国家に成り下がったのかしら?
「それはいけない!では、すぐにうちの主治医を連れてこよう。アデリーナ、その間子どもたちと公爵様を頼んだぞ!」
「は?」
「幼い子どもたちだけで看病させるなんて、心配だろう?」
「ええ、まぁ、それはそうですけれど……」
「そうだろう、そうだろう。では、父さまは主治医を連れてくるからな!それまでしっかり公爵様のお世話をするんだぞ!」
……なんだか、物凄くウキウキしながら帰っていきましたわ。大体、貧乏なうえに病弱とか、不良物件もいいとこじゃなくて?わたくし、薄幸の美少女を愛でる成り金親父みたいな趣味はございませんことよ。
「あ、あの、お母さま、お父さまはこちらです」
(ん〜……まだお母さま、ではありませんけど。まあ、結婚が決まってしまえば、そのうち嫌でも呼ばれることになるのですから、いつそのこと、最初から慣れておいたほうが良いのかもしれませんわね)
「……では、ミハエル、案内してくださる?」
「はい!」
わたくしの言葉にぱぁーっと顔を輝かせるミハエル。ぷくぷくのほっぺにサラサラの金髪。天使のような水色の瞳。不覚にも、可愛いと思ってしまいましたわ。
「ミハエルは、どうしてルミエール公爵様の養子になったんですの?」
思わず口から零れ落ちた言葉。
わたくしの言葉にミハエルはピタリと足を止めると、自嘲気味に微笑みました。
「僕は……貧民街で、お腹が空いてうずくまってた所を、公爵様に拾っていただきました。親に捨てられて、実の親は生きているのか死んでいるのかさえ分からない。僕たち兄弟は、皆、似たような境遇の子ばかりです」
「……そうなのね」
ルミエール王国は、お祖父様の代から飛躍的な経済発展を遂げましたけれど、それでもなお、貧民街を無くすまでは至っていませんわ。
親を亡くした子どもたちや、親のいない子どもたちに対する法の整備なども間に合っていない状態で、こうした子どもたちは、国や教会が運営する孤児院に行くことが多いですけれど、十分な運営資金があるとは言えず、施設の運営は金持ちの寄付に頼らざるを得ない状況だとか。
我が家も毎年莫大な寄付金を納めてますけど、孤児院を出て、空き家や路地裏で生活するような子どもたちも多いと聞きますわ。全ての子どもたちを救うことは難しいですわよね。
「あの、僕が貧民街出身と聞いて、不快に思われましたか?」
つらつらと考え事をしていると、ミハエルが思い詰めた顔で言ってきたので、そっと頭を撫でてやりましたわ。
「いいえ。生まれは自分で選べませんもの。どんな人間になるかは、これからの生き方次第ですわ。他人の評価なんて気にせずに、自分で自分を誇れるようにおなりなさい」
「はい!」
大体わたくしだって、別に努力してお金持ちになったわけじゃありませんもの。たまたまお金持ちに生まれたから、その環境に適応して生きてきただけで。
けれども、お金持ちで居続ける努力は惜しみませんことよ!




