12 孤児院での生活
◇◇◇
「いらっしゃい、エマ。待っていたわ」
次の日の午後。わたくしはエマをお茶に誘うことにしました。
女の子の好きそうな、色とりどりのお菓子に、美味しい紅茶を用意して。けれど、エマの表情は固いまま。
「なんの用ですか」
わたくしと目を合わせようともしません。
「わたくしに、あなたたちのことを教えて欲しいの。まずはエマ、あなたからよ」
澄ました顔で答えると、エマはプイッと横を向きましたわ。
「別に……話すことなんてありません」
「……そう。では、質問を変えようかしら。エマは、なぜ孤児院で働きたいの?」
自己紹介のとき、将来の夢は孤児院で働くことだと答えたエマ。なぜ孤児院なのか。その理由が気になりましたの。
「……大人が信用できないからです」
「そう。あなたは、孤児院で育ったのかしら?」
わたくしの言葉に小さく頷くエマ。
「孤児院では、信用できる大人に出会えなかった?」
「……」
答えを聞かなくても、エマの態度で分かりましたわ。孤児院で辛い目に遭い、逃げ出した子どもの話は聞いたことがあります。けれども、逃げ出した所で子ども一人で生きていくのは厳しく、そうした子どもたちが自然と集まって助け合いながら生活していく環境ができるのですわ。
子どもでもできる仕事を見つけて日銭を稼ぐこともあれば、物を盗んだり、お金を盗んだりすることも。こうした子どもたちが集まる場所が貧民街ですわね。
「エマは、ルミエール公爵領の出身かしら?」
わたくしの質問に、訝しげな目をしつつ、こくりと頷くエマ。
「もしかして、他の子どもたちも?」
「そうです、けど……それがなにか?」
「王都の孤児院には、行ったことがないのよね。良い機会だわ。将来孤児院の仕事に就きたいのなら、孤児院の視察に行きましょう。他の子ども達も一緒にね」
「えっ……」
「準備ができたら呼ぶわ」
「今からですか!?」
「ええ。何か用事でもあったかしら?」
「特にないですけど……」
「では決まりね。アン、子どもたちの準備と馬車の手配をお願い。ジェームスは先に孤児院に行って、院長に話を通してちょうだい」
「「かしこまりました」」
テキパキと動き出す使用人たちを見て、諦めたように肩を竦めるエマ。
「あら、エマは嬉しくないのかしら?」
「嬉しい?私がなんで……」
「将来働くところがどんな場所なのか、知っておくことは良いことでしょう?」
「……孤児院がどんな場所かは良く知ってるわ。あなたなんかより、よっぽどね!」
キッと睨みつけられてしまいましたわね。
「そうね。でも、エマが知っているのはルミエール領にあった孤児院でしょう?王都の孤児院のことは知らないでしょう?」
「孤児院なんて、どこも一緒でしょう」
「一緒かどうかは、その目で見てから判断するべきね」
「……分かりました」
「では、またあとで会いましょう」
「はい……」
では、わたくしも着替えませんとね。




