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ゲーム実況による攻略と逆襲の異世界神戦記(アウタラグナ) 作者:かすがまる

第1部

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09 神官は勇躍し看破する、この地へ来たる白き軍勢を

 火の赤は情熱の色彩。
 ワタシを通じて世界は熱される。輝きを帯びる。


◆◆◆


 やあ、物見櫓ものみやぐらへ登った甲斐がありました。

 来ましたね。

 森から湧き出ずる様は不気味で魔物のそれと大差なく、隊列は魚群を思わせて原野の不埒な一塊、朝日を背に影を抱くところなどいかにも不吉でいわば瘴気魔風。

 エルフ。

 トカゲの化物を神と崇める白き者ども。風雨の尖兵。大陸東部を樹海に沈め、魔物の多様性とやらを保護し、人間を肉餌のように扱いもする不倶戴天の敵。青白二色の旗を仰々しく掲げるなどして。

 数は六百葉といったところですか。付き従う眷属は、地には銀豹が三百頭、空には風鷹が五十羽ほど。他にトカゲやカエルも潜ませているでしょうね。

「多い。これは」

 ウィロウ卿の感想は端的にして正答。

「ええ、葉数にしてこちらの予想の五倍以上ですからね。陣容も眷属を惜しまない重厚さ。虎乗りも二将いる様子。明らかに、魔物へ対処するための軍ではありません。いわんや人間をや」
「んじゃ、ありゃあ、対ヴァンパイア部隊かよ……初めて見たぜ……」

 オデッセン殿の反応こそ民の普通。おののきよりも先に驚き。さもありなん。

「エルフの戦闘種は一葉で人間の一個小隊に相当します。それが六百。単純に計算すると、人間の師団から軍団規模の戦闘力が来襲したことに等しいわけですね」
「おいおい。やべえじゃん」
「……将の片方、使徒だ。外交の席で見た憶えがある」

 使徒。まさか。

 いや、ウィロウ卿は若くとも戦歴のある武門。敵将を見誤るはずもありません。虎乗りは雌雄それぞれ。威は雄の方。しかし眷属の群がり方からして雌の方でしょうね。遠目にもわかる服装の華美。なるほど。

「嘘だろ。あんなチビが独りで砦を落としたってのか」
「『水底みなそこ』は長身の雄だった。あれとは違う」
「脅威度は知れませんが、エルフ三竜の一角ということであればさして違いもありません。いやはや、豪勢なことですね」

 吉事が大なれば、凶事もまた大なり。

 昨晩のことが大きく影響したものか、それとも別な何かが作用しているものか。いずれにせよ事態が強く大きく動くこと必至。

 つまりは、働きどころということですね。

「兵を散らすぞ。もはや誇示する意味もない」
「ええ、いっそ示弱の計としましょう。交渉はお任せを」
「急報とか、出しといた方がいいんじゃねえか?」
「空の目がある。出せて夜だが」
「まあ、焦ることもないでしょう。いよいよとなれば、クロイ様だけでも砦へ逃がせればよいのですから」
「……そりゃ、最悪の時はな」
「最悪、か。今更ではある」
「まさにまさに。最悪など呑み慣れた苦汁。伏せ慣れた硬寝床」
「けっ、とんでもねえ話だぜ。耳長め、今に焼いちゃる」

 さあ、今度はこの急な梯子を下りなければ。

 ウィロウ卿は軍の指揮へ。オデッセン殿は民の避難所へ。僕はいそいそとエルフの吹き寄せて来る東の門へ。唇を舐めつつ、笑顔に。首を回しつつ、滑稽に。

 おや、どうにも眩しいと思いきや。

 クロイ様は、そちらでしたか。崩れた庁舎の上、それでもひるがえる赤い旗のところ。人間を誇るその色へ御髪の黒を絡ませて。偉大なる気配をその背に負って。

 君よ、そこよりご覧あれ。

 神よ、高きよりご照覧になられませ。

 この地より始める大戦おおいくさ、人間の逆襲、そのかしこくも晴れがましき初撃は我が舌鋒にて務め申し奉る。

「やあやあ、これはこれは! 輝ける世界を統べる者にして大自然の調停者、魔法の深奥を解する万物の霊長、真白の笹葉のごとき耳麗しき御方々! ひんがしの万緑より、遠路、かかる荒漠の地へいらっしゃるとはいかな御用向きでありましょう!」

 うふ、止まりましたね。鷹すらも留めて、結構なことです。

 さもあれ、今の修辞は公文書に用いられている文言。即ち、この地に外交を知る者がいるという証左。つまりは開拓地だからとおざなりな行動をとれば問題が生じるという警告。

 聞き捨てにはできませんでしょう?

 事を大きくなれば、西のヴァンパイアは想定の内としても……うふふ……怖い怖いトカゲの化物の耳にも届くでしょうからねえ? 困りますよねえ? 人間領域への先制的な侵攻侵略は、これを行わないものとすると誓っていますものねえ?

「出迎え大儀」

 虎乗りの雄の方が出てきましたか。水灰色の戦装束、長白竹の水筒、古木の短杖。矢筒なし。推定するに近接水使い。外見は人間でいうところの中年。無表情。武威あり。いかにも叩き上げという風体ですね。

「名乗れ」
「当地の開拓司祭を務めております、フェリポでございます」
「アルクセム二等帥である」
「御名御役を拝し、恐縮至極」

 恭しく頭を垂れまして、そっと喜悦を隠しましょうか。

 隙、早々とあり。

 三竜が出張っておきながら、その副将が中級将校とはいかにも見劣りします。なんとも珍妙な編成。さりとて六百という兵力は中級将校に相応しいもの。ただし主将であるのなら、という数。

 さては、大兵力を用意できなかったのでしょうか。できない事情が隙です。

 または、上級将校に手隙がいなかったのでしょうか。これもまた隙でしかない。

 あるいは、三竜参加は予定外でしょうか。性急さも強引さも、大いに隙ですね。

 どのひとつ、あるいは二つ以上にせよ、指揮系統のいびつさがさらにどれだけ歪むかというだけのこと。なんと素晴らしい。

「我が軍はエウロゴンド共和国評議会の議決事項に基づき作戦行動中である。進駐地を用意せよ」

 うふ、権威で押し通そうとしますか。実にエルフらしい判断。エウロゴンドという言葉の響きを、絶対的な正義かなにかと捉えていて……笑止千万。

「お断りせざるをえません」

 眉がピクリと動きましたよ、中年二等。

「何だと?」
「お断り、せざるをえないと申しました」
「……弁明せよ」
「魔物の襲撃を受けたばかりなのです。辛くも追い払ったものの、これこの通り、柵倒れ家屋崩れて瓦礫粉塵の散らかる有り様。陰には未だ遺体残り、それを食む魔物の足音も聞こえてくる始末。とてもとても、貴き御方々のご来訪をなど……」

 昨晩のさぎとトカゲは、さて、どこまで偵察しえたのでしょうね。それを計るために、ここは煽りませんと。

「整えよ。そしてこの地の長を参上させい」

 断じて命ず。なるほど。だいぶ見られましたか。戦闘終了と兵力再編はまず確実に。あとは内部への侵入を許しているかどうかですが。

「おお、なんということ。まっことまことに心苦しくも、それらのご要請にもまた、お応えできかねます。それと申しますのは……」

 好機。六百葉の兵装を確認しましょうか。嘆かわしさを身振り手振りして……ほほう……矢の数が統一されていませんね。やはり矢を消耗している。小隊なり分隊なりで譲り合うように数を平均化しましたか。

「もう、それはもう、魔物の群れは大規模なものでした。しかも狂猛この上なく」

 つまり既にして戦闘行動が行われたということ。一部の兵士が矢を射かけるだけで済むような、限定的で危険度の低いものが。

「死闘に次ぐ死闘、兵も民も死傷者数多。当地の長たる開拓軍尉もまたトロールを相手にして重傷を負い―――」

 例えば、そう、勢子よろしく魔物を炙り出すような軍事行動。

 けし掛けて群れを成さしめたそこへ、水毒の魔法≪狂気≫。そして魔物は狂奔し、森の外へ。人間の土地へ。魔物津波とでも名付けましょうか。しばしば起きる疑惑の魔物襲撃、それを大規模にしたものとして。

 まあ、これは予想通り。裏付けがとれただけのことです。

「―――昨夜未明、手当虚しく亡くなりました。無念でございます」
「虚言を。あれが長であろう」
「おお、あれなるは開拓軍尉()()です」

 なるほど。偵察は襲撃の翌日辺りからですね。しかも屋外からのみ。

「本来は開拓司馬ですので、あのように残兵の指揮を執っております。本来はご挨拶すべきところですが、この非常の時、足下へ魔物鼠が馳せゆくようなご迷惑をおかけするよりはと無作法を働いております」

 ふむ。魔物津波の経過と結果は確認したものの、さして周到な計画ではなく、まさに中級将校が実施する規模でしかないと。本来はその程度であったと。

「こりゃ、アルクセム」

 おおやあ? これはこれは? この幼な声は?

「いっつまで待てばよいのじゃ。わりゃは眠いのよ。早う落ち着かせてくりゃん」
「……殿下、いま少し」
「えぇ~」

 殿下。血統支配なきエルフにおいて、それはまさに三竜への敬称。

 見た目は声の通りの女童、服装は華美にして布の多い仕立て、手には扇で武装なし。恐らくは風使い。そして三竜。あれが。守護存在の特別な加護を受ける者……すなわちエルフの使徒。

「獣らも腹を空かしとるのよ。早う早う」
「……司祭、挨拶儀礼はいい。まずは糧食を供出せよ」

 うふはっ。短期計画で兵站の心許もなし。なるほどなるほど。

 我、弁舌をもってする強行偵察を完遂せり。おおよそは察せられました。予定通りであったろう魔物津波の発生から、予定にない今に至るまでの流れが。

「疾く、励ませていただきます」

 幸いかな。つけ入る隙の、なんと多きこと。

 足取りが弾まないよう気をつけなければなりませんねえ。
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